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資源循環業界にとっては大きなチャンスであり、大きなピンチ?

2024年最初の投稿です。
初めに元日に起きた能登半島地震でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りしますとともに、被災された方々に心からお見舞い申し上げます。

今年の資源循環業界が全体として進めていかなければならない課題はCEへの方向転換

2024年はなかなかつらいスタートとなってしまい、廃棄物処理・資源循環業界としては、被災地の早期復興に繋げるため、災害廃棄物の迅速な処理に貢献することが求められています。これにしっかりと取り組むことは大前提として、今年の資源循環業界が全体として進めていかなければならない課題は、「サーキュラーエコノミー(CE)」への方向転換です。

引用資料:「循環経済(サーキュラーエコノミー)を国家戦略へ2023年12月 環境再生・資源循環局 」より

資源循環に、経済政策を加えた「循環経済」、CEへの大きなうねり

環境省で廃棄物分野を所管していた「廃棄物・リサイクル対策部」が改変され、現在の「環境再生・資源循環局」が誕生したのは2017年7月。翌2018年4月には、産業廃棄物処理の業界団体である「全国産業廃棄物連合会」が「全国産業資源循環連合会」に名称変更、それまでの廃棄物を安全・適正に処理することから一歩踏み出し、国も業界も資源循環の方向性に舵を切りました。そして、今回は資源循環に、経済政策を加えた「循環経済」、CEへの大きなうねりが押し寄せてきています。

CEへの潮流はまず欧州等で本格化し始めました。

EUなどでは環境政策が積極的に進められてきましたが、それと同時に近年ではEUの経済、産業を強化する上で資源循環が有効だととらえ、国家戦略として取り組みが進められています。

引用資料:「循環経済(サーキュラーエコノミー)を国家戦略へ2023年12月 環境再生・資源循環局 」より

CEとは、従来の3R等に取り組んできた循環型社会の概念に、経済政策、産業政策の観点を加えたもので、環境面での資源循環政策と、経済政策はもはや一体化したものとなってきています。

昨年は、日本でもCEへの政治的な注目度が高まった年でした。

昨年8月には岸田首相が地方行脚として富山県の資源循環に取り組む企業等を訪問し、「CEに関する車座対応」の実施と、「CEに関する産官学のパートナーシップ」の立ち上げを表明しました。

画像引用:令和5年10月11日 サーキュラーエコノミーに関する車座対話 | 総理の一日 | 首相官邸

7月には中央環境審議会に動静脈連携等の推進による脱炭素化等を検討する「静脈産業の脱炭素型資源循環システム構築に係る小委員会」、10月には産業構造審議会に資源循環のあり方を見直す「資源循環経済小委員会」が立ち上がり、環境省、経済産業省共にCEを柱に据えた資源循環戦略に本気の姿勢を見せています。両省の幹部が「資源循環分野のキーワードはCE」と口を揃え、「国家戦略」として予算を投入し制度の見直しに取り組むことを表明しています。

環境省、経産省ともにCEは国家戦略に位置づけ


昨年12月には経産省が環境省の協力を得て設立したCEに関する産官学のパートナーシップ「サーキュラーパートナーズ」の立ち上げイベントも行われました。

昨年12月には経済産業省が環境省の協力を得て設立したCEに関する産官学のパートナーシップ「サーキュラーパートナーズ」の立ち上げイベントが行われた

こうした土台作りが進められたのが昨年で、2024年はいよいよCEに向けて本格的に動き出す、「CE元年」になると言えるでしょう。


環境省の部署や業界団体の名称が変わっても、実際にはあまり変化を感じなかったという方も多いでしょう。しかし、今回は本当に大きく変化しそうな流れ、いやすでに大きく変化し始めています。

変化し始めている最大の要因は、国もさることながら、大手を中心とした排出事業者、いわゆる動脈産業が本気になっているということです。以前は大手企業の環境への取り組みというのは、正直イメージアップのためのポーズ的なものが大半でした。しかし、今は違います。

