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戴首飾 たいしゅしょく

はじめに

昨日のnote投稿は読んでいただけましたでしょうか?


苺-ichigo-は官能小説の処女作となっております。


本日投稿させていただく戴首飾(たいしゅしょく)は2作目となります。
これも24歳のときのお話しです。

お楽しみください。


戴首飾 たいしゅしょく


「 余白 」
 直接的な行為だけが全てではない。くすぐるような感覚や、想像力にはたらきかけることが快感を昂(たか)ぶらせることもある。

 大きなベッドの上で服を着たままうつ伏せの状態のわたし。上から乗られ羽交い締めにされる。
 そしてぎゅっと手首を掴まれ動きを封じられる。自由を奪われていくことが快(こころよ)いなんて、あなたに会うまで知る由もなかった。容易に身動きできないわたしの耳元や頸部をせめる。耳元で囁かれるような吐息や、掠(かす)めるような動きでさえ、わたしにとってはひどく興奮してしまうピースの一つでしかない。
 外から帰った着衣のままで、挿入も何もしていないにも関わらず、こうしてされるだけで、変らぬ快感が全身に広がる。
「あっ、あっ……っ……、やだっ……、はっ……。」
 この先に更にある快感の余白がおそろしい。
 擬似的な情事がカラダを熱くし堪らない––…。


「 おあずけ 」
 肌に直接触れずとも同様の快感を得うることを知った。秘部は触らなくてもわかるくらいに濡れている。お口にほしい――…。
 「嘗(な)めたいよ…。」
 縋(すが)るように対面のあなたを見つめる。じわりと上がった体温が伝わってしまいそうな距離。お願い、嘗めたいの、欲しいの…そんな目で見ていたと思う。
 「だめだよ。まだだめ。」
 返ってきたのは意外な言葉だった。
 「だめなの…?」
 「おあずけ。今からお風呂入ってくるから、そのあとね。」
 「え…。うん…、わかった…。」
 私が犬だったなら、耳が垂れてシュンとしているだろう。きっと尻尾も下を向いている。突然のおあずけ宣言に戸惑いが隠せない。   
 あからさまに焦らされる状況。主従の関係性がより一層に輪郭を際立たせる。私の火照りと彼の性質の火が、他人には見えないこの関係性を炙りだしていく。本来表われることのない二人の秘密。太陽に透かしても、雨に滴(したた)らせても浮かび上がることはない。二人の火熱(かねつ)だけが、それを炙りだしていく––…。


「 一驚 」
 「あ、それとそう。…少し待ってて。」
 そう言って部屋を出ていく。なんなんだろう。火照ったカラダ、ぼうっと部屋のドアを見つめる。
 ほどなくして彼が何かを抱えて部屋に入ってきた。
 「これ、買ったんだ。欲しがってたでしょ。」
 そう言って見せられたのは、首輪や手枷(てかせ)をはじめとするSMグッズや調教道具と呼ばれる物だった。
 「買ってくれたの?」
 驚きと悦(よろこ)びであなたを見上げる目がパァッと大きくなる。ずっと首輪をしたかった。精神的な首輪だけでなく、物理的な首輪すなわち首飾(しゅしょく)を望んでいた。日常の中で数回「首輪してほしいな」と発言したことはあった。本当に用意してくれたことがうれしかった。


「 戴首飾 」
 「つけてあげるね。」
 うれしい・・・!あぁ、ほんとうに首輪をつけてもらえる日がくるなんて。きもちいい、ここちいい、陶酔(とうすい)がこちらに向かって手招きをしている。
 「後ろ向いた方がいい?その方が付けやすい…?」
 「いや、このままでいい。つけるところ前から見てたいから。」
 あなたも付けたがってたもんね、首輪。うれしいな。表情がほころぶ。 
 カチャッ。黒いベルトの穴にピンが通されて固定される。
 「わぁ、すごいね。いいよ、かわいい。」
 太めのベルトが頸部に若干の圧迫感を与える。しかしそれさえも気持ちを昂ぶらせて仕方がない。あなたのもの”になった実感がする。手中に納まり支配される。征服欲を満たす行為が、あなたを興奮させている。瞳孔が開き、見据えられている。
 いつの日だったか、王位や帝位への就任を宣明する戴冠式(たいかんしき)の絵画を歴史の教科書で見たことを記憶している。聖職者から授けられる王冠を、跪(ひざまず)いてその身に授かる。神聖なものに思えた。私の中で首飾を授かることは、すなわち戴冠式のようなものに思えた。何人(なんぴと)も侵せぬ二人の世界で、二人だけの儀式。

