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鼓動~メロディー~

カラオケで歌ってみても…
あの頃の様には歌えない…
昔よりも…
出るキーの高さは低くなったし…
出るオクターブも狭くなってる。
あの頃の気持ちとは…
違う自分で歌ってみたところで…
そのずれを直せる訳もなく…
ああ…
どれだけ
あの頃の歌を忘れてんだよ…
あの頃の気持ち忘れてんだよ…
抜け落ちた記憶を埋め合わす術もないままに…
今日もカラオケの曲を入れてしまってるのさ…

欠落をあからさまに突きつける様に…
歌い出しのテンポにはついていけないまま…
ずれたままのカラオケは流れ続けている。
もう…
あの頃の思い出も出て来やしない。
じりじりと加熱されてく違和感に…
僕の苦さは沸点を超えて…
コーヒーに咽る。
一度蓋を開けてしまえば…
香りとともに蒸発する
悲しみは飛び散って
怒りだけが泡を立ててる。
頭の中で分かっていながら…
喉に引っかかって出ないキーに
いらだってシャウトして…
曲は無様に聞こえてしまう。
流れるメロディーを止める事も出来ないまま…
僕らの人生にメロディーは流れ続ける。
きっとこれは…
僕の今歌いたいメロディーじゃないのに…
逡巡しているうちに…
目の前のマイクを掴み取って…
僕の心まで掴み取って奪っていくのかなんて…
毒付いてみたりしてさ。
きっと君の歌う番なのだろうね…
僕は舞台袖で待ってるだけの引き立て役。
どうぞ前座で笑ってくださいませ…
いつかトリで歌える様な
カッコ良さげな奴になってやるから。
ミュージカルショーの様には…
滑らかには歌えなくて…
幕間も…
きっと退屈させる。
余韻も持て余して…
余計なハミングを入れてしまうのさ…
ちょっとしたコメディーにでもなれば良いけどさ…
どうやら…
今は…
そんなシーンじゃなさそうだ。
ちょっとマイクボリューム絞った方がいいかもしれないねと
もう少しミュージック聞いていたいんだよと
そう言いたくなる言葉飲み込む。
どうせなら本物聞かせてくれと嘯きたくなるのさ。

自分勝手に新しい歌詞をつけ足してはみても…
どうしても気ごちなくなってしまう…
借り物の言葉で綴った歌じゃ駄目だね…
でも自分からイチから紡ぎあげるには…
拙さ過ぎる僕の想いは…
簡単に風に搔き消されてしまって…
借り物のメロディーでも…
借り物の歌詞でも…
呟いてでも…
紡ぎ始めなければ歌い出せない自分の臆病さをせせら笑いながら…
僕のメロディーは…
まだまだ止まりゃしないだろ
君のメロディーも…
まだまだ止まりゃしないだろ
まだ幕間には早い…
もう少し聴かせておくれよ…
もう少し魅せておくれよ…
まだショーを終わらせたくないから…

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