市川雷蔵『お嬢吉三』(1959年公開)
市川雷蔵(お嬢吉三)、島田竜三(お坊吉三)、北原義郎(和尚吉三)。
吉三は3人出てくるが、タイトルから歌舞伎の『三人吉三』っぽい展開を期待するとがっかりすると思う。
歌舞伎の『三人吉三廓初買(三人吉三)』は河竹黙阿弥作の世話物で、百両が登場人物の間をぐるぐる回り、近親相姦やら義兄弟が刺し違えるやら、なかなかに暗い話なのだが、映画はそれとは逆の、明るく勢いのある3人の侠客ものだ。
簡単なあらすじ
歌舞伎の『三人吉三』の筋はゼロに近い。
大川端の「月もおぼろに白魚の…」のセリフも無い。
知り合った娘(中村玉緒)の借金証文を奪うために、お嬢吉三(市川雷蔵)は振袖を着て金貸しの元へ行くのだが、歌舞伎らしい所作もないに近い。
それでも、白地に紅葉模様の着物、雷蔵のお嬢吉三はやっぱり美しい。
証文が手に入って、正体を現してからの太々しいさまも清々しくて面白い。
映画の中でお嬢吉三はとにかくモテる。
追い回されて面倒くさそうな雷蔵もまた色っぽいから仕方ない。
八百屋お七の要素を入れ込んでいる歌舞伎に合わせて、衣装には浅葱色と赤の段鹿子の帯が使われている。
振袖をまくって暴れ回る雷蔵のお嬢吉三は痛快。髪を振り乱して完全に男なのだが、それも可愛くて楽しい。
3人で大勢を相手にしての立ち廻りが賑やかだ。
大詰めも、他人のために火の見櫓で半鐘を打ち鳴らす、という要素だけが歌舞伎に近い。
江戸へお美和(中村玉緒)を追いかけていって、旗本へ引き渡される寸前で助け出したお嬢吉三は、伝法院一家に加えて旗本の手下にも追われて包囲網が狭まる。
女性たちの助けを借りてお美和だけは逃がそうと考えるお嬢吉三。
お美和の着物を代わりに着て再び女に化けると、囮になって討手を引きつけつつ、木戸を開けさせるために櫓へ上がって半鐘を鳴らす。
後から江戸へ駆け戻ってきたお坊吉三と和尚吉三も合流すると、無事に逃げたお美和たちのことを喜び、心置きなく侠客たちと斬り結び、またも江戸を脱出していくのだった。
登場人物が多くて賑やかな展開だし、とにかくモテるお嬢吉三という脇筋が、後半に意外にしっかり絡んでくるのが面白く、飽きずに見られる。
眠狂四郎のような重めの作品もいいのだが、死人が出ない、こういうのもいい。
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