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ギャップって、良いですよね 短編 | 演劇部

お題: 「文化祭」から始まる小説・詩歌・エッセイ


文化祭の最終日。

フィナーレが近づくにつれ、より一層ざわめき立つ体育館。座席はすでに埋まり、立ち見の客が溢れていた。

ラストを飾るのは校外からも注目を集める演劇部。
演目は『蛮幽鬼ばんゆうき』。
演劇集団、劇団☆新感線の作品が原作になっている、らしい。

高校の見学を兼ねてやってきた文化祭。興奮気味な友人になかば強引に連れられて座席に座っていた。

(演劇部なんて、世界が違いすぎるんだよなぁ。)
内心そんなことを思っていた。内気な私には「人前で演じる」ことができる人たちを、自分とは別の人種だと感じていた。

開演のアナウンスが流れ始めると、満員になった体育館は静まり返る。右隣からは友人の興奮が、左隣の見知らぬ女子生徒も前屈みになっていて、はやる気持ちが伝わってきた。

(そんなにすごいの?)

困惑の中で体育館は闇に包まれ
舞台の幕は上がった。

蛮幽鬼ばんゆうき』は主人公である「土門どもん」が無実の罪を着せられ、監獄島に幽閉されるところから物語が始まる。そこで出会う暗殺者「サジと名乗る男」とともに脱獄し、無実の罪を着せた者たちに復讐を企てる、というあらすじだ。

演劇部イチのファン数を誇る、副部長演じる土門が第一声を発した。体育館の壁に反響するその声量に、私は心を鷲掴まれるような感覚に陥った。友人(と左隣の女子)は副部長のファンらしいが、それにも納得がいった。

監獄島の場面。幽閉され、奴隷の扱いを受けながらもボロボロの衣装を鮮やかに着こなす土門(副部長)に感心しながら、そこそこ楽しみだしている自分に気づいた。先の展開が、気になるのだ。

そしてついに、その時が訪れた。
警備兵に取り囲まれながら、なお脱獄しようと足掻く土門の前に、"サジ"と名乗る男が現れた。
この深刻な場面展開に似つかわしくない、陽気な高い声が体育館に響いた。

『僕が人の殺し方を教えてあげるよ。』

耳を疑うようなセリフが響いたのと同時に、サジは軽やかな身のこなしで警備兵を"様々な手法"で殺していく。その顔は無邪気な子供のように楽しそうに"笑って"いて、言い知れない恐怖を感じた。私はその場面から、サジに釘付けになっていた。


舞台は怒涛の展開でクライマックスを迎えた。ぼやける視界の中、一斉に鳴り響く拍手が、私を現実に引き戻した。

出演者が舞台に再度登場し、最後に部長からの挨拶があった。それは先程まで"サジ"だった男。スポットライトを浴びて、滝のように流れる汗が照らされる。

「本日は、お立ち寄りいただき、誠にありがとうございました。」

"サジ"から解放された部長は、一変して落ち着いた口調で挨拶し、真剣な表情で客席に向けて深くお辞儀をした。他の出演者は笑顔で手を振っているが、部長だけは表情を崩さない。
先程まで「笑顔で人を殺す暗殺者」を演じていた人とは、まるで別人だったことが、この演劇で一番の衝撃だった。


短編 | 演劇部



現段階にて、人生で最推しの舞台演目『蛮幽鬼』を短編風に宣伝紹介させていただきました。予告編だけでも見て行ってください。


滑り込むつもりが盛大に遅刻となりました。🙇‍♀️
久しぶりに参加させていただき、楽しかったです!


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