Empty promises

「横須賀に来ていただければ、ご案内しますよ」
そんな彼女の最初の社交辞令を鵜呑みにせず、愛想笑いで僕はごまかした。何かにつけて『○○ハラスメント』と言われる昨今。女性の言葉に過敏になっていた僕にできる唯一のリアクションが、愛想笑いだった。

彼女の地元であり、職場がある横須賀…行ったことがない僕を案内してくれると言うが、果たして信用して良いのだろうか。

また別の日に、僕がよく観るテレビ番組『町中華で飲ろうぜ』の話になり、横須賀の町中華を検索して『案内してくれるんでしょ?』と僕の問いに、『他にまわる場所もリサーチして、最後の町中華までお供しますよ』と返事をくれた。それでも警戒心の強い僕は、2回目にして最上級の社交辞令として受け止めた。

僕がここまで警戒心を強めるのには訳がある。
前職が女性の多い職場で、散々女性の怖さを目の当たりにしたからた。冤罪とも取れるセクハラ、女子更衣室での盗難事件など…さらには、プライベートでも妻と価値観があまりにも合わず離婚し、女性不信になってしまったのである。

年が明け、約1ヵ月と3週間ぶりの1/16に彼女と再会した。彼女は、機器設置業者で我がオフィスに昨年の10月中旬から週に何日か来ている。その作業も約3週間後の2/6には終わる。
工程表を確認しながら彼女に『何回かお会いしたら、すぐに終わってしまう感じですね』と何の気なしに話した。彼女から『寂しいですね…横須賀には来ないんですか?』と返答が来た。

『ごめんなさい…社交辞令で言ってくれてるとばかり思ってました。ホントに一緒に行ってくれるんですか?』との問いに、『はい、もちろん』と。そしてLINEの交換をした。

横須賀に行った際、彼女が立てた大まかなプランはこうだ。
『ネイビーバーガーを食べる→猿島に行く→横須賀をぶらり散策してから、夜に町中華』…といった流れのようだ。

彼女と意気投合したのは、僕の『自虐離婚ネタ』がきっかけだった。
笑いを取るつもりで、僕が元奥さんにされた仕打ちを話したところ彼女の返答は『いつ離婚されたんですか?』と真顔だった。そして別のネタを話したら、『うちも似たようなモノです』と。話しているうちに、旦那の浮気がもとで離婚する予定なのだとか。

そしてLINEで連絡を取るようになってから、僕が離婚する時に読んだ本をあげたり、愚痴を聞いたり少しずつ距離が縮まってきたのが実感できた。

我がオフィスに来る最終日、特に何事もなく挨拶をして別れ、その後もLINEでやり取りをしていた。

東京では雪、横須賀は雨…上司とケンカした…オススメの酒のつまみは…そんな他愛もないやり取りをしてから約2週間後。

彼女から『離婚の件が一段落したので飲みに行きませんか?』と突然の連絡。『直近で空いてる日はいつ?』と返事をしたら、『今からミーティングなので、予定確認してLINEします!!』

そのLINEを最後に彼女からは一切連絡はなく音信不通。

それから約1ヶ月が経過した頃、僕は独り横須賀でネイビーバーガーを食べている。横須賀を案内してくれる…と言った彼女との虚しい約束を思い出しながら。


*『なんちゃって短編小説』を書いてしまいました。このお話はフィクションです。いくつか自身の実体験が折り込まれております、例えば離婚とか(笑)

カナダのハードロックバンド「Harem Scarem」の曲に『Empty Promises』という大好きな曲があって…ふと、このタイトルをモチーフに思い付いたお話を書いてみました。
ちなみに、ネイビーバーガーは『Honey Bee』というお店で『Honey Bee Burger Combo』をホントに食べました。ボリューム満点で、美味しかったです!


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