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哀しみを湛えた女形、坂東玉三郎から目が離せない ~シネマ歌舞伎 「二人藤娘」/「日本振袖始」レビュー~

平成二十六年三月に新しい歌舞伎座の杮葺落(こけらおとし)公演で上演された二演目。

まずは坂東玉三郎と中村七之助による「二人藤娘」。


伴奏音楽をBGMに、少しずつ眉を描き紅をひいていく二人の拵えから映画は始まる。美しい藤の精に変身していく姿、衣装を替えていく舞台裏を本編の途中でも効果的に見せており、これらのシーンだけでもこの作品を映画にした甲斐があるというものだ。

口紅の赤、着物の赤、帯の模様の赤。全部違う赤なのに、生で見ているときには色の違いに気づけない。好きな役者のみに双眼鏡を合わせているので、舞台全体の美しさに目が届かないのだ。

若々しい藤の精の七之助。柔らかいが、どこか哀しみを感じさせる玉三郎。幕が下りて二人が楽屋に去っていく後ろ姿で終了。その間も伴奏音楽が流れ、そのまま二作目の「日本振袖始」へ続いていくという演出。


「日本振袖始」

三味線の伴奏の中、浅葱の幕が切って落とされると、ヤマタノオロチに生贄(中村米吉)を捧げる山の中の場面。

玉三郎は藤の精で見せた柔らかさから一変、その手は鎌首をもたげる蛇のように鋭く動く。醜いという理由で帝から拒絶され、ついにはヤマタノオロチになって美しい女性を次々に死に追いやる。壮絶な女性の人生を表す直線的な眉頭。元があまりに美しい玉三郎だけに、より哀しい。

岩永姫の着物はお姫様らしく赤いのだが、帯が鈍色だ。おかしな色だと思って目を凝らすと、うろこ模様だった。大蛇に変身する姫という暗示なのだが、これも歌舞伎座の三階席からは見られなかっただろう。こういう細かいところを楽しめるのが、シネマ歌舞伎のだいご味だ。

ヤマタノオロチに変化してからの立ち回りは歌舞伎らしく華やかで楽しめる。スサノオノミコトの中村勘九郎もすがすがしくて当たり役。






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