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頼むから、「まいんちゃん」の役はやめて
これは高校2年生の時の話。自分の記憶力が乏しすぎて忘れかけているが、インパクトに残っている出来事なので、今のうちに書き残しておこうと思った。そして、また文字数が多くなってしまった。
文化祭。
それは体育祭と並んで、高校生活の一大イベントだ。
僕の高校は、周りを見渡せば山ばかりの学校だったが、そんなド田舎の高校でも文化祭はあった。
僕の高校の文化祭は、秋に毎年開催されていた。たしか11月ぐらいだったと思う。文化の秋。
そしてこれもあるあるだと思うが、文化祭ではクラスの出し物があった。
ステージで演劇をやったり、教室でお化け屋敷を作ったり、屋台で食べ物を提供をしたりと、クラスによって様々だが、クラスで一致団結して何か出し物を催す。
1つのクラスにつき、2つぐらいの出し物を出していた気がする。クラスが2つのグループに分けられ、それぞれでアイデアを捻り出し、出し物を考えた。
僕たちのグループは、動画を作ることになった。教室にプロジェクターとスクリーンを置いて、そこに自分たちの作った動画を映す。
当時、YouTuberが台頭してきたこともあって、動画を出し物にするのは自然な流れでもあった。
クラスの中心に位置する人たちがその案を出し、クラスの端っこにいた僕と友人たちは、それに付き従うような形で賛同した。
どんな動画を作ることになったのかが、読者の気になるところだろう。もしかしたら記事のタイトルからピンときている方も、もういるかもしれない。
答えを申し上げると、僕のいたグループは『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』を真似た動画を作ることになった。
『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』は、NHKのEテレで2009年から2013年まで放送されていた、子供向けの料理・食育番組。
僕たちがちょうど小学生ぐらいの時に、放送されていた。
今調べてみると、この主人公の「まいんちゃん」は福原遥さんで、ひとつ前の朝ドラ「舞いあがれ!」の主演を務めていた方である。スターの階段を、しっかり駆け上がってる。す、すごい。
正直、「クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!」の存在は、それまで全く知らなかった。そもそもNHKのEテレを、僕はそんなに見てなかったし。
だけど、クラスを取り仕切る中心メンバーたちが、いつの間にかもう話をとりまとめていた。
そしてクラス全体が、もうその流れに乗り始めていた。こうなったら最後、流れに逆らおうとする者も現れない。
結局僕たちは、この『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』案を、甘んじて受け入れることとなった。よく分からないまま、賛成した。
そしてこの後とんでもない頼み事をされるなんて、知る由もなかった。
動画の方向性が決まった後、さっそく『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』を見本として見せられた。
番組の中で『キッチンはマイステージ』という曲が途中で流れ、「なるほど、これまで知らなかったけど、意外と良いメロディーと歌詞じゃないか」と思った。
この曲に出てくる「たまの失敗はスパイスかもね」というフレーズも、気に入った。
子供向けでもあるし(文化祭では地元の子供達も見にくる)、キャッチーな動画になりそうだ。
だけど『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』の「まいんちゃん」は、誰が担当するのだろう。
『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』を実際に見てもらったら分かるが、高校生の年頃で「まいんちゃん」を演じ切るのはなかなかのハードルだぞ。
そんな疑問が浮かびながらも、『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』を見終えた時、文化祭を取り仕切る女子たちから、こう告げられた。
「〇〇(自分の名前)くん、まいんちゃんの役やってくれない」
えっ、、、
いや、無理無理無理無理無理。
絶対にやりたくない。生きているといろんな頼み事をされるが、この頼み事だけは絶対に無理!
てかなんで、男の自分がやらないといけないんだ。きつすぎるだろ。女装なんて無理(趣味で楽しんでいる方は別として)。きつすぎる。語彙力無くなってもう、「きつい」という言葉しか出てこない。
正気で言っているのか。もし仮に自分が「まいんちゃん」の役割を全うできても、その動画がたくさんの(もちろん地元の方にも)人に見られるんだぞ。
黒歴史確定じゃん。同窓会などの席で、その黒歴史を何度も掘り返されるのが目に見えている。
どうしよ。どうしよ。どうしよ。
女子たちがお願い顔で、こちらをじーっと見ている。平然とした様子で、無茶振りをふっかけてくるのが本当にこわい。
なんとかしてこの状況を切り抜けたい。じゃないと、人間としての尊厳を失ってしまう。
ちょうどその頃、ワンダーフォーゲル(略してワンゲル)部の近畿大会が近づいていた。
ワンダーフォーゲル部は、山岳部のようなものだと思っていただきたい。この部活にも、れっきとした登山大会なるものが存在する。
そしてなんとこのワンゲルの近畿大会が、奇跡的に文化祭の日程と丸かぶりしたのだ。
僕は近畿大会の代表メンバーに選ばれていたので、文化祭よりも近畿大会の方が必然的に優先される。
つまりは、「まいんちゃん」の役から逃れられるのだ。この時ほど部活に真面目に取り組んでいてよかったと、思った日はない。
ああ、神は僕を見捨てなかった。
嬉しそうにしているのをばれないように気をつけながら、そのことをさっそく女子たちに伝えた。
「そうなんやね、文化祭に出れないのは残念やけど、大会がんばって」
その日から僕は、文化祭のことからめっきり離れ、登山大会だけに集中することになった。
もう「まいんちゃん」のことは考えたくもなかったから、クラスから聞こえてくる文化祭の話を、意識的に耳から遮断していた。
文化祭当日は、大阪の金剛山を同じ隊の人と汗水垂らして登っていた。(登山大会では、4人で1つの隊を作って登る。)
大阪の綺麗な街並みが見渡せる、開けた丘に出てきた時のこと。冬が近づいていることを感じさせないぐらいエネルギーに満ちた色鮮やかな草原が、そこにはあたり一面に広がっていた。
僕はそこを歩きながら、こんなことを考えていた。
「まいんちゃん」の代役は誰がやったのだろう?
そして、もうひとつ。
どうしても無理な頼み事は、しっかり断ろう。
今回みたいに、運良く予定が被らなかったとしても。
絶対にイエスと言えないなら、それはすなわちノーであるみたいな言葉をどこかで見た。ちょっと極端ではあるけど。
大事なものを守るために、断ることも大切。勇気もいるけどね。
そのあと文化祭の出し物がどうなったのか、こわくて聞けないまま今日に至りました。もしかして違う方向性の動画を、作ることになったのかもしれません。そしてまたいつかワンゲルのことについても、書こうと思います。この前さぼてん主婦さんが、ワンゲルについて記事で触れらていましたね。
僕も兵庫県出身なので、六甲山の話とか共感しまくりでした。
六甲全山縦走は僕のいた高校のワンゲルも、無理矢理やらされましたよ。あれ、足が本当に棒みたいになるんですよね。
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