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会計(簿記)の視点で見る強盗ゲームの裏側【PAYDAY2】


突然だが、皆さんはPAYDAY2というゲームをご存知だろうか。


プロの強盗集団であるPAYDAYギャングとなって世界各地を飛び回り、金目の物であれば何でも奪い取る超人気FPSである。派手な戦闘と戦略の幅、そしてカオスを極めた世界観が多くのゲーマーを魅了し、最盛期には24万人が同時にプレイしていた。


その人気は今なおとどまるところを知らず、新規プレイヤーも今なお増え続けている。


強盗といえば銀行のイメージがどうしても強く、金庫破りの印象があるかもしれないが、彼らの仕事はそれだけではない。

金塊や骨董品、極秘データさえも盗みの対象なのである。ひとたび仕事となれば金持ちの豪邸や美術館、カジノはおろか、FBI本部やホワイトハウスですらも飛び込んでしまうのだから命知らずにもほどがあると言えよう。


そしてPAYDAYギャングを迎え撃つために地方警察はおろかFBIの武装部隊、果ては米国国土安全保障省の特殊部隊すらも出動するほど、まさに軍隊顔負けの強盗集団である。


とにかくド派手な犯罪と激しい戦闘が人気を博しており、その部分にばかり焦点が当たりがちなゲームだが、今回は少し違う視点でこのゲームを分析してみよう。

それは、ズバリこうだ。


彼らは個人のみの力で強盗を完遂しているわけではない。計画立案者、事前調査・仕込み役、武器調達役、作戦中の指示役、逃走補助役……と、実に多くの関係者がいて仕事は完遂されている。れっきとした(?)犯罪組織なのである。

作戦指示役:ベイン
実行役のリーダー格:ダラス



とすれば、当然ながら金の管理は厳格に行う必要がある。
武装したメンバー達が揃う中でどんぶり勘定はトラブルの元となり組織の維持に致命的だからだ。


そして、金の管理と言えば会計の出番である。
手元の国語辞典を引いたところ、会計については以下のように記載されていた。

(官庁・企業体・会社などで)金銭・物品の出入りや管理をすること。また、その係の人。

新明解国語辞典 第七版より


犯罪組織ともなれば金銭や物品の出入りは激しく、帳簿による管理は必要なのではないだろうか。


ということで今回は強盗集団の会計帳簿がどうなっているのか?という視点から勝手に雑な想像を広げて考察していきたい。



なお、ここまで読んでくださった人はすでに気付いていると思うがこの記事は犯罪の要素を多分に含んでいる。 
(そんな人はいないと思うが)実社会では間違っても実行しないでいただきたい。


それでは前置きはこの程度にして、本編に進もう。


第一節 BANK HEIST編



PAYDAYは強盗のゲームであることは先ほど述べた通りだが、その中でも彼らを代表するのはやはり銀行強盗である。


第1章では基本的な銀行強盗の手順を追いながら、要所ごとに強盗会計の流れを考えてみよう。
作戦の概要は以下の通りだ。

ステップ1:ドリルが入ったバッグを持ち、銀行に侵入する
ステップ2:銀行内を制圧し、金庫をドリルで開錠する
ステップ3:金庫に侵入し、札束を奪う
ステップ4:逃走用のバンに乗って脱出する
ステップ5:決算

なお、今回は記事の長さの関係で簿記の基本ルールの解説は省略している。
一応、仕訳の読み方を知らない方のために「資産の増加↑」といった形で記載しているため、何となく雰囲気だけでも汲み取っていただければ幸いだ。

ステップ1:ドリルが入ったバッグを持ち、銀行に侵入する


まずは一般市民を装い、銀行の駐車場へ向かう。


トラックに積まれているドリルの鞄を担いだら、行内に侵入する。
ドリルを入れた鞄を回収

ここでドリルを持って銀行に侵入する行為自体は、特に金銭等のやり取りが発生しないため、仕訳の処理は必要ではない。

ただし、事前準備でドリルを購入した際には仕訳を切っているだろう。その場合の仕訳は以下の通りだ。(なお今回減価償却は考慮しない。)


