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【寄稿】なつかしさと優しさ - 対話と音楽の祈りの集い in 京都(2022年3月6日)

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後藤サヤカさん主宰の催し、『あらたな一歩を創造する "対話と音楽の祈りの集い"』に参加してきました(2022年3月6日、浄土宗龍岸寺(京都市下京区))。

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東日本大震災から、まもなく11年を迎えるということで、催しに先立って、宮城県気仙沼市から発信されている「ともしびプロジェクト」ご提供の青いろうそくが2本、ご本尊の阿弥陀如来さまの御前に灯されました。

1本は、震災で尊い命を落とされた人たちのために。
もう1本は、いまここに生かされて生きている私たち自身のために。

そのあと、龍岸寺の池口龍法ご住職による勤行がつとまりました。
浄土宗のおつとめというのは、私にとってはこれまでほとんど経験がないものでした。池口ご住職の読経の声がだんだんに熱を帯び、テンポが速くなって、普段比較的慣れ親しんでいる曹洞宗のおつとめとは全然違う雰囲気に、ちょっとビックリもしましたが、参加者全員の読経の声が、日常から非日常的な時間と空間へと移行する、よい準備となったように感じました。

僕に"対話"なんて出来るのだろうか?

催し本編に入って、浄土真宗僧侶の藤岡延樹さん(浄土真宗本願寺派楷定寺(大阪府高石市))のファシリテーションによる、対話のワークショップが始まりました。20数名の参加者全員がひとつの円座になって、ひとり一声ずつお鈴を鳴らしながら、鈴の響きと共に、いまの心ばかりの気持ちを一言ずつ場に供していきます。

「対話の集い」という趣旨をうかがって、私は多少なりとも身構えていたように思います。なにしろ、相手の話を聴くのが苦手で、誰かと話すともっぱら自分の話ばかりしてしまう。そんな僕に"対話"なんて出来るのだろうか…と思っていました。
でもそこは、2015年12月からの長い付き合いでいつも仲良くしてくださるサヤカさんが居るし、「聴くこと(相手の話を聴くこと、法を聞くこと)」に特に長けている(…と私は思っている)浄土真宗僧侶の方々、延樹さんや飯田正範さん(真宗大谷派瑞因寺(名古屋市中川区))、「京都からだ研究室」で探究の場をご一緒している日野唯香さんたちの存在が頼もしく、この人たちがいるなら安心かな…と思えたのが、参加しようと思った決め手でした。

20数名の参加者のうち半分くらいは、どこかで一度でもお会いしたことのある顔見知りであることも知っていて、その点でも安心していたのですが、いざ最初の円座が始まって、全員の顔を見渡してみると、半分以上が「初めまして」の方たちばかり。そのことで事前に感じていた緊張がさらに強まるのかと思ったら、それとは逆に、なぜかはわからないけれど、初めましての方がたくさんいることに"嬉しさ"を感じている私が居ました。
この「なぜだかわからないけれど」は、この会が終わった後に「ああ、そういうことだったのかもしれないね」というのが見えてきたのでした。

修行は"生"それ自体で、それは愉しいことのはず

そのあとは、3~4人ずつの小グループに分かれての対話の時間でした。
私は、浄土真宗の僧侶の女性の方、天台宗僧侶で占い師としても活動されている男性の方とお話しました。
私たち3人での話題は、かいつまんで言うと

「修行というのは本来は愉しいことのはずで、ひいては"いのち、生"それ自体が愉しさとしてある」

ということになるかと思います。
天台宗僧侶の占い師の方は、ご自身に備わった霊的な能力を活かして占術を行うのだそうですが、

「私自身も、それから知り合いの占い師の人にも、霊能力や超能力みたいな能力を持った人がいるけど、そんな"私は(〇〇は)こんな能力を持っている"…なんてことは、ほんとうにどうでもいいことだと思う。そんなことより、あなたも私もいまここに生きているという圧倒的な事実のほうがずっと大事だ」

という言葉が、とても印象深く心に残っています。

問いを体現する生き方がしたい

私も、2016年から4年間お世話になっていた「藤田一照仏教塾」の学びの場に参加していた他の人たちのことを見ては、「あの人はお坊さん。あの人は外資系の有名な企業に勤めている人。あの人は自ら起業して活動している人」…というように、人を観る観方が皮相だったのでした。上っ面だけを観ていたのでした。

でも、この3人での対話や、この催し全体がが終わった後に、もうそういう生き方はやめようと思いました。

何というのか……出会う人に「いま、あなたは幸せですか?」と問える人になりたい。言葉を上手に使える時は言葉で。そうでない時は、「いま、あなたは幸せですか?」という問いをこの身体の佇まいでもって体現できるような在り方を目指したいと思ったものでした。

