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立秋|2023.8.8-2023.8.22

日々の食卓、食卓での会話、食材やレストラン、食に関する本や映画、イベントなど、食にまつわることだけ書く日記のような「食雑記」。節気毎に更新。

8月8日(火) 買い出しからの夏が凝縮したトマトソース

立秋、お盆前のスマイル阪神は大混雑。旬島(入ってすぐの平台を勝手にこう読んでる)のひとつはトマト、ひとつはオクラと無花果。トマトとオクラと言えば、アメリカ南部のガンボスープ。なるほど、あれも旬の料理か、と納得する。
レジの長蛇の列に並びながら、今でこれなら、お盆前はどれだけ混むんだろう、とふたりで話していたら、列の前のほうから全く同じ会話が聞こえてきた。みんな考えることは一緒。レジ近くになって、ふとしたきっかけで後ろの老夫婦とおしゃべりが始まる。うちの買い物カゴをみて「お店やられてるんですか?」と言われて、ふたりで吹き出す。確かにふたりで食べる量じゃない。我が家では思わず2パック入れてしまった、完熟ではちきれそうなミニトマト220円、これだけ美味しそうなのがこの値段、お買い得ですよ、といったら、じゃあうちも、と取りに行く。私たちの会話を聞いていた、その後ろのお母さんも、私も買うわ、と取りに行く。そろそろスマイル阪神大使に任命して欲しい。

昼食は、ミニトマトを1パック全部使って、トマトソースにする。畑ですでにセミドライになっているのか、フライパンでも汁がねっとり。形の残ったトマトはまるでアミノ酸爆弾。これは酷暑の贈り物だ。知らない人にいいもの勧めていい気分。

8月10日(木) メキシコ風サラダ爆誕とインド料理の夕食

朝のサラダがトマト、キュウリでマンネリ気味。トマトはたくさんあるので使いたい、赤(から緑のグラデーション)のパプリカ買ったんだった、で真っ赤っかサラダにしようと思い立つ。どうせ赤なら、辛くない粗挽き唐辛子もふっちゃって、まあ、赤くないけどやっぱりこれがなくてはと玉葱スライスもいれたら、なんとなく、メキシコ料理っぽくなった。朝の一瞬で新しいサラダ誕生。パプリカと唐辛子の風味が重なって、朝食に新しい風が吹く。毎朝のサラダ考える時間が一日で一番さえている時間かもしれない(もう少し使いどころ考えたい)。

久しぶりにひとりで夕食担当。朝に漬けておいた手羽元のタンドリーチキンにつられて、私にとっては珍しくインドカレーをつくることに(スパイス系は基本恋人担当)。インドは暑いし、カレーの加熱時間はそもそも短いはず、と思って調べたら、やっぱり5分とか15分とかのレシピが出てくる。『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』のエリックサウスの稲田さんの記事を参考にヒヨコ豆のカレーをつくったら、15分とは言わないまでも、結構さっと出来あがる。蓋をしたまま加熱している時間も長いので、台所もそんなに暑くならない。これなら昼食でも行けるかも。

カレーもあっさりと美味しかったけど、意外なほど美味しかったのが、タンドリーチキン。かぐわしい料理、という感じがした。カレー粉を切らしていたので、ガラムマサラにターメリックを足し、それだけだとバランスが崩れる気がして、追いクミンしてミックスをつくった。それが効いたみたい。こんな風に何かがないときに、代用を考えるのが好き。そうするとたいてい新しい美味しさに会えるから。

8/12(土) みんぱくで韓国(食の)旅の予習

昨日は、朝から避暑しにみんぱく(国立民族学博物館)へ。開館直後から閉館まで約7時間。広くて涼しくて知的刺激に溢れた空間で、自由に過ごすなんて、ものすごい贅沢。しかも全然混んでない。付属のレストランはあまりそそられないので、具材持参、行きがけに焼きたてフランスパンを買って、休憩スペースでサンドイッチピクニック。

到着してすぐ、これまで行ったことのない付属図書館に入ってみる。受付でセキュリティカードを借りないと、フロア自体に入れなくて、大袈裟だなあと思っていたけど、円柱形5層の書庫に入って納得。箱に入った巻物があったり、畳半畳くらいの大判本があったり、収蔵庫にありそうなものもあった。これは、セキュリティ大事。

10月に釜山に旅行する予定があるので、せっかくだからと韓国の食に関するマニアックな文献を探す。一番面白かったのは、味の素が発行する「食文化に関する用語集 朝鮮半島の調理と料理」という冊子。研究の経緯については詳しく述べられてはいなかったけど、「うまみ」という日本固有の概念が商品となっている味の素は、ビジネスを展開する国ごとに、その国の味覚表現などを十分リサーチした上でマーケティングを考えていくのだろう。印象に残ったのは、嗅覚と味覚が組み合わされたもの、触覚と味覚が組み合わされたものが、味覚の言葉として扱われていたこと。前者は「なまぐさい味、けものの匂いのする味、ごまのような味、くさった味」、後者は「脂っこい味、あっさりしていなくて美味しくない味」。もちろん、こういう表現は日本でも成立するだろうけど、なんというか、一般的な味覚表現として使われるというところに、その土地の食文化が見え隠れする。現地でいろいろなものを食べていくうちに実感するのだろうか。あと、味覚表現から食文化を見ていくという視点に、わくわくした。

