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年金の受給資格期間10年で思い出す相談事例とは!

私は15年以上、年金の相談業務をしてきました。

その中で、相談業務を始めた頃に多かったものの、その後は大きく減ったご質問があります。

それは「私は年金がもらえますか」というものです。

日本の年金制度は、原則として25年の納付済み期間等がなければ、老後になっても一円の年金も受け取ることができないという時代が長く続きました。

ただ、25年という年数に根拠があったわけではなく、どうやら制度設計時の議論の中で、25年という年数が決められたのではないかと言われています。

しかし現実問題として、25年では「無年金」の人が多く誕生します。

実際の年金相談でも、数パーセントの割合で無年金になると思われる人が訪れていました。

この25年が10年になったのは2017年(平成29年)8月です。

10年にも特別の根拠はありません。

ただアメリカなど諸外国が、年金の受給資格期間を10年としている場合が多かったこと。

逆に1年や2年など期間が短いと年金額が少ないだけでなく、事務に要する費用が多くなってしまうこと。

このような経緯から25年から10年へと、年金の受給資格期間が短くなっています。

受給資格期間が10年になったことで、年金相談でも無年金の人は少なくなりましたし、相談の時点では10年ないという人でも、今後、少し頑張れば10年作れるという人がほとんどになっています。

年金の受給資格期間が10年になったことで無年金の人は少なくなりました。

しかし、今度は「低年金」の問題が生まれ、こちらについては2019年10月から「年金生活者支援給付金」という新たな制度が誕生しています。

さて、私はこれまで5,000人以上のお客様と接してきました。

年金はオーダーメイドの商品と同じなので、お伝えする内容は一人一人さまざまです。

しかし、大きく分類すると相談内容を数十程度にまとめることができます。

そのため多くの人と接しても、相談内容を忘れてしまうことが圧倒的に多いのが実際のところです。

でも、類型化できないお客様の話は記憶に残ります。

そこで、この記事のテーマである「年金の受給資格期間が10年になって思い出す事例」をご紹介します。

この記事は私の経験談で、年金に関して何かの知識をお伝えするものではありません。

お時間のある時にお読みいただければ幸いです。


年金の受給資格期間10年で思い出す事例

お客様の情況

この話は2011年の頃、2017年に年金の受給資格期間が10年になるずっと前のことです。

私のもとに50歳台後半の女性のお客様が来られ、開口一番「私は年金をもらえるのかしら」というご質問が発せられます。

そこで私が「年金手帳はありますか」と尋ねると、持っていないし見た記憶もないと言われます。

次に、お客様が自営業であることが分かったので、「国民年金保険料の納付書は届いていますか」と尋ねると、届いたことはないと答えられます。

さらに、2009年度から年金制度に加入している方には「ねんきん定期便」が届いているはずなので「見たことはありますか」と問いかけると「見たことはない」と回答されます。

そこで、次に年金加入履歴をお伺いすることにしました。

そうすると、過去に厚生年金に数か月加入し、国民年金保険料も支払ったことはあるが、合計しても3年程度というお返事です。

お客様が相談に来られた2011年当時、年金は25年の受給資格期間が必要でした。

ただし、すべてが納付済期間である必要はなく、合算対象期間(カラ期間)を足して25年あれば年金を受け取ることができました。

合算対象期間はいくつもの種類がありますが、私は合算対象期間を探すべく「結婚したことはあるか」「海外に住んでいたことはあるか」「生活保護を受けていたことはあるか」などいくつかのご質問をしましたが、合算対象期間に結び付きそうなものはありませんでした。

ここで私が疑問に思ったのは、なぜ国民年金の納付書が届かないのか、どうしてねんきん定期便が届かないのかということです。

そこで、私は「以前、国民年金保険料を支払ってくださいと、自宅に誰か訪ねてきたことはなかったですか。そして、その時に支払う意思はないと納付拒否をしませんでしたか。」とお尋ねしました。

そうすると、女性はそれほど厳しい言い方をしたことはないけれど、支払う気はないと話したことはあるということでした。

昔は今よりもはるかに緩やかで、こうした納付拒否をすると、その後は納付書が送られない時代もあったようです。

納付書が送られなければ、記録も途切れ、やがてなくなります。

1997年に基礎年金番号制度が始まりましたが、それ以前に記録が途切れていた人には、基礎年金番号通知書が送られるどころか、基礎年金番号さえ付番されなかったようです。

いろいろなパターンがあるので断言はできないものの、納付拒否をしたことが、納付書やねんきん定期便が届かない原因になったように思われます。

お客様へのご提案

お客様の情況を確認したうえで、私はいくつかのご提案をします。

最初のご提案は、年金事務所で記録を確認し、そのうえで免除申請をすることです。

しかし、お客様の所得を伺ったところ、免除が承認される可能性は低いことがわかりました。

それでも、漏れた年金記録の可能性も考えられるので、一度は年金事務所に相談に行くことはおすすめしています。

次に、年金の受給資格を作ることをご提案しました。

ただ残念なことに、2011年当時の年金受給資格期間は25年です。

25年が10年になったのは2017年で、当時は25年を10年にするという機運こそあったものの、法案にもなっていない状態でした。

納付済み期間が3年程度で、合算対象期間もない50歳台後半の方が25年を作ることはできません。

ただ10年であれば国民年金の特例任意加入することで、60歳台後半には受給資格を作ることができるので、その可能性をお伝えしました。

もっとも、受給資格期間が10年になっていない段階では、しっかりとしたご提案をすることはできません。

また仮に10年で受けられるようになったとしても、無年金でなくなるだけで低年金であることに変わりはありません。

結果的に私のご提案が実を結ぶことはありませんでした。

お客様が相談に来られた理由

最後にどうして相談に来られたのかお伺いしました。

お客様は、年金をもらえると思っていなかったけど、友人に相談に行くように言われたからと答えます。

そして、払っていない責任は自分にあるのだから仕方ないし、私は個人年金に加入していて老後の収入はゼロ円にはならないので、何とかやっていけそうだと語りお帰りになりました。

ザバサバとしているようでしたが、お客様の後姿には一抹の寂しさが漂っているように見えました。

まとめ

このお客様がもう少し若く、ご相談に来られるのが数年遅ければ、10年のこともしっかりと伝えられたでしょうし、そのためのご提案もできたはずです。

この段階では、これ以上踏み込んだご提案ができなかったのは、とても残念です。

さいごに

この記事では、年金の受給資格期間が10年になって思い出した事例をご紹介しました。

年金の受給資格期間が10年になったことで、以前のような無年金のお客様は激減していますが、一方で低年金の人は多くなっています。

確かに、年金制度に対する不信感や不安感はあるかもしれません。

また、今後の年金額は少子高齢化の影響で目減りをしていきます。

それでも終身で支給される公的年金は、多くの人にとって老後の収入の大きな柱になります。

できれば早い段階で、低年金を避けるための対策を立てておきたいところです。

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