話そうと思っていたこと

スモールグループでの話し合いがあるのを知って、「こういう話ができれば…」と、事前に考えていたこともありました。それは「自分事(じぶんごと)」というテーマ。

話の角度は少し変わるのですが、その作品が国際的に高く評価されている日本の映画監督、河瀨直美さんが、東京オリンピック2020の公式記録映画の監督として映画制作に携わっている模様を取材してNHKで放送されたドキュメンタリー番組の中で、

「国際社会からオリンピックを7年前に招致したのは"私たち"です。そしてそれを喜んだし、ここ数年の状況を"みんな"喜んだはず。だからあなたも私も問われる話。私はそういう風に(この記録映画で)描く」

という趣旨の発言をして、「"私は"五輪を招いた覚えはない」というように、ネット上で大炎上を招いた事例がありました。
なぜ河瀨直美さんはこのようなことを言ったのか。その真意はどこにあるのかを、折に触れ考えています。
これは、オリンピックを巡る様々なよいことも悪いことも「自分事」として受け止められますか?と、直美さんが私たちに"問い"を投げかけているのだと思いました。

震災のことに話を戻すと、11年の月日が流れて、あの震災のことが雑多な日常に紛れてだんだん自分事でなくなっていく感覚があります。実はとても身近なところに"津波サバイバー"がいるにもかかわらず、です。

岩手県で曹洞宗僧侶をしている佐藤良規(さとう・りょうき)さんは私の従兄弟で、11年前に岩手県釜石市で津波に遭い、生還したという経験があります。今回の催しでファシリテーターを務めてくださった延樹さんのお寺、楷定寺の永代経の法要(2018年4月)で、良規さんが津波に遭って助かった時のことをお話してくださっている法話のYouTube動画を下にシェアします。40分ほどの映像ですが、ぜひ一度ご覧になって、この記事をお読みいただいている皆さん一人ひとりにとっての「自分事」に少しでもなるように願っています。

響きによる祈り

日野唯香さんのガイドによる短い瞑想の時間を挟んで、サヤカさんのパートナーでクラシックギタリストの西下晃太郎さんの奉納演奏がありました。

ここで晃太郎さんは、「次は〇〇の曲を演奏します」というような説明を一切せずに、短い曲を4曲ほど(その最後は、誰でもよく知っている唱歌「ふるさと」でした)演奏してくださいました。その、言葉による説明がなかったのが実に良かった。いつの時代の音楽、誰が作曲した曲などの属性、もっと言えば、音楽であることからすらも離れた、"ただ純粋な響き"がそのまま祈りとしてお堂の中に静かに響くような、そんな時間でした。晃太郎さん、いつも素敵な演奏を聴かせてくださって、ありがとうございます。

くつろぎはなつかしさ - 言葉のお供え物

最後にもう一度、全員がひとつの大きな円座になって、この対話と祈りの場から離れてまたそれぞれの日常に戻っていくにあたって、言葉にできる限りの言葉を一言ずつ話しました。それをガイドしてくださった延樹さんの、

「もしよければ、言葉のお供え物をしていってください」

という言葉がとても素敵でした。

私は、この催しに入る前の緊張感や戸惑いがすっかりほどけて、呼吸が深く大きくなり、肩の力も抜けて、くつろいだ身体と心の状態にありました。それをもう少し違う表現で言えたら…と思っていた時に、先に発言された方が「なつかしい」という言葉を出してくださいました。「あぁ、これだ」と思いました。このくつろいだ感じは、なつかしさだったんだ…と。

このなつかしさは、例えば「〇〇年にこんな出来事があったね。君に会うのは〇〇年のあの時以来だね。なつかしいね」というような、私の人生の時間軸上にあるなつかしさ…というよりは、もっと根源的な。根源的という言葉が重くて固いなら、もっとユニバーサルななつかしさとでもいうのでしょうか。

龍岸寺のご本尊、阿弥陀如来のお荘厳。なんて素敵なんでしょう。南無阿弥陀仏。

今回の京都での対話の集いでは、龍岸寺さんのお堂という場の力、「聴くこと」に特に長けた延樹さんや飯田さんや唯香さんの存在、そして、それぞれに"問い"や"願い"を持ち寄って集まった参加者の皆さんの存在が、それぞれの個性の違いがあるままに同じただのいのちとして居合わせることをお互いに支え合っていました。

言葉で直接話し合うだけでなく、言葉を交わし合うことがなくても、くつろいだ身心がただそこに居合うだけで「対話」がなつかしく響き合う、そんな貴重な場に居られて、ほんとうによかったです。

京都から近鉄特急に乗って自宅へ夜遅く戻ってくると、これまでのことが思い浮かびました。

2016年に初めて一照塾に参加して以来、きょうの京都での対話の集いに至るまで、出会う人出会う人みんな優しい人たちばかりだった。こんな奇跡ってあるだろうか?

場を共有してくださったすべての皆さんに感謝しています。ありがとうございました。

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