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Lesson 9: 正しい論点の条件①

ここからは「正しい」論点とはどのようなものかを考えていきましょう。

前回のレッスンで述べたとおり、論点を評価することは論点を見つけることよりずっと簡単です。しかも、上の立場になるまでは論点を評価するスキルのほうが有用と言っても過言ではありません。まずはここをしっかり押さえてください。

では始めましょう。

論点が「正しい」とは:全体像

早速ですが、「正しい」論点とは、どのような論点のことなのでしょう?

シンプルに考えると、正しい論点とは「説得が成功する(「イエス」と言ってもらえる)ような論点」のことです。私たちの目的は説得の成功なわけですからね。それに資する論点が正しいに決まっています。

ただ、Lesson 2で述べたように、「イエス」とは言ってもらえても価値が生まれないケースが存在します。たとえ説得が成功しても、結果としてあなたの評価が下がるようでは意味がないですよね。つまり、説得を成功させると同時に、受け手に価値をもたらす必要があります。

当然、そうなるような論点が「正しい」ということになります。ということで、正しい論点とは「価値がある説得になる論点」であるとしましょう(※)。

※厳密には「あなたが最大の価値をもたらせる説得になる論点」と定義すべきです。あなたにとって「価値がある説得になるような論点」は複数存在する可能性があるからです。ただ、これは分かりにくいので定義はシンプルにしておきました。

正しい論点:価値がある説得になる論点

さて、この定義は抽象的すぎて何の役にも立ちません。ということで、以下のスライドを見てください。

このスライドは、左側で「価値がある説得」が満たすべき条件を具体化しています。そして、右側にそれぞれの条件が達成できるような論点の条件を書いています。

つまり、このスライドの右側に書いてあることが「正しい」論点の具体的な条件です。

  1. 受け手の問題を捉えている

  2. 新しい情報を生み出せる

  3. 説得力を生み出せる

なお、「価値」というのはフワフワした主観的な概念なので、これ以外にも条件が存在する可能性はあります。スライドにあるものは「主要な」条件だと考えてください。

順に見ていきましょう。すべて、「説得が価値を持つための条件」→「その条件につながる論点の条件」という順序で説明していきます。

価値の条件①:ロジックが受け手の問題に答えている

説得が価値を持つための第1の条件は、ロジックが受け手の問題に答えていることです。言い換えると、「受け手が興味を持っているテーマを論じる」ということです。

これに関しては、既に説明済みですね。以下のスライドを確認してください。

このように、ロジックが受け手の問題に答えていることは、説得が成立するための前提条件です。言うまでもなく、興味のない話を聞いて、「ありがたい/この話を聞けて良かった」と思う人はいないですよね。

価値の条件①:ロジックが受け手の問題に答えている

正しい論点の条件①:受け手の問題を捉えている

では、この条件に対応する論点の条件を考えてみましょう。

それは当然、論点が受け手の問題を捉えていることです。論点とロジックは対応関係にあるため、論点が受け手の問題を捉えていればロジックは受け手の問題に対する答えになりますし、逆もまた然りです。

言い換えると、論点は受け手が「答えを知りたいな」と思うものでなければいけません。これが正しい論点の1つめの条件です。

正しい論点の条件①:受け手の問題を捉えている

この条件が最も重要です。論点が受け手の問題を捉えていることは、価値を生む以前に、説得が成立するための絶対条件です。この条件を満たせたからといって説得が成功するとは限りませんが、この条件を満たせなければ説得は確実に失敗します。

好き勝手なことは考えられない/主張できない

ここまでの話を言い換えると、好き勝手なことを考えられないし、そこから出てくる答えを主張してもダメだということです。

もちろん、そのような法律が存在するわけではないですし、日本には言論の自由があるので、厳密にはどんなことでも主張できます。また、自分が考えたい論点のほうがやる気が出ることは間違いないでしょう。

しかし、説得とは受け手がいて成立する行為です。繰り返しになりますが、主張が自分の問題に向かっていない説得を真剣に聞いてくれる受け手は、この世に存在しません。あなたがどうしたいかより先に、「受け手が何を求めているか」を考えるしかないのです。

ここが、学生(=トレーニング期間)と社会人(=実践環境)の説得で決定的に異なる部分です。

率直に言って、学生の間に行う説得は、受け手の問題を捉えている必要がありません。本人のトレーニングになればいいからです。よって、論点も「受け手の問題を捉えているか」より、「学生レベルの知識でもロジックを組めるか」、「本人が考えたい論点か」といった視点で選ばれます。説得者の都合が受け手よりも優先されるわけですね。

これはトレーニング効率を考えると仕方のないことですが、社会人になってからの説得とは完全にズレていることを意識する必要があります。学校の先生は学生の説得を受けると給料が貰えますが(だから、論点が先生の問題を捉えている必要はない)、実践環境では受け手がお金を払うのが普通です。受け手が最優先ですので、ここを間違えないようにしましょう。

論点が受け手の問題を捉えているかを確認する方法

どうすれば、考えようとしている論点が受け手の問題を捉えているかを確認できるのでしょう?