多くの企業が資源循環に真剣に取り組んでいます。

大手飲料メーカーはペットボトルを使用後またペットボトルに再生するボトルtoボトルに力を入れ、将来的に新規の化石由来原料の使用をゼロにすることを明言しています。

持続可能な航空燃料「SAF」の国内製造に向け、廃食用油の回収なども活発化しています。

なぜ、大手動脈企業が本気になったのか。理由は大きく2つあります。

1つは、欧州などで規制強化が先行しており、CO₂削減や資源循環に取り組まない企業は海外では市場から排除されてしまうということがあります。例えば、EUでは自動車については2030年頃までに新車生産に必要なプラスチックの25%以上を再生プラスチックにすることが義務付けられます。

グローバルに事業展開する企業にとっては、資源循環の取り組みは必須となってきています。


こうしたやむにやまれぬ事情がある一方、もう1つの理由としては、「資源循環を新たなビジネスチャンスとしてとらえている」ということがあります。

ものづくり国として発展してきた日本ですが、人口減少・少子高齢化が進展、さらに今の若者はものをあまり買わない傾向にある中で、多くのメーカーが「ものを作って売る」ということで業績を伸ばしていくことには限界を感じています。こうした従来の主力事業の落ち込みを補う新たなビジネスの一つとして「資源循環」に注目しています。


国も、動脈産業も本気になっているということから、今後CEの流れはどんどん加速していくことが予測されます。そうした中で、主役となり得るのは長年資源を扱ってきた静脈産業であることは間違いないでしょう。

環境省も「CEの主役として資源循環業界を力強く後押ししていく」と言っています。

昨年11月に開催された第19回産業廃棄物と環境を考える全国大会にて伊藤信太郎環境大臣からのビデオメッセージ

しかし、その反面、大きなピンチとも言えるかもしれません。

それは、大手動脈産業がCEに本気になっている2つ目の理由にあります。
つまり、自分たちで資源循環をビジネス化したいと思っている大手企業が増えてきているということです。

「自分たちでやりたくても許可もノウハウもないから無理」とタカをくくっている静脈産業の方もおられるかもしれませんが、そう安心してはいられないでしょう。

中環審や産構審の小委員会の検討をもとに、国は今後制度の見直しに着手していきます。

さまざまな認定制度や規制緩和措置などで、動脈産業が参入しやすい土壌づくりが進められていくことも予想されます。

そもそも、「廃棄物」ではなく価値のある「資源」としてとらえれば、業の許可も不要になります。

「動脈に廃棄物や資源を扱うノウハウがない」というのはその通りかもしれません。しかし、それを手っ取り早く解消する方法として、既存の資源循環業者を買収することを検討している大手企業も出始めています。

後継者不足などの課題もあり、業界内でもM&Aが活発化している現実

実際、かなり優良な業者の社長が、「大手動脈企業から買収を持ち掛けられた」と話していたのを聞きました。大企業の資本力があれば、廃棄物処理業者の大手クラスでも買収はそれほど難しくはないでしょう。

「大手企業のグループに入ればむしろ経営も安定して安心」、と考える経営者もいるかもしれません。しかし、当然のことながら買収後はノウハウを吸収して経営陣は総入れ替え、なんてケースもあり得ます。

すでに資源循環業界内でのグループ再編の動きなども活発化していますが、今後は国の動向、動脈側の動向から目が離せません。CEがチャンスになるか、ピンチになるか、それは経営者次第でしょう。

静脈産業の経営者がこれから環境省や経産省の幹部、中環審、産構審の委員などの講演等に参加する機会があれば、真剣に話を聞いてほしいと思います。

講演会に行っても居眠りしていたり、隠れてスマホをいじっていたり、一服しに退出したりするような経営者の会社には、未来はないかもしれません。


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