空が溢れるその前に。

「空が好き」

そんな君の言葉に僕は、時間も音も感触も何もかもがゆっくりに感じた。


「おはよう」
何気ない挨拶から僕の毎日は始まる。

教室に入るといつも僕より早くきているメンバーが
会話をしている。

一応みんなおはようと返してくれるが、
僕はその一言しか学校ではほぼ話さない。
別に僕はそれで満足なのだ。
その挨拶一言で少なくとも僕より早くきている奴らは、
僕を根暗なやつ、世に言う陰キャラだとは思っていないはずだ。

しかも、僕はよく笑う。
教室でバカなことをしている奴をみて、みんなと
一緒によく笑う。
ちゃんと目を合わせて、手を叩きながらよく笑う。
これで完全犯罪は成功だ。
誰も僕を根暗な奴だとは思っていない。

そんなこんなで3年が経った。周りは大学受験でバダバタしている。
でも僕は就職組だから、別に焦りはない。
まぁほぼ親のコネで入る会社で、レールの上に乗って、安全な未来を作るだけなのだ。

そんな僕の高校は地域では1番のマンモス高だ。
同級生は同じクラス以外ほぼ名前を知らない。
ついこないだ、初めて見る人もいたくらいだ。

そんな僕の日常にも不思議というか、運命というか、僕にとっては忘れられない1ヶ月があった。


"1年前"

「おはよう」

「おはよー」
「おはよう」
数十分後クラスが賑やかになり、チャイムが鳴る。

「はいおはよーう、ホームルーム始めます。
はい、ホームルーム長よろしく」
毎朝5分間のホームルームという何というか、
朝の挨拶、出席確認、今日の日直確認が行われる。
ホームルーム長とは学級委員長みたいなもんだ。
(HR長に省略)

HR長「はい、おはようございます」
全員「おはようございまーす。」
HR長「今日は欠席は四宮さんです。あと今日の日直は真田くんです。よろしくおねがいします」

そういえば今日は僕が日直だった。
この日ばかりは「おはよう」以外の言葉を使うしかない。

僕「はい。」
HR長「これでホームルームを終わります。」

先生「はい、今日も1日頑張っていきましょう」

日直の日は憂鬱だ。
毎回黒板を消さなければいけないし、先生の手伝いだとかよくわからない仕事を任されてしまう。

そんなこんなで6時間目の授業が終わり、
掃除をして、帰りのホームルームを終え、やっと帰れると思った。

先生「あ、そうだ。真田!ちょっといいか」

僕「はい。」

先生「日直だから悪いんだけどこれ四宮に持っていってくれないか?家近いだろ。」

最悪だ。こんなよくドラマで見る日直への擦り付けがあるか。

僕「ま、まあ、でもそんな仲良くないっすよ。」

先生「あ、そうなのか、でもな先生外せない会議があって、すぐに持って行けなそうなんだよ。どうしても無理か。」

でたー。大人の言う会議とは井戸端会議のことだろう。
単なる言い訳に過ぎない。
でも内申をさげるわけにもいかない。
やらなければいけないかと、腹を決めた。

僕「わかりました。持っていきます。」

先生「ありがとう。はいこれ。よろしく」

まあ、四宮とは家は近いが本当に小学校の頃しか遊んだことも喋ったこともない。
中学校は四宮は受験で別中に行ったから、会いもしなかった。
高校の入学式の時に見かけ、まさかおんなじクラスになるとも思っていなかったが、八方美人な性格からか1年の夏にいじめにあい、不登校になった。
でもたまに学校の別部屋で見かけることもちらほらった。

学校から30分くらい歩いて、四宮の家に着いた。
ていうか、僕の家の目の前なんですよ。
四宮の家のインターフォンを押す。

"ピンポーン"
高い音が鳴る。


「はい!四宮です!」

僕「あの僕、四宮凛(りん)さんの同級生の真田雪人(ゆきと)です。先生に頼まれて学校の書類持ってきました。」

てっきり四宮の母が出てくるのかと思った。

ガチャっとドアが開く。

「ありがとう。久しぶり。」

僕「あ、久しぶり。」

久しぶりに見るその顔は僕の心をどきっとさせた。
こんな声なんだ。とふと思ってしまった。

凛「ゆきとくん?大丈夫?」

僕「あ、あぁこれ先生から。」

凛「ありがとう。」

僕「じゃあ、僕んちここなんで帰ります。」

後ろを指さして去ろうとした。

"ふふっ"

なぜか聞き慣れた笑い声がした。
振り返ると凛は笑っていた。

凛「家近いからって先生に頼まれたパターンか。
でもそんなに仲良くないから渡したら帰ろって思ってたでしょ」

と、笑いながら話す。

僕「いや、そうだけど、別に僕にも君にも用事はないでしょ。」

少し寂しそうな顔をした凛。

凛「ま、そうだけど久しぶりに会ってなんかひと言もらおうかなって。」

僕「ひと言って、そんな、まぁ元気そうで良かった。」

凛の顔がハッとする。

凛「いや、ゆきとも元気そうで良かった。」

急なゆきと呼びに、恥ずかしくどこか懐かしさを感じた。

僕「じゃあ、また。」

凛「うん、また。ありがとうね」

僕は軽く頷いて、家に戻った。
同時に凛の家の扉が閉まるのを背中で感じた。

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