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食べるということ-8

縁の深いジャンルの料理がいくつかある。

社会人になって28歳で独立した頃、大阪の本町のマンションに事務所を構えた。

事務所を出て右隣のマンションの一階に「佳恋(カーレー)」という店があった。オーナーがスナックのママだったので当て字が水商売風だったけれど、オーナーシェフはバングラデッシュ人でカラムさんといった。

そこから北に10分ほどの場所に「アルナ」という大阪では有名なインド料理の店があって、カラムさんはそこで修行を積んだことがあった。

私はすぐに日焼けをするし釣りが趣味だったので夏は真っ黒で髭も生えていたのでバングラデッシュ出身のカラムさんは親近感を覚えたらしく、すぐに仲良くなった。バングラデッシュはインドの北東のベンガル湾に面した小さな国でとても貧しい生活をしている人が多い。

だから日本に来てお店を経営するなんてとてもセレブな生活かもしれない。料理はほぼインド料理と同じだけれど海に面しているので魚介類を使った料理が多い。またインドはヒンズー教の信者が多く、牛が神聖化されているので牛肉は食べないが、バングラデッシュ人の多くはイスラム教徒で豚肉を食べない。国が近くて食材の区分けが難しいけれど、どちらの国でも鶏肉とラム肉はよく食べるようだ。

一般的にインド料理と呼ばれている料理の中にはヒンズー教とイスラム教の区分けを日本人はしていないけれど、料理の材料からどちらの宗教かはわかるし、現在では「ハラールフード」も有名になってきたから、そういう材料が手に入りやすくなった。

カラムさんの作るラムのカレーは絶品だった。

カラムさんはその後、塚口で自分の店を構えた。

当時の事務所の近くにもう一件良く行くお店があった。レンガ建のマンションの中二階にあった「ペコリーノ」。

ここのオーナーシェフは単身イタリアに渡って修行を積んで大阪で開業していた。パスタは極細のリングイネを良く使っていた。リングイネは断面が楕円形をしているパスタで、もちっとした食感が特徴だけれど極細のものは茹でるのが難しくて使っているお店は少ない。少しでも茹ですぎるとむちっ、ザクっとした食感が損なわれてしまう。この店のオーナーシェフは茹で加減が気に入らないと目の前に出された皿を引っ込めてしまうほどこだわっていた。

食材のほとんどをイタリアから輸入していた。

釣り船でばったり会ったことがあり、それからとても仲良くなった。お店の休憩時間に賄いを食べさせてもらったことがある。

私はシェフと仲良くなることが多くて、いろんな店の賄いを食べさせてもらった。でも前述のカラムさんの賄いはイワシを煮た日本料理だったけど。

釣ってきた魚を料理してもらったことも良くある。

シェフの真似をして家で料理を作ってみるけれど、流石にシェフと同じようにはいかない。

ペコリーノのシェフが修行したのは中部イタリアで、イタリア料理は北イタリア、中部イタリア、南イタリアで食材が変わるので料理方法も違うらしい。

イタリアの修行先ではお店の名前の由来になっている塩分のたかい「ペコリーノチーズ」を良く使って、フレッシュなポルチーニ茸、血で作ったソーセージなどが有名らしい。言葉もわからない異国で修行するのは大変だったと聞いた。

このほかにも四国の「土佐料理専門店」とか中華の名店「王府(ワンフー)」なんかも近くて、北浜から本町にかけては名店が多かった。

シェフと友達になるのはやはりいつもおいしい出会いだった。

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