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憧れのショベルカー 昔話03

 ある日、モーちゃんの家の前の道路にショベルカーがやってきて穴を掘りだした。モーちゃんの家は表通りに面しているのだが、3回も穴を掘りに来たのだ。
 モーちゃん家の表通りに面した窓から外を見るのが好きだった。まだ生垣も小さくて人や車の往来がよく見えていた。
すると、いきなり見たこともない機械がやってきて、その足元から大きな鉄の柱が飛び出して地面にめり込んでいく。固定した後、穴を掘っていった。
初めて見る出来事だったし、小さかったので何のための穴なのかなんてわかりゃしなかった。
 2回目は、黄色い大きなキャタピラのクレーン車。アームの部分が黒い鉄のはしごみたいになっていてその先にバケットがついている。それがアームを伝わるワイヤーで動かされて穴を掘っていく。動くたびにクレーン車自体もゆさゆさ揺れ、排気ガスを激しく出しながら穴を掘っていく。なんだかすごく不器用に頑張っている感じだった。
 そして、幼稚園年長の時、タイヤで走るショベルカー(油谷TY45)が来た。左右の側面から地面を抑える足が下りてかっこよかった。何よりタイヤで走り、軽々と穴を掘っている感じととんがったボディの部分が素敵だった。
 もうこの年齢くらいになると下水道工事であることがわかっていた。掘った穴に土管をつないで埋めていること、ところどころ地上に出る部分(マンホール)があることも理解できた。
 ショベルカーが地面をガリガリするところから掘り始め、やがて粘土の層になっていく様子が面白かった。掘っているショベルカーも、土を運ぶ小型のダンプも、そこで働くおじさんもみんな格好良かった。工事が家の前を過ぎるとわざわざ工事現場まで行ってショベルカーの活躍を見ていた。
 ある日、友達のタケちゃんの家の近くの工事をタケちゃんと一緒に見ていたことがあった。工事見物仲間が居るなんて大変珍しいことでちょっと落ち着かなかった。そこでは黄色いキャタピラのクレーン車が土を掘っていた。相変わらず全身を震わせ不器用な感じで作業をしている。そのうち穴を埋め戻す作業に入り、黄色いクレーン車が土留めの鉄製の杭をワイヤーで引き抜いていた。ある杭を引き抜く際にワイヤーが大きな音とともに切れ、機械も地面も大きく揺れた。モーちゃんたちは、ちょっと驚いたが別に事件でもなかった。切れたワイヤーを見て、二人で「ワイヤーがわやになった」と何度も言って笑っていた。このときは、子供心に機械を操るおじさんの「どっか行け、クソガキ」というオーラを感じていた。
 モーちゃんの興味の主役はあのタイヤのショベルカー。だから頭の中心にはいつもショベルカーがいた。砂場では自分の腕をショベルカーの動きを真似して穴を掘っていた。
 そんなタイヤで走るショベルカーが大変なことになったことがあった。
 ショベルカーが、モーちゃん家の北隣の家の前で作業をしている時に自分の掘った穴に落ちたらしい。ウルトラマンが怪獣を倒そうとしていた時だから日曜日の7時半前。外が騒がしくなったので、父さんと母さんと一緒に庭に出てのぞく。母さんが状況を父さんに聞くと、「穴にはまったようだ」と言う。モーちゃんには全く見えず、近くに行こうと訴えるが「危ないから」と全く取り合ってくれない。仕方なく母さんの尻にくっついて道路からの光を眺めていた。あの格好いいタイヤのショベルカーが壊れてしまったのではないかと心配だったが、翌朝は何事もなかったようにきれいになっていた。
 その後、工事は中通りの細い道へ進んでいくことになる。その頃になるとモーちゃんにとって、工事はそれほど珍しいものではなくなってしまった。

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