見出し画像

薬剤師に処方権を 「薬剤師を東洋医学の担い手に」

 - はじめに


今後、薬剤師が過剰となり20年後には最大で12.6万人の薬剤師が余ると言われています。
この過剰問題を解決する糸口となるのが「薬剤師の処方権」です。

もちろん薬剤師に全ての医薬品の処方権を与えるというのは時期尚早であると思いますが、一部の医薬品の処方権を限定的に与えることは十分可能であると考えています。

そこで、私からは「薬剤師に漢方エキス製剤及び生薬の処方権を与える」という提案をさせていただきます。

‐ なぜ漢方の処方権なのか


現在、日本には東洋医学の担い手となる医療者が非常に少なく、日本の伝統医学とも言うべき漢方医学を十分に活かす土台がありません。

江戸時代の資料を見ていただければ、非常に高度な理論体系に基づいて漢方処方が行われていたことがわかると思います。
しかし、日本の漢方医学は西洋医学の台頭によって一時衰退しました。
その後少しずつ復興し、先のコロナウイルス感染症の治療では漢方薬が多く用いられ、その効果が見直されつつありますが、現代の漢方薬の使用方法には1つ問題点があります。

それは、『方証相対』という方法論に基づいた処方が行われていることです。

例えば、「寒気があり・汗が出ない・肩がこる」という症候に対しては「葛根湯」を処方する、といったものです。
漢方薬一つ一つに適応があり、症状に対して最も適した漢方薬を選定して交付します。
利点としては専門医でなくともある程度漢方薬の選定ができるということが挙げられ、誰でも簡単に漢方薬を使えるようにしたその功績は素晴らしいものです。

しかし、この方法論では処方するまでの理論が欠落している場合があります。
「この人の症状は葛根湯の証にあってるから葛根湯を処方する」といった感じで、そこに体系的な理解はありません。

これは中医学の治則である
「急なればその標を治し、緩なればその本を治す」
現代医療に言い換えれば「急性期は対症療法、そうでなければ根本治療」という原則を守れず、対症療法にばかり目がいってしまい、本当の治療効果が得られていない状況だと言えます。
中医学の本領である「未病先防(未病を治す)」もこれでは難しいでしょう。

そこでこれからの薬剤師に求めたいのは、中医学の真髄である『弁証論治』に基づいた処方です。
「四診(望・聞・問・切)」により「証」を見定め、治療法を論じ、治療するといったものです。

先ほどの葛根湯の処方例で言うと、悪寒や肩のこわばりなどの症状からではなく
「表寒証に対する辛温解表剤として葛根湯の処方を行う」ということになります。
この方法論に基づく治療は、見えている症状のみならずその原因にもアプローチが出来るため、より高い治療効果が期待できます。

薬剤師による弁証論治に基づく処方が実現すれば、漢方医学の質はこれまで以上に高まるのです。

しかし、現状では弁証論治を適切に行える薬剤師は非常に少なく、一部の漢方薬局でのみ行われている状況です。それ故に今すぐ薬剤師が漢方薬を処方できるようにする、というのは難しい話です。

まずは薬学部の教育カリキュラムの見直し、そして既存薬剤師は講習の受講と新たな上位資格もしくは認定を取得することで処方権を持つものとする必要があります。
既にある認定制度で言うならば国際中医師が最も近いのではないかと思います。

(表)薬局における方証相対と弁証論治の違い

- 薬剤師に漢方薬の処方権を与えることのメリット

まず、治療を求める患者の選択肢が増えるということが挙げられます。
患者は医師に相談するか薬剤師に相談するかを自分で決め、西洋医学・東洋医学の両面から治療をすることが出来るようになります。

既存の漢方薬局に関しても 処方権を持つ=保険を使った治療ができる ということから、現状の零売制度や薬局製剤を利用した薬局経営よりも安定した収益を得ることができ、患者側も今まで高額で手が出せなかった漢方治療を大きな負担なく受けることができます。
また、処方権があれば患者の状態に合わせて配合生薬の量の微調整も可能となり、より高度なオーダーメイド治療が実現します。(薬局製剤の漢方薬は配合生薬の増減ができない)

漢方薬局が増え、薬剤師の雇用が生まれることで薬剤師過剰問題を解決する一助にもなり得ます。

また中医学は未病を治すことができるため、その担い手が増えることで未病から病気に進展する人が減り、結果的に医療費の削減も期待できます。

そして何よりも、一度は衰退してしまった漢方医学を取り戻すきっかけとなるのではないかと私は期待しています。

- 実現するために直面する問題


薬剤師に処方権を与えるということは、薬剤師が医師の利権を奪うと言っても過言ではありません。
当然医師会からの反発に遭い、実現するのは困難を極めることでしょう。
しかし私の提案は薬剤師が医師の権利の一部を頂くというものではなく、手付かずの医療ニーズを薬剤師自らが開拓していくものです。

医師は引き続き方証相対に基づく漢方薬の処方、薬剤師は中医学に基づく弁証論治による処方を行うことで、それぞれの住み分けが実現して互いの職域を侵すことはありません。

そして、もう一つの問題となるのは薬剤師の教育です。
西洋医学ベースの知識では「漢方薬には副作用がほとんどない」という誤った認識が広まっていますが、未病レベルの副作用は無数に存在します。
間違った治療方針を打ち立て、証に対して逆の治療をしてしまうと症状はさらに進みます。
こういったリスクを知るには体系的な理解が必要となり、臨床で使えるレベルの弁証論治を習得するにはかなりの時間と労力を要します。

しかしながら薬剤師の中には基礎能力の高い人材や患者との対話に秀でた方も多く、弁証論治を学ぶのにこれ以上ない資質を持っていると私は考えています。
制度さえ整えることができれば自然とエキスパートが育ってくるはずです。

‐ さいごに

“薬剤師がどれだけ有用な存在なのか”
今こそそれを示していくフェーズにあるのではないでしょうか。

AIの登場、薬剤師の過剰、Amazon薬局の参入、
さらには電子処方箋の普及によって淘汰される薬局も増えるでしょう。

様々な問題が同時に押し寄せてきています。

乗り越えるためには、変わる必要があります。
変わろうと思わなければ変わることはできません。
まずは第一歩として、声をあげることから始めてみませんか。
薬剤師に処方権を与えるというのは、できない理由を探せば簡単に潰せる案かもしれません。
それでも実現した未来を想像すると『今、動かない理由は無い』と感じ、拙文ではありますが意見を記させていただきました。

署名だけでもいいです。リツイートでも、いいねをつけるだけでも大切な一歩です。
どうか、よろしくお願いします。

患者にとって最も身近な医療者として第一に頼ってもらえる存在になれば薬剤師の未来はきっと輝かしいものになるでしょう。


change.orgにてオンライン署名活動をしております。
よろしくお願いします!

 古武 幸之助
 薬剤師・YouTuber
 薬剤師の健康雑学 - コンプラスチャンネル
 https://www.youtube.com/@89314


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?