Lesson 13: ロジックとレトリックの方向性①
このレッスンから、設計シートの後半部分に進みましょう。ここからは、ロジックとレトリックの方向性の決め方を学んでいきます。
このセクションで行うこと
まずは全体の流れを掴んでください。以下のスライドにまとめました。
このように、このセクションでは以下の3つのことを行います。
説得のコンテクストを整理・分析し、
そこから今回の説得における「論理性と分かりやすさのバランス」を決め(シート中の矢印)、
それを具体的なロジックとレトリックの方針に落とし込む
詳しくは後述しますので、とりあえずシートの記入例を確認してください。
いきなりすべてを理解するのは大変なので、まずは最後に何を決めているのかを確認してください。この例では、シートを記入した結果、今回の説得を以下の方針で進めることを決めています。
分かりやすさよりも論理性を重視する
根拠の量を考慮する必要はない
根拠は(エピソードではなく)データであるべき
使うメディアはパッケージである
フォントサイズは14pt以下を中心に使う
イメージ画像は特に必要ない
まだピンとこないかもしれませんが、詳しくは後述するので安心してください。とにかく、このようなことを決めるのがこのセクションの目的です。
論理性と分かりやすさのバランス
では、順に説明していきます。スライドを確認してください。
この中で最初に理解すべきなのは、スライドの中央にある「論理性と分かりやすさのバランス」です。説得のコンテクストはこれを決めるためのインプットであり、ロジックとレトリックの方向性はこれのアウトプットです。
この「論理性と分かりやすさのバランス」さえ理解できれば、このセクションは終わったも同然です。まずはここを掘り下げていきましょう。
「論理性と分かりやすさのバランス」とは
最初に「論理性と分かりやすさのバランス」という言葉の意味を明確にしておきましょう。
まず、「論理性」とは「説明の厳密さ/緻密さ」という意味だと考えてください。これだけだとピンとこないかもしれませんが、後ほど具体例で説明していきます。
次に、ここでの「分かりやすさ」における「分かる」とは、「言っていることを情報として理解できる」という意味です。「分かる」という言葉は「言っていることに合点がいく、納得がいく」という意味で使うこともありますが、ここではそちらの意味は含みません。
まとめると、「論理性と分かりやすさのバランス」とは、「説明の厳密さ/緻密さ」と「説明の(情報としての)分かりやすさ」のどちらを重視するかということです。
この2つは、原則として両立できません。これはロジックとレトリックの両方に当てはまります。
論理性と分かりやすさのバランス:ロジック
具体例を見ていきましょう。まずはロジックからです。以下の2つの文章を比較してください。
2つの例で、主張(日本人はプロテインを毎日飲むべきだ)は同じですよね。違うのは根拠だけです。
このうち、分かりやすいのは例①ですよね。根拠が短い(少ない)からです。言うまでもなく、短い話は分かりやすいわけです。
一方で、例①は論理性を欠いています。この内容では、タンパク質が必要な理由も、なぜタンパク質をプロテインから摂取すべきなのかも分かりません。誰も説得できないでしょう。
例②では、そのあたりのことが説明されています。結果として論理性は上がっていますが、例①より長いですよね。長いということは、分かりにくいということです。
もちろん、この程度の説明なら、ほとんどの人は分かるでしょう。しかし、もし例②の分量がこの10倍だったらどうでしょうか。実際、数値やグラフを加えることで、例②の論理性をさらに高めることは十分に可能です。
そうなると、どこかで理解がおぼつかなくなるし、面倒になって最後まで読まない人も出てきますよね。つまり、根拠が長くなるほど、論理性は高まる一方で、分かりにくくなるのです。
当たり前ですが、根拠を短くしながら長くすることはできません。
つまり、論理性と分かりやすさはトレードオフです。両方のいいとこ取りはできません。片方を強化することは、もう片方を弱くすることを意味します。
論理性と分かりやすさのバランス:レトリック
次はレトリックの具体例を見てみましょう。以下の2枚のスライドを比べてください(2枚目の中身を理解する必要はありません)。
この2つのスライドは、受ける印象が大きく違いますよね。その違いを生み出しているのは、スライドの情報密度です。
1枚目のスライドはフォントサイズが大きく、画像も使われています(ちなみに、中央に写っているのは私です)。つまり、情報密度が低いわけです。
一方、2枚目のスライドはフォントサイズが小さく、画像はどこにもありません。今度は情報密度が高いわけです。
見てのとおり、1枚目のスライドのほうが圧倒的に分かりやすいですよね。しかし、掲載されている情報は限定的です。反対に、2枚目のスライドは分かりにくいですが、その分緻密な説明がされています(スペースの関係で、根拠の部分まで書ききれていませんが)。
つまり、レトリックでも、論理性と分かりやすさのトレードオフが生じているわけです。論理性と分かりやすさはスライドの情報密度から生じる結果なので、両立させることはできません。
論理性と分かりやすさのバランス:まとめ
結局、ロジックでもレトリックでも、論理性を上げながら分かりやすくすることはできません。後述するように例外もありますが、基本的にはあちらを立てればこちらが立たず、どちらかが犠牲になります。また、どちらに寄せるかによって、必要なリソース(時間、労力、能力)も変わってきます。
論理性と分かりやすさのバランスを決めるとは、この問題の落とし所を考えることに他なりません。
さて、毎回「論理性と分かりやすさのバランス」では長くて読みにくいので、以降はこの言葉を「LUバランス」と呼ぶことにします。"Balance between Logicality and Understandability"から取りました。覚えておいてください。
では、どのようにLUバランスを決めたらよいのでしょう?
それに対するインプットとなるのが「説得のコンテクスト」です。一般に「コンテクスト」とは「文脈・状況」といった意味ですが、ここでは設計シートに記載されている各項目だと考えて問題ありません。該当部分を再掲しておきます。
まとめると、説得のコンテクストから最適なLUバランスを考え、LUバランスをロジックとレトリックの方向性に落とし込むということです。もう一度スライドで確認してください。
では、次のレッスンからはシートの中身を掘り下げていきましょう。
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