見出し画像

こんな年もあっていい。①

朝露が乾いた空気を潤すこの季節独特の朝。
寒さに強い「ウチ」も、流石にフリースを羽織って外に出る。
空からは夜の気配が抜けきって、雀の声が聞こえる。
「ウチ」はむんっと伸びをして、昨日の夜に用意した荷物を車に乗せ始める。

まずは相棒のTCR。
GIANTが誇るオールラウンドバイク。
店で売れ残っていた型落ちの完成車を買ってから惚れ込んだモデルだ。
次にヘルメットなどの必需品と着替えを詰めたリュックを乗せて完了。
次は自分のウエアだ。

今の時期は着る物に悩む。
特に今回の目的地は標高が高い。
ガッチリと装備をキメると麓では暑い。
でも、薄手過ぎると目的地に着いた時に凍える。
「ウチ」は真冬のトレーニング用の暖かインナー上下、その上から夏用のジャージをチョイス。
某スポーツショップのプライベートブランドで安いのだが、なかなかの暖かさでお気に入りだ。
本当はまだまだ出番は先かと思っていたが、今年は既に寒い。
今年もよろしく頼むよ、なんて呟きつつ袖を通す。

さて、準備は整った。
時間は・・・ちょうど良いくらい。
「ウチ」はまだ少し早いけれど猫達に朝ご飯をあげて出発した。

今日はチームの仲間と中禅寺湖の紅葉を見に行くロングライド。
車で行くと渋滞は必死だが、自転車なら心配はいらない。
車が多い分、危ないけれど。
でも、車で行くのでは味わえないものがあるのだ。

「ウチ」が自転車を始めてもう7年近く。
毎年見ていても飽きは無い。
道中に起こる出来事も、見た景色も、全てが新鮮に鮮やかにうつるのだ。
だからきっと今回も、楽しい。

チームの仲間の家の隣には駐車場があり、許可されているスペースに停める。
自転車を降ろして装備を整えていると仲間が家から出てきた。

「おはようレタス」
「監督おはようございます。寒いっスねー」
「そうだね。今日のメンツ、俺らだけかも」
「あ、そうなんですか?」
「多分。集合場所には一応行くけど」
「ウィっす」

出てきた仲間は、歳で言えば「ウチ」よりひとまわり以上年上だ。
チームの監督でもあり、選手でもある。
レースでは共に闘う相棒である。
ちなみに、レタスとは「ウチ」の渾名なのだが、その理由は割愛しておく。

準備が整って早速出発する。
チーム全体の集合場所はそこから20分程の道の駅。
車も停めておける広い駐車場があるが、「ウチ」はいつも監督の家の前に停める。
ウォーミングアップと、近況報告などをしながら移動するのがいつもの流れだ。

「俺はかなり調子あがってきたよ。この前のトレーニングもいい感じで踏めてきたし。レタスはどう?」
「いい感じですよ。でもピークはまだ先ですかね」
「そっか」

2週間後には、ひたちなかエンデューロが控えている。
互いの調子の良し悪しを把握し、走りながら確認するのも毎度の流れだ。
2人は程なくして集合場所へ到着した。

「・・・ほら、やっぱりな」
「とりあえず時間までコーヒーでも飲みますか?」

道の駅の駐車場には車は停まっているものの、サイクリストの姿は皆無だった。
「ウチ」は落ちてきた缶コーヒーを回収しつつ思い出した。

「そういえば、今日のライドはSNSで参加者募集してなかったですよね」
「あー・・・そうだったね」

サイクルコンピュータに表示させてる時刻は8しま

コーヒーを受け取りながら監督も頷く。
しかし「ウチ」の内心では参加者がいないという事は重要ではなかった。
休みが合う時はほぼ毎回監督と一緒に走っているからだ。
今回もまたいつものトレーニング兼気晴らしライドになるだけだ。

監督がサイクルコンピュータに表示させた時刻を確認して缶コーヒーを煽った。

「さて、そろそろ行こうか」
「ウィっす」

時刻は8時。
いろは坂紅葉ライドの始まりだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?