村井國夫さん、素晴らしかった!・・・「老ナルキソス」評、その2

『老ナルキスソス』、色々びっくりな展開なんだけど(ここで終わりかな?と思うと続きがある、みたいな)、一貫して爽やか!それは人間への信頼とか共感があるからだと私は思う。

主人公である高齢の絵本作家、山崎(田村泰二郎)と、山崎がスパンキングさせるために雇ったウリセンの青年、レオ(水石亜飛夢)の出会いを中心にしたストーリーなのだが、ゲイであることも、SMも、老いも、「自分には関係がないこと」ではなく、自分たち(映画を作っている側・映画を見ている側)と同じ人間の生活の一部として描かれている。
最初の方に登場する、老人と青年のSMシーンという、通常はおどろおどろしく描かれそうなシーンでも、不思議な日常性がある。(そう感じる理由の一つは、映画全体に使われているノンビリとした鍵盤ハーモニカの音楽のせいのような気がする。これを聴きながらだと、SMのシーンも「日常の一コマ」という感じがしている。)

映画の中盤で、高齢のゲイが食べ物を持参して集まって食事会をするシーンがある。このシーンは『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)の食事シーンを思い起こさせるのだけど、そちらが全くのファンタージなのに対し(オダギリジョーの恋人がターバン巻いた田中泯だよ)、『老ナルキソス』では全く違う日常性を感じさせる。炊飯器が2台置いてあるところがすごくいい!

あと、村井國夫さんの演技が素晴らしかった。

山崎がレオと車で、地方に住む山崎の若き日の恋人(村井國夫)を訪ねる、というシーンがある。かつての恋人に何十年かぶりに思いがけず再開した時の村井國夫さんの表情が素晴らしかった。訪ねてきたのが、かつての恋人であることが分かると、ぼんやりとしていた村井さんの眼に、驚きと嬉しさがみるみる宿ってくる。私が今までみたゲイの演技で一番印象的かも。

村井國夫さんは、現在、78歳のベテラン俳優。

私は、1987年に村井さんが『アズ・イズ』という舞台でゲイ男性を演じたとき、HIVに感染している元恋人に「愛している」というたびに客席から笑い声が上がったのを思いだした。お芝居はちゃんとしているのに・・・。男が男に愛している、ということが「笑うとこ」と考えているらしい。笑った人はみんな地獄に堕ちろ、とその時思った。その頃から考えると感無量・・・

『アズ・イズ』の舞台で客席からの笑い声を聞いたとき、村井さんは、ゲイであることの辛さを感じたんじゃないかと思う。ある意味、ゲイの人生を生きたのではないかと思う。

(村井さん、実は1992年には『蜘蛛女のキス』ではゲイの囚人役を演じて文化庁芸術祭賞を受賞していた。また、『アズ・イズ』以前に、'83年と'86年にパルコ劇場で「真夜中のパーティー」のハンクを演じている。)

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