シルビア日記⑧サウナは整うのか
一気に東京が寒くなった。身を切るような風もまるで凶器のように感じる。朝や夜だけならばまだ我慢ができるが、昼も寒い。北海道の寒さとは違う。あの人を包み込むような寒さは気持ちよかったりもする。しかし東京の寒さはジャックナイフだ。
サウナが流行している。昔から足繁く通っている下町の親父からしたらいい迷惑なくらいだ。家庭用サウナの売れ行きが好調だと、なんかの雑誌に書いてあった。だいぶ大昔まだ若かりし高校生の時代、何度かサウナに行ったことがある。その当時は大人の行く場所で背伸びをした気分だった。一種の大人への憧れだったのか。なぜお金を払ってこんなに熱い密室の空間に入らなくてはいけないんだ、それが最初の感想だったように思う。また大人と大人の間に割って入るということも苦手だった。ゴルフ帰りや、近所の成金みたいな親父や体中に墨の入った人たちもあちらこちらにいた。それはそれで私は博物館で作品でも見る感覚で好きだった。
月日を経て昨今の整うブーム。何か崇高な理念と作法でもあるかのような錯覚さえ覚える。静岡にあるサウナの聖地と呼ばれるところは地元ナンバーよりも地方の車の方が圧倒的に多い。もはや芋洗い場となっている。くつろぐどころではない。
昨年の夏過ぎだろうか私はサウナ再デビューを果たした。サウナハットや座布団のようなものを持っている人がたくさんいる。一歩下がってしまいそうになった。性格上どうしても周囲と競争したくなる。誰もそんことは求めてはいないのに後から入った人や、先にいた人よりも10秒でも我慢する。無駄な勝利の余韻に浸っている。ストレスしかない。
しかし最近は割り切るようになった。とにかく思った通りに入る、そして水風呂に浸かる。外で沐浴をする。本を読む。このルーティンが出来上がった。そうなってくると面白いものでなんだか自分だけの世界に浸れる。なるほど周囲を見なければいいんだ。自分の世界に浸ればいいんだ。それがサウナという世界観なんだ。いいサウナをたくさん見つけていこう。最近になってようやく墨の入った大人の気持ちがわかるようになってきた。
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