ここは受け手の数によって、有効な対策が変わってきます。

  1. 受け手が1人の(メインターゲットを想定できる)場合

  2. 受け手が不特定多数の場合

順に考えてみましょう。

受け手が1人の場合

まず、社内会議のように受け手が1人である(メインターゲットを想定できる)場合には、この条件の重要度は最高レベルに高まります。

理由はシンプルで、受け手が1人しかいないのに、論点がその受け手の問題を捉えていなければ、その説得は価値を生まないことが確定してしまうからです。以下のルートに完全に乗ってしまうわけですね。

説得が失敗する最大の原因

ただ、このタイプの説得では、論点は上から降ってくる(上司から「これを考えろ」と指示される)ことが多いわけです。普通に考えると、論点が受け手の問題を捉えていないことはありえません。

ところが、私の経験上、「メインターゲットの問題を捉えていない論点を設定する」という失敗は、あらゆる場所で観察されます

私もこれでやらかしたことがありますし、後輩が2週間かけて作成した資料が1秒でゴミ箱に入るところも見ました。当てずっぽうの数字ですが、このタイプの説得の失敗の2-3割は、これが原因ではないでしょうか。

なぜ、このようなことが起こるのでしょう?

これはシンプルに、メインターゲットときちんとコミュニケーションしていないということに尽きます。以下のどれか、またはあわせ技でしょう。

  • メインターゲットとコミュニケーションしていない

    • 組織内で伝言ゲームが起きており、メインターゲットとコミュニケーションできない

      • そして、伝言ゲーム中に論点が変化する

    • (あなた、または中間にいる上司が)「メインターゲットとコミュニケーションせずに論点を設定することが至高」という信念を持っている(※)

  • メインターゲットとコミュニケーションしたものの、浅い

    • 「X(名詞)について考えといて」といった、曖昧な指示を勝手に解釈 / 口頭で出された指示で、よく分かっていないのに再確認せずに作業に着手、など

    • そして、資料が完成してから「こういうことを考えてほしいわけじゃなかった」と言われてしまう

※ただ、メインターゲットが気づいてもいない論点を提示して、それに興味を持たせることができれば大きな価値が生まれることは事実です。この信念は一概に否定できるものではありません。

これらはあらゆる場所で観察されることですが、これを受け入れてしまうと説得の失敗へ一直線です。

解決策

どうすればいいのでしょう? メインターゲットときちんとコミュニケーションしていないことが原因なのですから、メインターゲットときちんとコミュニケーションするだけです。具体的には、以下のことを行ってください。

  1. (間にいる上司ではなく)メインターゲットに、

  2. 書いた疑問文を見せて、

  3. 「この問いに対する答えを資料にまとめるということでよいか?」と聞く

これで、先ほど挙げたコミュニケーション上の問題点がすべて解決されています。
これは今からあなたの説得を即座に改善するアクションです。作業に取り掛かる前に、論点を書いて、メインターゲットに見せましょう。これだけで、大きな手戻りが発生するリスクをゼロにできます。

書いた論点をメインターゲットに見せて、それに興味があるかを聞く

ちなみに、「論点は何ですか?」とメインターゲットにダイレクトに聞くのはまったくオススメできません。これが最も直接的な方法であることは事実ですが、相手もしっかり考えていないケースが結構あるのです。

この場合、論点を相手に問いかけると、「あなた、しっかり考えてないでしょ」と指摘しているように解釈され、感情的にこじれるリスクがあります。私の経験上は、こうなると「自分の頭で考えろ」という必殺のフレーズで切り返されますね。
あなたが先に疑問文を書いてしまえば、受け手は考えずに、選ぶことができます。書いた論点が正しくても間違っていても前に進むので、とりあえず自分で1つ用意しましょう。

応用テクニックとして、疑問文を複数(3つくらい)用意するという手もあります。たとえば、3つの疑問文を見せて、「私はAという疑問文を答えると解釈していますが、BかCという解釈もあると思います。Aで大丈夫でしたか?」と聞くのです。面子を気にするタイプの上司などに使ってみてください。

さらに細かいポイントですが、世の中には、問いやテキストだけを見せられても頭が働かないタイプの人が相当数います。このタイプに対しては、論点を見せるだけでは足りません。主張の候補(いわゆる「仮説」)や、根拠(これからするリサーチや、その結果の分析イメージ)まで説明しましょう。ただし、ここまでできるようになるには訓練が必要です。

ここで述べたアクションは、不自然なほど形式ばっていると感じるかもしれません。また、大きい組織で働いている人にとっては、簡単には実行できないこともあるでしょう。

それでも、ここはガチガチにコミュニケーションすべきです。繰り返しになりますが、論点がメインターゲットの問題を捉えていなければ、これ以降のあなたの仕事はすべてゴミ箱に入るのです。資料を作り切ってしまった場合など、物理的な意味で本当にゴミ箱に入りますよ(経験談)。シャレになりません。スライドを再掲しておきます。

このスライドが登場するのはもう4回目で、いい加減しつこいでしょう。しかし、それだけ重要なことなのです。論点が間違っていると、本当にどうにもなりません

論点を間違えるリスクを考えると、やりすぎなくらいコミュニケーションするのがちょうどいいのです。勇気を出して、いつもより確実なコミュニケーションをしてください。

受け手が不特定多数の場合

次に、セミナーや書籍のように、不特定多数の受け手を想定できる場合を考えてみましょう。

この場合、「受け手の問題を捉えた論点を設定する」というよりは、「設定した論点に興味を持ってくれる受け手を探す」という表現のほうが適切でしょう。Aさんは興味を持ってくれなくても、BさんとCさんは興味を持ってくれるかもしれませんよね。受け手が一人の場合より、自由度がずっと高いのです。

具体的には、以下の2つの要素のかけ算が最大になるような論点を探すべきです。

  • 設定した論点に興味を持ちそうな受け手の数

  • 興味を持ってくれた受け手にとっての、論点の重要度

これは要するに、いわゆる市場サイズを考えることに他なりません。ここから先はマーケティングの話になってしまうので、本書での解説は割愛します。興味がある人は別のコンテンツで学習してください。

以上、正しい論点の1つめの条件を解説しました。次のレッスンでは引き続き、2つめの条件を掘り下げていきましょう。

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