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映画館の入場料金

先日、ふと目にしたネット上のニュースで、早稲田松竹が25年ぶりに入場料金を値上げしたことを知りました。早稲田松竹はいわゆる名画座で、2本立てラインナップを週替わりで上映してくれる希少な映画館です。

(すでに承知の方も多いと思いますが、多くの名画座では上映ラインナップが原則日替わりになっています。そのため見たい映画が土日に上映されないという事態も珍しくありません)

私が好きな映画館ということもあって、正直、ここまでよく値上げせずに耐えてくれたと思います。200円の値上げはやむをえないでしょう。

今回、早稲田松竹料金値上げのニュースに接して、あらためて映画館の入場料金の適正価格について考えてみました。

まず新作映画の入場料金が2千円。私はこれは妥当な値段だと思います。
映画を製作した製作者としては、最初の劇場公開の期間で映画の製作費を回収し、あわよくばプラスアルファの利益を上げておきたい。その後のテレビや配信サービスの放映権料、ビデオの販売とレンタルなどの二次使用料で
主な利益を上げるというのが、到底メガヒットは望めないような一般的な映画の流通におけるルーティーンのようです。

製作サイドがロードショウの期間中に映画の製作費を回収しておきたいのは
当然だと思うし、また回収に失敗して破産されたりしたら、新たに製作されるはずの新作映画を見られなくなるという事態にもなるので、私は一般的な映画製作者への支援という意味も込めて、2千円という値段はぎりぎり妥当だと思います。

ただし、あくまで「ぎりぎり」なので、現在の2千円という大台を100円、200円と超えた場合、観客数は(一部のメガヒット作品を除いて)
一気に減少するでしょう。少なくとも私は映画1本見るのに2千円以上を支払う気はありません。

一方、名画座などで上映される旧作映画の入場料金はどうなっているかというと、ざっと東京都内にある複数の名画座を調べてみたところ、まず純粋な2本立て興行を行っている映画館がだいぶ減っていました。

私が(ざっと)調べた限りでは、早稲田松竹と目黒シネマくらいです。この2つの映画館の入場料金がそれぞれ1500円と1600円。2本見られることを考えると(もちろん一方の映画だけ見たいというジレンマは常に発生するわけですが)かなりお得な価格設定と言っていいのではないでしょうか。
私が個人的に問題だと考えるのは、1本立て入れ替え制の名画座での入場料金です。

まず、映画の旧作1本にどれだけ金を払うかは人それぞれというしかありませんが、私の場合は原則(たまに例外な映画もありますけど)千円が限度です。払えないというより、それ以上は払うべきではないと思います。

新作映画と異なり旧作映画はテレビやビデオ、配信サービスなど映画館以外の媒体で視聴することが可能になっています。もちろん映画館のスクリーンで映画を見るのは最上の視聴行為であり、プレミアムな体験ですが、そのプレミア感を含めてもやはり千円以上は支払う価値がないというのが、私の実感です。これは旧作映画の映像が2Kから4Kにアップデートされても同じことです。

もう1つの理由は、現在、二本立て料金の適正価格が1600円だとしたら、旧作1本立ての場合、料金は二本立ての半分にならなければおかしいと思うからです。つまり800円が旧作1本の適正価格になります。

しかし実際には都内の名画座の多くが旧作1本の入場料金を1300円から
1400円に設定しています(ちなみに最も高いのが池袋の新文芸座で、1本見るのに1500円!)。いずれも二本立て料金の半額からは程遠い高値です。

私は名画座の支配人が私腹を肥やそうとして、こうした高額の入場料金を設定しているとはついぞ思いません。おそらくそれぞれの映画館を安定的に運営していくために、必要最低限の価格設定なのでしょう。しかし、

高いものは、高いっ。というのが一観客としての偽らざる実感です。

新作映画を見るよりもはるかに安上がりだと言われればその通りなんですが
上に記した2つの理由で、私はやはり現行の旧作1本の入場料金は高いと思います。金が無いのならサービスデーを利用しなさいと言われても、必ず毎月1日や毎週水曜日に映画を見に行ける人は、そうはいないでしょう。

新作映画の入場料金にはある程度高額を設定し、公開から一定期間が経過した旧作映画は新作の半額程度の安い入場料金で見られるというのが、その国の映画文化にとって理想的な状態であると私は思います。

しかし、現状の価格では理想からは程遠い。京橋にある国立映画アーカイブのみが理想を極端に実現している状況です。そろそろ、東宝を始めとする国内大手の映画会社は、自分たちの業界の利益を名画座にも補助金という形で還元することを真剣に検討するべきではないでしょうか。

自分たちの成功が今日あるのは、決して自分たちの営業努力だけではなく、
先人たちの築き上げた歴史(膨大な旧作)があってこそ、なのですから。



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