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【読書録】ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン

“みんなあなたが言ったことを忘れてしまう。あなたがしたことを忘れてしまう。けれど、あなたに対して抱いた感情を忘れることはないでしょう。”

マヤ・アンジェロウ(アメリカの詩人・活動家)

ダークパターンとは

ダークパターンとは、消費者のスキを突いて、お金、時間、個人情報をかすめ取る手法のことで、デジタルマーケティング用語である。
このダークパターンは、近年国際的な規制の動きが広まっている。

本書では多くの人は必ず経験があるダークパターンの例と、企業がそれらを使ってしまう背景が詳しく記されている。

デザイナー志望者として参考になる内容だったので自分なりにまとめた。

ダークパターン?アンチパターン?

UI・UXの勉強中によく言われているのが、「ユーザーを困惑させるな」ということである。
たとえば、

・アイコンにはラベルをつけてどんなページに遷移する、またはどんなアクションが起こるのかをわかるようにする

・現在地のページ名や、辿ったページの履歴を表示させて迷子にならないようにする

などが挙げられる。

こういった約束を無視したデザインをしてしまったプロダクトをたまに見かける機会があり「これもダークパターンなのか?」と思っていたが、これは意図的でなく、単なるユーザーへの配慮不足や設計ミスというモノなのでアンチパターンと呼ばれる。

UI・UXデザイナーはこういったデザインのミスによるエラーを起こさせないように動線を確保したり、必要な情報を適切に配置するわけである。

それに対して、ダークパターンは意図的に消費者を陥れようと仕組まれたモノであり、不正に得られた利益を享受するのはビジネスサイドである。

ダークパターンの例

本書で取り上げられていた例を、いくつか実際のサイトを巡って実際のダークパターンを集めてみた。

某通販サイトの画面

在庫僅少メッセージは通販サイトではお馴染みだが、「ご注文はお早めに」という煽り文句がユーザーを焦らせる。また、「在庫僅か」という具体的な在庫数を表示させずユーザーの解釈に任せている例もある。実際には在庫はたくさんあるかもしれない。

某宿泊予約サイトの画面

他のユーザーの予約数や閲覧数表示などもよく目にするがこれも「早く予約しなければ」とユーザーを焦らせる。
また、具体的な数を表示しているがこれらも裏でソースコードを弄り適当な数字を出している例もある。

某通販サイトの画面

商品購入時にデフォルトでメルマガ登録をすることになっているダークパターン。知らずにそのまま購入してしまうと望まない大量のメルマガが届くことになってしまう。

本書にはこういったモノ以外にもさまざまなダークパターンが掲載されているので必見である。

こんなのものもダークパターン

引用元:@cocu_44

個人的に面白かったのが、こういったサービス解約時にキャラクターなどが悲しい表情を訴えて解約を引き止めてくるパターン(キャラ無しの場合もある)。

本書より抜粋

これは、コンファームシェイミングと呼ばれユーザーに羞恥心や後ろめたさを抱かせる。ユーザーが拒否する選択をする場合、選択肢に偏った表現(「いいえ、節約したいとは思いません」、「いいえ、健康には興味ありません」など)をする。

企業としてはユーザーを引き止めたいので情に訴えているわけであるが、ユーザーを否定的な自己イメージと結びつけ、自分たちが勧める通りに行動しないことが愚かであるかのように感じさせているので、ポジティブな経験とは言えない。

これを知るまでは単に「泣いているキャラがかわいい」ぐらいにしか思わなかったが背景がわかるとキャラクターが不憫に思えてきた。

スーパーマリオブラザーズ ワンダーのおしゃべりフラワー

任天堂の「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」では「おしゃべりフラワー」というキャラの音声をオフにすることができるが、オフにした際に「そんなにうるさかった?」とフラワーが喋る。
これも一種のコンファームシェイミングであるが、これはゲームという娯楽性が高いモノでの一つの演出であるため問題にはならないだろう。

ダークパターンの背景

ダークパターンを見ていると「単なる売上増加のためのテクニックでは?」と思うような例も少なくない。

しかし、そうした手法で得られた短期的な利益は長期的な目線でみると逆効果になり得る。数字で見えているものだけが企業の運命を左右するとは限らない。

ユーザーはダークパターンにうんざりして他のサービスに乗り換える、SNSで不満を拡散させるといった行動をとるかもしれない。トラブルが実際に起きた場合、訴訟沙汰になるかもしれない。

それでもなぜダークパターンが消えないのか?それは企業が競争にさらされて余裕がなくなっているからである。
数字を上げるために担当者は常にプレッシャーにさらされている。たとえ営業部門の人間ではなくても多少なりとも成果へのプレッシャーは受けているが、強すぎるプレッシャーはダークパターンへの道を拓いてしまうのである。

しかし、ビジネスとして運営している以上、社会規範や信用・倫理もまた売上・利益と同様に求められるのは間違いない。

ダークパターンを防ぐためには

ダークパターンの防止策として売上や利益といった定量的なデータだけでなく、「定性的データ」を組み合わせてビジネスを考えることである。

定性的データとは数字であらわせないデータのことで、ユーザーインタビューやユーザビリティテストなどが該当する。ユーザーの意見を聞いたり行動を分析したりすれば、売上不振やメルマガ解除率の背景にあるものに気づくことができるかもしれない。

また、ユーザーを不安にさせないことも重要である。以下のような表現はその有効な手段である。

●キャンセル料は掛かりません
●あと◯項目で入力完了
●(電話番号は)配送に関してご連絡が必要な場合にのみ使用します
●解約理由を尋ねたり、引き止めたりすることはありません
●(電話番号は)配送に関してご連絡が必要な場合にのみ使用します

こうした、ちょっとした表現でビジネスを成功に導く手法が載っている別の本があるので参考にされたい。


とにかく正直で誠実であればユーザーが不安になることはないだろう。

デザイナー志望者が本書を読んで

ダークパターン無しの選択肢(本書より)
「はい」と「いいえ」の意味がわかりにくいひっかけ質問(本書より)

本書はマーケティング領域の話であり、自分のようなUI・UXデザイナー志望者とは関係なさそうだと思っていたが、読み進んでいくと業務にも活かせる対策法や知見を発見でき、デザイナーとして守るべき倫理観を提供してくれた良書だった。

もし仮に会社側からダークパターンの使用を勧められた場合、本書で得た知識を活かして意見を言えるようになりたい。

なかなか難しい部分はあると思うが、今のところは「ユーザーの意図しない操作を防ぐ」、「表現をわかりやすくする」デザインを心がけようと思う。

ユーザーの声をしっかりと聴きつつ、所属企業の目的(価値提供)に沿えるようなデザイナーになりたいと思った。


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