子どもに噛みつかれたら

保育園で、保育士たちがピリピリすることのひとつに「噛みつき」問題がある。噛みつきは、周りの人とのかかわりが増え、まだ言葉ではうまく表現できないときに起きやすい。
歩行を始める1歳前後から、噛みつきが出始め、自我が芽生える2歳前後に多い印象だ。

噛みつきがあった場合は、いきなり「噛んだらダメ」などと言わず、まずは、噛みつきに至った背景や原因が何かに着目し、それぞれの子どもの気持ちを受けとめて、大人が言葉にして代弁してあげる。
噛んだ子にも、噛まれた子にも、それぞれの思いを受けとめて認めてあげる、丁寧な関わりが求められる。

わが子は、誰かに噛みつくというよりも、どちらかというと噛まれるタイプで、噛まれっぱなし。そのたびに先生から、他児の噛みつきを防ぎきれなかったことを謝られた。
ある日、とうとう息子も噛まれたタイミングで応戦し、友達に噛みついた。
後日、先生が、「内心、ガッツポーズをしながら、応援してました!」と仰ってくださった。
「噛んだ」という事象でなく、「自分の気持ちを伝えられた」ということを、肯定的にとらえて下さったのは、当時の私には意外だったし、ありがたかった。

保育園では、ほとんど噛みつきはなかった息子だが、3,4歳ころから家庭で母に噛みつくようになった。イライラした気持ちの発散先は、常に母親だ。

「痛いから、やめて」そう伝えたあとは、我慢比べの始まりだ。
私は噛ませておいた。
痛い。

無理やり引き離すと、不完全燃焼に終わるだろうが、母親が粘れば、自分も粘るしかない。いつまでも噛み続けるなんて、到底出来なくて、諦めて自分から噛むのをやめるしかなくなる。
仕方なく、口を離した息子のことを、「ちゃんと止めれたね」と軽く褒めた。最初はふてくされているだけだったが、できるだけ、彼の話をきくようにした。「痛かったわ」という私に申し訳なさそうに「ごめんね」と言ったりもした。

このやり方が、正解だとか、誰にでも通用するものだとは思わないが、少なくともまだ幼児だった当時の息子と私にはあっていたと思う。もし今、本気で噛まれたら怪我をするかもしれない。
母が全身で受け止めてくれたという経験が、彼の心のしなやかさにつながると信じている。イライラすることはあっても、比較的短時間で落ち着くようになってきたのは、すごい成長だ。
「真似してね」と軽くは言えないが、間違いなく子育てでやってよかったことのひとつである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?