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太宰のリズム

太宰治を避けていた。

日本の文豪のひとりだけど、内容が暗そうという理由だけで読むのを避けていた。


太宰治について、どんなイメージを持っているかといえば、


・『人間失格』に代表されるような、主人公が破滅していく作品が多い
・メンヘラっぽい
・存命のころから作品が認められて、売れっ子作家だった
・女性視点の作品に定評がある
・自殺未遂を繰り返した(最後は本当に入水自殺をした)
・藤井風みたいな顔


などである。あくまで僕が持っているイメージなので、真実とそぐわないこともある。

まとめていえば、「稀有な文才を持ちながらも、精神的に不安定で暗い作品が多く、売れっ子作家だったのに自殺未遂を繰り返した、藤井風に似た男」だ。

勝手なイメージを作り上げてしまい、申し訳ありません、太宰さん。


こんな太宰像を自分は思い浮かべていたのだけれど、その思い込みにとらわれず、ちゃんと太宰の小説を読んでみようと思った。

初期・中期・後期の作品があるわけだけど、中期は暗い物語が少ないということをネット情報で知ったので、その中期に書かれた新潮文庫の『きりぎりす』を読むことにした。表題作の「きりぎりす」をはじめ、そのほかの短編も入っている文庫本だ。

気になった作品からまず読もうと思い、目次をながめていると、「畜犬談」というタイトルが目にとまった。


畜犬?犬に恨みでもあるのかな?

タイトルにひかれたので、この「畜犬談」を読み進めていくことに。

主人公は犬のことが大嫌いという設定で、ある日、練兵場で野良犬のポチと出会い、話が進んでいく。

この物語の詳しい内容、結末についてはここでは書かない。けれど、これだけは伝えたい。


すごく読みやすい。

そしてすごくおもしろい。


「太宰治って、こんなユーモラスな文章も書けるんだ」と思った。そして、文章のリズムがとても心地よい。流れるように読める。ところどころ馴染みのない用語や表現があっても、するするっと読めてしまう。

さすがです、太宰治先生。僕は、あなたがこんな面白い文章もお書きになる方だと、存じ上げていませんでした。あなたが歴史に名の残る文豪である理由も、わかります。そしてこの文章のリズムのよさは、何をどうしたらできるんでしょうか。

「そんなん、センスっしょ」とか言わないでね。いや。聞こうと思っても、もうこの世にいないから聞けないんだった。


とりあえず申し上げたいことは、「畜犬談」という作品、ものすごくおもしろかったです。別の作品も、また今度、読もうと思います。


すっかりファンになってしまったようだ。

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