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と言っても、それでもやっぱり。-6

40年前。デザイナーになって仕事を始めた頃。
最初に就職したデザイン制作会社の労働は過酷だった。
出勤時間は10時と少し遅めだったけれど仕事が終わるのは夜の9時を過ぎてから。
デザイン会社ではそれが常識だと言われた。

●過酷な労働条件は常識なんかじゃない

仕事に慣れるにつれて労働状況はどんどん過酷になってゆく。
就職して二年目になった頃、週のうち1日、2日は徹夜が入るようになった。
つまり家に帰るのが始発、という状況。
ついに残業時間は月に150時間を超えた。
今だったら完全に犯罪だろうな。過労死レベルの仕事量。
でもあの頃「この業界じゃ普通のこと。常識だよ」とデザイン業界の皆が言っていた。
大体、得意先との打ち合わせが19時〜。そして、その仕事の納品が翌日の9時なんてことが多々あった。
体を壊してでも稼げるだけ稼げ!
「24時間戦えますか?」ってコマーシャルが流行るくらい仕事が溢れて
皆がそれを普通だと感じていた。
でも末端を担うデザイナーの初任給は一般企業より2割も低かった。

あの時代は誰だって忙しかった。でもそれは常識じゃない。
本当に過労死する人が続出していたのだから。

28歳で独立できたのは仕事がたくさんあったからだけれど、
勤めていたアシスタントに19時以降働かせた事はない。
そんな常識を世襲制のように続けていたらこの国は滅びる。

●時代が変わったら状況は良くなったのか?

あの頃はクリエイターは花形商売だった。
でも花形と言っても待遇が良かったわけじゃない。
忙しくても、それに見合った充実感や達成感を皆が持っていたわけではない。

忙しい日が続いていたある日に突然胃痛に襲われて仕事の途中で医者に行った。
「ストレス性の急性胃炎ですね。お大事に」と言われて会社に戻った。
そこで会社の上司に言われたのは
「良かったね。君も一人前の仲間入りだね」の一言だった。
誰もが一度は体を壊すような経験をしてやっと一人前だという意味だった。

と言っても、それでもやっぱり、
そんなことを正当化するなんておかしいでしょ?
体壊して一人前なんてそんなのは間違っている。
あれから40年も経っているのに、広告代理店の新人が自殺したり、無茶なスケジュールを言ってくるクライアントは後を絶たない。

私は最近は自分自身がやりたい仕事しかしなくなったし、この業界にはやっぱり「締め切り」というものがあって納期を守るために残業は仕方がないけど、
体を壊すまでする事はないし、もしもそういう要求をしてくるクライアントがいるのならば喧嘩をすれば良い。
いや、もとい。
喧嘩ができるだけの証拠を集めて法的に戦えば良い。
理不尽なものは理不尽なのだと証明しなければならない。
それで仕事が減るのなら仕方がない。
もっと自分たちを守ってくれるクライアントを探すしかない。

●自身が理不尽を呼び寄せていないか?

でも、気をつけなくてはならないのは、自分自身がそういうクライアントを呼び寄せている、という事だってあるのだから。
自分自身が筋を通していれば、案外そういうクライアントは近づいてこない。
自分たちが気持ちよく仕事ができるクライアントは存在する。
そういう人たちと仕事ができるように、
自分自身も社会人としてきちんと整えて仕事に向かいたいと思う。

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