この程度の仕訳であれば一般社会でも十分使用されているだろう。機械装置の中身が金庫破りのためのサーマルドリルであることを除けば、だが。


ステップ2:銀行内を制圧し、金庫をドリルで開錠する


銀行内では銃を取り出し、市民を制圧する必要がある。

ここは、中にいる市民や警備員を無力化(拘束)するステップだ。

この段階はうまくいけば仕訳が必要ないのだが、流れ弾で市民を殺害してしまった場合は証拠もみ消しのためのクリーニングコスト(費用)が発生する。

一回あたり約75万円


この場合の仕訳はどうなるだろうか。まずは貸方から考えてみよう。
市民殺害時の揉み消しがどのような手順で行われるのか、筆者はカタギにつき存じ上げないのだが、おそらく現金預金の流出は高確率で発生しているだろう。そのため貸方は現金預金である。

次に借方の費用であるが、こちらが問題だ。一般経理において市民殺害のクリーニングコストが発生することなどありえないため、科目を勝手に設定するしかない。今回は市民殺害清掃費という科目で仕訳を切る。

以上の仕訳がこうだ。



この処理が発生するかどうかはギャングたちの腕前にかかっている。
(実際のゲームプレイでは大乱戦の流れ弾で大量の犠牲者が出ることもしばしばあるのだが)

ステップ3:金庫に侵入し、札束を奪う


いよいよこのジョブにおけるメインの論点である。
金庫から札束をすべて奪って逃走するフェーズだ。

今回の仕訳について考えてみよう。


まず、資産である現金が増加しているから、借方に記入されるのは現金預金である。ここまでは問題ない。


厄介なのは貸方である。一般的な社会では現金を貰うという行為には役務なり商品なりを引き渡す必要があるため(売掛買掛の話はここでは省略)、普通は引き渡した対価の科目で仕訳を切ればよい。


だが彼らは強盗であり、当然ながら対価などビタ一文払っているはずがない。この場合は無償で得た収益として計上するしかないのだが、強盗した場合の収益科目など世間一般に存在しているはずがないため、勝手に科目を設定する。

今回は強盗益という名称で仕訳を切ることにしよう。

考えうる限り最悪の仕訳が誕生してしまったが、こうするほかになかった。


ステップ4:逃走用のバンに乗って脱出する


盗んだ札束をバンに詰め込んだ後は、警察から逃走するフェーズだ。


ここではバンの運転手に汚れ仕事のエキスパートを雇っている場合があるため、やはり費用が発生している。今回は外注費用として処理できるだろう。

今回の仕訳は以下の通り。

ごく普通の仕訳を見ると安心する。


帳簿の摘要欄には【×月×日実施強盗分 逃走用ドライバー報酬】とでも書いておけば良いだろう。

ステップ5:決算


強盗を完了した後はいよいよ稼いだ額の計算ができる。まずは今回の強盗をクリアした後のリザルトを見てみよう。


・強盗の成功自体に対する報酬が$50,000
・盗んだ札束5つの合計が$187,500
・その他報酬が$10,065
 合計 $247,565(うちoffshore口座への送金$198,052)

24年6月現在の為替レートだと約3700万円の収入ということになる。
強盗に確定申告などあるはずないから、ここから雑費を引いた分が丸儲けだと考えれば中々の商売と言えるかもしれない。


それでは、以上で強盗会計の銀行編は終了だ。第二節では手順が複雑な強盗のケースを見ていこう。

第二節 PANIC ROOM編



強盗会計の基本を確認したところで、次は発展的な事例について手順を追いながら考えてみよう。


PAYDAYギャングたちは銀行だけではなく、ギャングの巣窟だろうがお構いなしで突撃する血の気マックスな集団だ。例えばPANIC ROOMというジョブでは、ギャングのアジトに保管されている大量の現金とコカインを盗み出すことになる。

今回はこのジョブについての強盗会計を考えてみよう。作戦の概要は以下の通りだ。

ステップ1:アジトに潜入
ステップ2:大金庫の固定を解除する
ステップ3:C4(小型爆弾)で天井を破壊
ステップ4:金庫を電磁石で持ち上げて逃げる

(ちなみに、ジョブのタイトルにもなっているパニックルームとは以下の画像の大金庫のことを指している。)

中には大量の現金と麻薬が保管されている

この記事内でも、パニックルームは金庫と表記する。

それではステップ1に移ろう。

ステップ1:アジトに潜入


まずはギャングのアジトに侵入する。

今回は表面上、麻薬の取引という体で来ているためアジトにはスムーズに侵入できる。


金を渡し、(本当の目的ではないが)取引成立だ。


ここでステップ1では信用を得るために一度現金を支払うので、費用(損失)が発生することになる。まずはこの仕訳について考えよう。


貸方については現金が減少しているため現金で問題ないだろう。


一方、借方については一呼吸置いて考える必要がある。対価を得ずに引き渡した金銭は一般社会では寄付金として処理するのが普通だ。


しかし、今回金を渡した相手はギャングである。"あっちの世界"の人たちに支払うお金は寄付金よりも上納金という言葉が相応しいのではないだろうか。
ということで今回は支払上納金という科目を設定して仕訳を切ってみよう。

