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口内炎

舌の先の左側に違和感があり、痛い。ぷつっと何かできているわけではないが口内炎だろう。口内炎ができるなんて、数年ぶり?数十年ぶり? 口内炎になったことにより、封印していた過去が思い出された。
 私は9歳の頃、ある人に拉致されたことがある。拉致とは言えないのかもしれない。逃げようと思えば逃げられたし、現に私は逃げることが出来たのだから。自らついていったのか。
 当時の私は別居中の母親か父親か祖母の家を転々としていた。落ち着かない日々だった。祖母に預けられていた時も公園に一人でいることが多かった。 宙ぶらりんな感じがする、親は放任主義な感じの子供、ということをわかる人はわかるから目を付けられたんだと思う。ぼんやりしていてひとりぼっちでさびしそうな子供。 
 公園で一人でいる時に、優しそうなおばさんに声をかけられて、のこのこついて行った私。美味しいお菓子があるよ、うちにも子供がいるから一緒に遊べるよ、みたいなことを言われたから。おばさんと話しながら歩いた。
 おばさんの家には、おじさんだけれど中身は子供、がいた。おじさんに見えたけれど20代だったのかもしれない。おばさんが言った子供ってこのおじさんのこと??他に子供がいるのか??と思いつつ、おじさんと一緒におやつを食べテレビアニメを見てゲームをした。にこにこして、おとなしいおじさんだった。 そして、おばさんに、おばさんちの子にならない?って言われた。信じられないだろう。当時の私は同い年の子供よりぽ〜っとしていてトロい子供だったし、母親からも父親からも大事に思われていないと感じていて孤独だった。
 おばさんの家でたくさんのお菓子を食べていた記憶がある。口内炎ができて痛かった記憶がある。楽しかった記憶がある。そこが楽しいと感じた過去の自分が哀れである。 
 おばさんが見えなくなった時(リビングにいなかった時?)その家から出て行った。おじさんはどこか別の部屋にいたんだと思う。なぜだか、走った。走って走って走り回っても知っている景色にならない。交番をさがしても見つからず、駅に辿り着くことができ、駅員に迷子になったと言ったのだ。住所は言えなかったが(どこが自分の家かわからなかった)通っている小学校を言えた。私は迎えにきた祖母と祖母の家に帰った。一人で母親に会いに行ったと思われた。
おばさんとその子供の話は誰にもしていない。
その家がどこだったのかもわからない。現実のことだったのか夢なのかもわからない。
 
 その後の私は離婚した母親に引き取られ、引っ越しした。新しい場所で新しい生活。母親も優しくなったし、友達も出来て学校が楽しくなった。私は自分の居場所を見つけた。
 そして現在の私は東京で働き、一人暮らしをしている。母親も元気だ。祖母は今は施設にいる。父親には会っていない。

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