小説「見上げた空は今日も青い」

お昼時。会社の屋上にやってきた加々矢は、フェンスに体を預けて煙草を取り出した。少し長めの黒髪をかき上げ、眼鏡をかけ直す。そして火を付け一服しながら、ふとあの日の事を思い返した。

それは、友人の紹介だった。
「春風雪野(はるかぜゆきの)っす。よろしくお願いしますっ。」
黒髪のふわふわな短髪で、背丈が低めの青年はそう言ってきた。
「は、はぁ…初めまして。佐々木加々矢(ささきかがや)です。よろしく…」
そう伝えると、加々矢は、隣にいる仕事仲間で友人の夏葉聡一郎(なつはそういちろう)に話しかけた。
「おい、雪野っていうから女だと思ってたのに…!!」
「誰も女だとは言ってないが。」
友人から返ってきた言葉に思わずチッと舌打ちをする。
「おい、あれ渡せよ。」
「あ?」
「あるだろ。いつも渡してるやつ。」
「なんでだよ。」
「いいから渡せ。」
言われるがまま取り出し、雪野に渡したその名刺には。
「代表取締役…。」
「そうなんだよ。こいつ意外と仕事が出来て頭が良くてさ。」
「意外とはなんだ意外とは。」
「はは、まぁいいじゃねぇか。あいつ友達いないんだとよ。仲良くしてやってくれ。俺はこれから用事があるから、あとは二人で。じゃ。」
「ちょっとおいっ。」
聡一郎は紹介だけしてあっけなく行ってしまった。
「加々矢さんって言うんすね。仲良くしてくださいっすっ。」
そう言って雪野は笑顔で頭を下げてくる。
「…お前歳いくつ?」
「20歳っす。」
「仕事は?」
「フリーターっす。」
「フリーターねぇ…」
「はい!!なんでもするんで、よろしくお願いしますっ。」
加々矢は困ったように頭をかき少し考えると、ふと思い立った。
「…なんでもするんだな?」
「はいっ」
「…よし、ならついて来い。」
「はいっす!!」

佐々木加々矢52歳。とある印刷会社の代表取締役社長。そして未婚。
雪野を連れて向かったその場所は、アパートの5階にある自身が住んでいる家だった。

つづく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?