以上の仕訳を切ると以下の画像のようになる。


ところでこの画像を作っていて思ったのだが、日本でも"あっちの世界"の人達が全盛期だった時期には、一般社会からも上納金の支払があったはずだ。その際の経理は本当にこういう感じで仕訳を……? 当時を知る有識者に話を伺ってみたいものだ。)


ステップ2:大金庫の固定を解除する


大金庫のある部屋に辿り着いたら、ギャング達を排除して仕事に取り掛かる。まずは大金庫を部屋に固定している金具4本をカッターで破壊する。

ここでは、調達してきたカッターの入手時の仕訳が問題になるだろう。

もし高価な機械類なら取得後に減価償却が必要になるのだが、金属カッターをAmazonで検索してみたところ2万円程度で買える物が複数見つかった。

ということは鉄骨を破壊できる高級品と仮定しても、せいぜい10万円程度ではないだろうか?

今回は過酷な状況で使用されており実質的に使い捨てであろうこと、ゲーム内で回収される描写はないことから、仕訳では消耗品扱いとしてみた。


金属をも切断できるできるカッターを4つまとめて消耗品としている人がいたら普通は正気を疑いそうなものだ。だが残念なことに、PAYDAYギャングのメンバーに正気の人物は一人たりともいないのである。

ステップ3:C4(小型爆弾)で天井を破壊


さて大金庫の固定金具を破壊したが、扉は固く閉ざされている。ならどうすればよいか?

答えは簡単、金庫ごとヘリコプターで持ち上げて強奪すれば良い。

ということで金庫が設置されている3階から屋上までの天井をすべて爆弾で吹っ飛ばすのが次のフェーズだ。

壁と床にC4爆弾を設置し、起爆する。

2階分の天井が吹き飛び、空まで続く大穴が空いた。


今回使用したC4爆弾×9個について仕訳を切る必要がある。
科目は一個当たりの金額が安いため消耗品として計上し、仕訳は以下の通り。

きっとPAYDAYギャングの消耗品勘定にはロクでもないものが多いのだろう。もし叶う事なら仕訳帳の摘要欄をじっくり眺めてみたい。


ステップ4:金庫を電磁石で持ち上げて逃げる


破壊した天井から電磁石を金庫に張り付け、引き上げ、そのまま強引に持ち去る。

大胆の一言に尽きる強盗だ


当然だが電磁石は大型の機械であるため、購入時に仕訳を切らなくてはならない。

ここまでは問題ないだろう。

続けて金庫を盗んだことによる利益を計上しよう。

1節と同じように現金強盗益で仕訳を切ればいい…はずなのだが、ここで画像をよく見てほしい。

金庫内には現金が半分、麻薬が半分詰められている。これを忠実に反映するためには麻薬勘定を設定し、追加で反映しなくてはならない。


(麻薬)×××(強盗益)×××  


最後にこれらを合わせて仕訳が完成する。

左右どちらを見ても問題しかない仕訳になってしまった。

ステップ5:決算
それでは今回のリザルト画面を見てみよう。

・強盗の成功自体に対する報酬が$590,000
・ミッション中に拾った追加の麻薬が$50,000
 合計 $640,000(うちoffshore口座への送金$512,000)


24年6月現在の為替レートで約9600万円の収入だ。強盗で億万長者に成りあがる事も十分可能という事だろうか。


第三節:おわりに


今回扱った会計処理は個々の事象のみを考慮し、細かな背景は無視したものが多いため、その点を覚えておいていただけるとありがたい。


例えば、強奪した現金はそのまま使えるキャッシュではなく、間にマネーロンダリングなどの過程を挟む特殊な代物であるため、仕訳上現金科目で処理してよいはずがない、等の視点が考えられる。


ただ、こういう点を考慮するとさすがに複雑すぎるので大幅にカットさせていただいた。もし自分ならもっと詳しく書ける、という方がいれば是非執筆していただきたい。なぜなら私が読みたいので。

最後に、この記事を通じて会計はたとえ強盗集団だろうが、金銭・物品のやり取りが生じている場所にはどこにでも適用できるのだ、ということを知っていただければ何よりである。

それでは。

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