「 一人の時間 」
 彼がシャワーを浴びている時間、ベッドルームに一人取り残される。飲み物とスマートフォンを持ってきて置いていってくれた。優しさがうれしかったが、携帯はなくてもそれはそれでゾクゾクしたことだろう。外界からの繋がりを絶たれ、あなたの部屋でおあずけの時間を堪能できるから。
 ベッドの上に並べられた道具たちが非日常感を感じさせる。直視することも恥ずかしかったが、一人の今はゆっくりとなら見ることができる。様々な道具が官能的な想像を掻き立てる。
 これで縛られたらどんな気持ちかな…、これで叩かれたならどれくらい気持ちいいんだろう…、これで身体をなぞられたら…。全身がフワフワとしてくる。中でも最初に気になったのは手錠だった。黒いベルトに鎖がついており、左右を繋げる造りになっている。
 首輪をつけられ更に自由を奪われて、頭に映像が浮かんでくる。想像するだけで心が満たされる。現実にしたなら、どれほど気持ちいいだろう――…。


「 光と背徳  」
 「あがったよ。」
 シャワーを浴び終えた彼が帰室する。
 「おかえりなさい。」
 石鹸の爽やかな香りが漂ってくる。ちゅっとキスをする。
 「いい子にして待ってた?」
 「いい子にして待ってたよ。」
 「えらいね。」
 優しく緩んだ表情、頭を撫でられる。この瞬間も好きだ。愛玩(あいがん)の対象の気分。彼がベッドに上がってくる。
 「ちゅっ…。」
 唇の感触を確かめるようなキスから徐々に深いものに変わる。舌を絡ませる感触が脳を痺れさせる。
 そのうちにスルスルと脱衣させられる。あられもない姿で首輪だけを付けて対面している。カーテンを閉めてはいるが、天気の良い真昼の時間帯。窓際からもれだした明るい光がチラチラと室内を照らしている。はっきりと姿を捉えられる羞恥心。加えて外を走る子供の声が聞こえてきそうな真昼の閑静な住宅街で、情事がはじまろうとしている背徳感がわたしを包み込む。


「 リード 」
 「やらしいね…。これを付けたらもっと完璧だよ…。」
 彼の手には黒い革製のリードが握られている。リードにはいくつかの意味があると思う。本来ペットの命を守るものであると思うが、狭義(きょうぎ)には行動の制限も含まれるだろう。人間を含めた動物の重要な部分である頸部に縄をかける。リードをもつ主人に命を預けているのだ。何もかもが、ご主人様次第。
 「カチャ。」
 首輪とリードが連結される。
 「あぁ…、いいね。これがあると全然違うよ。」
 満足げに感嘆(かんたん)するあなた。被支配者の視覚的情報が、あなたの脳内のシナプスを駆け巡っていることだろう。非日常の視覚的情報が記憶に刻み込まれる。繋がったことのないシナプス同士が、ニューロンを介して伝達されていく。こうしてあなたの特別になっていきたい。色あせることのない、永遠の存在に。あなたのミューズになりたい――…。


「 渦 」
 それからの時間は濃密で色濃いものだった。あなたに触れられる感触も、発せられる言葉も、いつも以上に感じざるをえなかった。しっとりとした生肌が触れ合う心地よさを感じているうちに、火照ったカラダが発汗してくる。湿度をもった肌を指や唇が堪能していく。
 後背位にて挿入されると、子宮口と肉棒がキスをする。張りのある双丘にグラインドされる衝撃が伝わる。肌と肌のぶつかり合う艶(なま)めかしい音と、愛液のはじける水音、嬌声(きょうせい)、荒い息遣い――…。
 「これっ…、引っ張って欲しいです…っ。」
 リードを引きながら後ろから攻めたててほしいことを伝える。
 「引いてほしいの?いいよ。」
 グッと強くリードを引かれる。カラダは反り、頸部への圧迫感はより一層に増していく。首を絞められている時と同じような圧迫感。わたしにとっては、甘美な苦しみだ。陰茎を挿入され、首輪についたリードを引かれる。満たされる――…。快感の渦の中に溺れていく。


「 啓蟄(けいちつ) 」
 お互いに果てた後、床上(しょうじょう)で裸のまま戯(たわむ)れた。ゆっくりと話すことを楽しむ時間。何も気にせずに、ただ触れ合い、会話する。かけがえのない時間だ。
 今日は首輪を授かった。戴首飾(たいしゅしょく)の記念すべき日になった。きっと忘れることのない印象的な記憶の一遍(いっぺん)。見えない羽が広がる瞬間。
 春を待ちわびた冬籠(ふゆごも)りの虫が這い出る瞬間のように。

終 
Copyright(C) 2020‐首輪ちゃん


おわりに


今回のお話しは、より精神世界に重きをおいたものになっています。

人は誰しも、見えない世界が広がって、羽が生えて、自分ではない“じぶん”が生まれる瞬間があるのではないでしょうか?

そんな瞬間ってたまらないよね。

自分の場合だけでなくて、他人のそんな瞬間に立ち会えた時もうれしいよね。

作中にも書いていますが、私は誰かのミューズになりたい。
永遠に色あせない創作の根源に。目に焼きついて離れない存在に。
強烈で心を狂わせる存在に。
愛が重いとか、軽いとかの、そんな次元のはなしじゃなくて。
もっともっと相手にめりこんで、喰われたいし、たべちゃいたい。
狂ってください、わたしに。

わたしはとっくに狂った世界でいますから。
早くみんなこっちにきてください。

今日もありがとうございました!

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