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猿若祭 二月大歌舞伎 昼の部『新版歌祭文』、『釣女』

*画像は2階ロビーのパネルより

歌舞伎座、2月昼の部を観てきました。
感想が長くなったため、中村屋兄弟の『籠釣瓶』は別にしました。

お見事! 鶴松のお光 『新版歌祭文』 野崎村

中村鶴松のお光が、とにかく良かった。

前半の、久松と結婚できるとウキウキした様子、お嬢様のお染とは明らかに育ちが違う動きと、可愛らしい嫉妬。
久松との痴話喧嘩ふうの言い争いも見ていて和む。
高速ダイコン刻みも堪能。

児太郎のお染、見た目は少々いかついが、声とセリフはお嬢様らしさがある。
お染は、大坂の質屋のお嬢さん。本人に悪気はなくとも、久松の隣にいるのは自分で、身を引くなんて無いと思っている。
お光との、どうしようもないこの違いみたいなものは出ていた。

七之助の久松はさすが。
久作を挟んで、お光と言い合いするくだりは、柔らかく美しい姿とのギャップ萌えとでもいうのか、なんとも色気が滲んで、お光が惚れてしまうのも分かる。

弥十郎の久作もいい。灸を据えてもらうあたりなど特に。
久松とお光の2人と、テンポの速いかけ合いをしながら、竹本に乗って父親の情感たっぷりに演じている。

後半、添えなければお染と久松は死ぬつもりだと見抜いたお光は、髪を切って尼の姿で現れる。

鶴松のお光、萌葱色の着付けの袖を脱いで、髷を切った下げ髮がとにかく似合う。前段の、おきゃんな娘から、ぐっと気持ちを抑えた微笑みが涙を誘う。

寂しげな表情、意識して形作った笑みの唇など、細かくきっちり仕上がっている。
この人、眼の輝きがとっても美しい。

廻り舞台がぐるりと回って、土手の場。

久松とお染が口々に言葉をかけるのに応える、鶴松のお光の「浮世離れた 〽︎尼じゃもの」も、本当に良かった。
今にもぷつりと糸が切れそうに、めいっぱい、胸の奥に我慢をした姿。

久松は花道から駕籠に乗って去ってゆき、お染は舟で上手に油屋の後家のお常(中村東蔵)とともに去っていく。

見送って、表情とて作られず、数珠を取り落として久松の行ったかなたを見つめるお光。
父に数珠を持たされてようやく気づき、父の胸に縋って泣く。
この声、「父(とと)さん…」のセリフとも素晴らしかった。

野崎村って、こんなに面白かったっけ? と思うくらい、見るところが多かった。

大根の仕掛け、まな板(音がいい!)、お灸など、小道具の風情のよさ。
屋内から裏の土手へとガラリと景色が変わる廻り舞台の効果。
意外にアナログ(水色の黒衣さん)な舟の動きなど。
歌舞伎らしい仕掛けが楽しかった。

もう一度観たいなあ。

芝翫の醜女が楽しい 『釣女』

大名何某を演じる中村萬次郎、声も姿も品があって美しい。

坂東新悟が、大名のもとに現れた妻。ちょっと老け顔なのが惜しい。すらりとして綺麗なのだけど、大名と年齢差を感じてしまう。

太郎冠者の相方となる醜女が、中村芝翫。芝翫が出てきてから、一気に面白くなる。
ときどき歯を見せてニッと笑ったり、唇を尖らせたり。変化をつけて可愛らしさと可笑しさを見せている。

後半はもう、大先輩(芝翫)のやりたい放題で、萬次郎の本気の逃げっぷりがおかしくて可愛くて。

獅童の太郎冠者は、醜女(芝翫)とのやりとりは面白いものの、声の大きさは全体との調和がいまひとつだった。

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