井上尚弥とラスベガス

 プロボクシングの井上尚弥選手が4階級制覇を果たした。ボクシングに絶対はない、どんな天才でもスーパースターでもちょっとした綻びで天国から地獄へ落ちる。井上尚弥選手でもありえる、今までも数々の名チャンピオンの陥落シーンを見てきたが、皆さん呆気ない幕切れだった。「"あの”井上尚弥もいつかは…」と思いつつ、やっぱり今回も勝ってくれて嬉しい限りだが、相手のフルトン選手も流石だった、圧倒されていたものの守りは堅かった…。
 …といったほぼ素人の技術論はさておき、いろいろなメディアで記事やリポートが出ているが、元WBC,WBA世界ヘビー級チャンピオンのティム·ウィザースプーン氏の感想がかなり私的に印象に残ったので、考えてみたい。
 大方の意見と同じく、勝った井上チャンピオンのことを絶賛していたが、気になったのが、せっかく多大な才能があるのにラスベガスで試合をしないのがもったいない… といった内容の意見だった。
 プロボクシングの本場といえばアメリカ、そしてそのボクシングで合法的に賭けができるラスベガスである。井上(敬称略)がラスベガスで試合をしたのは過去3回だけ。どの試合もインパクトのある内容だったが、先日の4階級制覇がかかったフルトン戦やレジェンドのノニト・ドネア戦などの度肝を抜くような試合をもしラスベガスでやっていたら… なぜラスベガスかと言うと、今回のフルトン戦はアメリカでは早朝に当たる時間帯だったらしい、これでは本場アメリカのファンでもよほどのマニアではないと注目されないだろう。ようするに世界中のボクシングファンのことを思うなら、そして井上尚弥の素晴らしさを世界中に知らしめるなら、これからはラスベガスで試合をすべきだと私は思う。
 確かに日本でやるほうが金銭面での負担が全く違うだろう。そしてアウェーや中立地域でやるよりも断然試合までの調整が楽だ、そういう意味ではわざわざ来日して試合をしてくれた元チャンピオンたちにはほんとうに頭が下がる。これはけして井上がホームでばかり試合をしているから勝てている、という意味ではもちろん無い。むしろ井上はアメリカで試合をしてもフィリピンで試合をしても調整さえ失敗しなければ同じ結果を出していたであろう。であるがゆえに“もったいない”のだ。今までの日本人チャンピオンの中では、もしアウェーでタイトルマッチをしていたら果たして勝てていただろうか? という選手は少なからずいたが、こと井上尚弥に関しては何処で試合をしても文句無しの勝利を収めていたと思う。それだけにもったいない。今までの日本の試合はある意味、大橋会長の交渉力やマネージメント力の賜物なのかもしれないが、これからはアウェー、もしくはラスベガス等での中立的な場所での井上の試合を見てみたい。ただ日本のファンが眠い目を擦りながら結果を待つ、中継を視聴するということになるかもしれないが、どのみち地上波での放送は無く、ほとんどの人が動画サイトなどで試合を見ているとすると、もはや日本でも海外でも関係ないような気もする。
 認知度といえばこれだけ偉業を残している井上のことを知らないボクシングファンはいないと思うが、それはインターネットという情報技術のおかげもあるかと思う。特にアメリカでは「中量級以上の階級の選手、チャンピオンが真のボクサー…」のような見方を未だにされる部分もあるようだが、それを払拭するためにも井上チャンピオンには今後は本場ラスベガス等で2階級めの4団体統一、5階級制覇、等の記録でもモンスターになって欲しい。同じくアジア系のマニー・パッキャやノニト・ドネアはアメリカに拠点を置いてもあまり言葉の壁等が無いということもあり、馴染みはしやすかっただろうが、あのレジェンドたちに肩を並べ、また追い越すのもラスベガスで実力を見せつけ続けていれば可能ではないかと思う。
 今後の井上尚弥のラスベガスでの活躍を楽しみにしている。
 とにかくチャンピオン、お疲れ様でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?