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【ちょっと予習】歌舞伎『夏祭浪花鑑』

2024年4月、歌舞伎座の昼の部。『夏祭浪花鑑』が上演されますね。
劇場へ行かれる方も、配信を待つ方も、(一緒に?)楽しみましょう!

手持ちの書籍などで予習してみました。お役に立てば幸いです。


作者

並木千柳、三好松洛、竹田小出雲 の合作。

初演情報・・・このあたりは名作ばかり

1745年(延享2年)、竹本座の人形浄瑠璃で初演。同年中に歌舞伎で上演された。

なんと、翌年からも人形浄瑠璃の名作誕生が凄まじい。
1746年『菅原伝授手習鑑』、
1747年『義経千本桜』、
1748年『仮名手本忠臣蔵』がそれぞれ初演されている。
そして2024年4月の昼の部に並んでいる『双蝶々曲輪日記』も、初演は1749年。いやもう、仰天。

一行あらすじ

魚売りの団七は、恩ある人のために奔走するうち、舅を斬り殺すはめになる。

きちんとしたあらすじは、こちらから!

ご参考・・・そりゃ三婦も渋るよね。厄介なヤツ、磯之丞!

4月に上演される場面は、住吉鳥居前の場、難波三婦内の場、長町裏の場の3つ。これは「夏祭浪花鑑」全九冊のうちの、三冊目、六冊目、七冊目。
団七は恩のある玉島兵太夫のため、その息子の磯之丞を助けようと奔走するのだけれども、この放蕩息子・磯之丞がとにかく面倒ごとを作る。
今回上演されない四冊目と五冊目で、磯之丞は殺人と心中騒ぎまで起こしている。

近頃は、なまじ言うとお客様に分かりにくいというので言わなくなりましたが、磯之丞が序幕の馬鹿殿様ぶりから、道具屋へ奉公してそこの娘のお仲と恋仲になり、かたりにあう、それで人殺しもする。そんな男だから三婦がお辰に預けにくいということになるのです。

(名作歌舞伎全集 第七巻 月報 芸談五 メリンスと縮緬 坂東三津五郎)

磯之丞は奉公に出た道具屋で、そこの娘と恋仲になり、人を殺してしまうのだ。娘と心中しかかるところを三婦に助けられる。

はてな? な気分。

えっと、恋人は琴浦だよね?
なんで他の子と心中しかかってるんだ。

道具屋の娘との件を、琴浦になじられて、磯之丞が返すセリフが憎たらしい。
「世の中に据え膳と鰒汁を喰わぬは、男のうちではないというわいのう。」(名作歌舞伎全集 第七巻)

・・・。

六冊目の<難波三婦内の場>は、心中しかけた2人を助けた三婦が、道具屋の娘のことを送り届けに出かけていて、琴浦と磯之丞は三婦の家に匿われている、という状態で始まる。

このへんを知らずに観ていた頃は、いかにお辰が心身ともに美しい人とはいえ、ヒトひとり(それも大人)預けるのに、三婦がなぜそこまで妻にキレ、お辰に渋い顔をするのか? と思った。
色々とやらかしてしまう磯之丞なのだとわかると、三婦が難色を示す理由に納得できる。

そんな磯之丞のために、顔に大きな火傷まで作ってしまうお辰。
この物語は団七も含めて、そこまでする?という哀しみが全体に漂う。

名セリフ等・・・実は原作にない

  1. <三婦内の場>、磯之丞を預かったお辰が、花道の引っ込みで聞かせる有名なセリフ「こちの人が好くのはここじゃない」は、原作にはない。

  2. <長町裏の場>で、義平次が団七の雪駄に比べていう「このおやじはナ、二十四文の藁草履をはいて、日がな一日かけずりまわっているのじゃい」も、原作にはない。

  3. <長町裏の場>で見せ場になる団七の刺青も、当初はなかった。

初演の頃にまだ地肌をつぶして全身に彫る刺青はなく、七十年以上あとの文政のころに、三代目歌右衛門が、痩せた体軀をカバーするために考えだした演出である。

(カブキ101物語)

三婦のこしらえは、はじめ大柄の浴衣、のちに竜をかいた着附に替る。これは、三婦にはむかしから彫物(刺青)がなく、その代り彫物と同じ効果のこういう衣裳が用意されているらしいのである。

(歌舞伎名作全集 第七巻 夏祭浪花鑑 解説)

初演から大好評だった「夏祭浪花鑑」。
上演を重ねる中で、さらに良いものになってきたのが分かります。

見どころ、期待値

『夏祭浪花鑑』は大坂が舞台の演目。
団七が片岡愛之助となれば、こなれた大阪風のセリフ回しに期待したい。
特に義平次との、<長町裏>での緊迫感の高まっていくやりとり。
さらに、お辰も演じるとのことで、<三婦内>では透け感のある黒の衣裳の向こうを覗き込みたくなるような(?)色気にも期待が高まる。

長町裏の殺し場は「泥場」と言われる。
ここは舅の義平次が、どれだけいやらしいかにかかっている。
土色のドロドロぐちゃぐちゃの中に、団七の白い顔と団七縞の柿色、派手な彫物が映える、陰惨なのに美しい場面。
愛之助は大柄ではないけれど、舞台いっぱいに見得が満ちるような大きな団七をぜひ観たい。

「(略)文楽でも、動作や人物そのものが大きく見えるよう、手足が少し長い人形を遣うと聞いています」

中村吉右衛門 舞台に生きる 第三章 芸談 夏祭浪花鑑
名作歌舞伎全集 第七巻 月報より 人形浄瑠璃の長町裏の場

詰め込みすぎて長くなりました。最後までお読みいただきありがとうございました。

参考書籍など

【参考書籍】
名作歌舞伎全集 第七巻(東京創元新社)
カブキ101物語(新書館)
歌舞伎見どころ聞きどころ(淡交社)
歌舞伎事典(2000年)平凡社
中村吉右衛門 舞台に生きる(小学館)
江戸語の辞典(講談社学術文庫)

【参考映像】
第七回 研の會DVD
コクーン歌舞伎「夏祭浪花鑑」(2021)

過去記事。研の會DVDでの「夏祭浪花鑑」について以前に触れました。


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