あとどうでもいいけど、手にとる本、手にとる本に大抵「梅棹文庫」の蔵書印が押されており、「梅棹忠夫先生 石毛直道」とかサインが書いてあったりして、みんぱくの歴史に触れた気がして、ひとり盛り上がる。

勢いづいて、今日は韓国の食がテーマ!と、常設展示もビデオテークも韓国づくしで。常設展示には、1920年代からの朝鮮半島での味の素の広告が展示されており、太平洋戦争の激化により撤退したとあった。図書室の資料は、再度の進出のためのリサーチかと納得する。祭礼の食器も実際に見ると迫力ある。

ビデオテーク(資料映像の鑑賞ボックス)では、農村と都市のキムチづくりの対比や、旧正月の祭礼の一連の準備など、食に関するものを片っ端から見る。150株の白菜をつける農村のキムチづくりは圧巻で凄まじかった。なぜそんなに漬けるのかという問いに、田舎では老いた両親が亡くなると、葬式で振る舞わないといけないから、という答えで驚いた。ほんと?そして、浦河でお世話になったお宅の飯寿司づくりのことを思い出す。あと、半株の白菜の包み方を初めて知った。お店で見たあの形はこんな風につくられているのか、と。祭礼のお供えは、在日韓国人の友人の投稿で初めてみた時は驚いたけど、本当に準備が大変そうだった。果物など、ご先祖が食べやすいように、一番上の1個は皮をむいておくとか、他ではあまりみたことのない設えは儒教から来ているのかしら。市場の一日を追う映像もあったりして、そうそう、市場もいかなきゃと盛り上がる。旅の予習にみんぱく最高。

8月13日(日) 30の村々の料理を食卓に並べるイスタンブールのシェフ

netflixを近々解約する予定なので『シェフのテーブル』でまだ観ていない回を片っ端から観ていこうと決める。今日観たのは、シーズン5のイスタンブールのレストラン「CIYA (チヤ)」のシェフ、ムサ・ダグデヴィレのドキュメンタリー。シェフが、生まれ育った田舎を離れて(恐らく政治的理由で)は、イスタンブールに出てきた時に思ったのは、みなが持ち寄った地域の豊かさが、イスタンブールを彩り豊かにしている、ということ。それが、90年代の政治的混乱の中で、人々は対立し、自分以外の民族や宗教の文化を貶めるようになる。クルド料理は食べない、スンニ派の料理は食べない、トルコ人の料理は食べない、と人々が分断されていく。イスタンブールの豊かさはその多様さにあったはずなのに、それを表現する店がなくなっていく。そんな中、シェフは40の村をめぐって、失われつつある土地の料理を記録し、その料理をすべて店で出すことにするのだ。自分の故郷の料理がある、自分たちの文化が守られている、と知った多様な人々が店にやってきて、食卓に並んだ多様な料理を通して、それぞれの土地の違いを共有しあう。そこでは違いは憎しみではなく、再び喜びになる。食卓に、土地の誇りと独自性を伝える多様な料理を並べることによって、人々を交わらせてしまう、力強いレストランだった。これは『シェフのテーブル』の私にとってのベスト3に入るかもしれない。絶対に行きたい。

8月14日(月) 5種の餃子のコース

夕食に餃子をつくる。基本、餃子は恋人担当で、包むところだけ一緒につくることが多い。ただ、今日はなんとなく、いろいろな餃子をちゃんとつくりわけて味わいたいという気持ちになって、珍しく私がリードした。メニューはベーシックな白菜の餃子、茄子味噌の餃子、切り干し大根の餃子、椎茸と五香粉の餃子、三鮮(豚肉、海老、ニラ)の餃子。合わせ材料と個別の調味料を小さなボウル5個に用意しておき、基本調味料と豚ひき肉をあわせた肉だねを5分割して、1種ずつ混ぜて、包んでは、焼いていく。進行しながらの段取りは致命的に苦手なのだけど、きちんと計画した上ですすめていくのは得意なのを思い出した。これだけきちんとつくりわけると、食感も風味も全然違って、本当にコース料理という感じになる。調理器具を食卓に馴染むものに変えられたら、食卓でつくりながら、焼いて食べるというのも、成立しそう。5種の中では、三鮮餃子が最高だった。あれは間違いなくご馳走。

デザートは、自家製苺ヨーグルトアイス。アイスといっても、砂糖をかけて凍らせておいた苺と自家製ヨーグルトを合わせてフープロする、ほとんどスムージーのようなものだけど。でもこれが、本当に美味しい。苺の酸味が生かしたまま、ミルキーになって、苺をそのまま食べるよりも美味しい気がする、とは恋人の言。

8月16日(水) 私的な記憶を表現として料理にする

netflix『シェフのテーブル』シーズン2のサンフランシスコのレストラン、アトリエ・クレンの回を観る。アメリカで初めてミシュランの二つ星をとった女性シェフとのこと。フランスのブルターニュで生まれ育ち、自由を求めてサンフランシスコにやってくる。ブルターニュもサンフランシスコも海のある街。
詩を書くところがスタートで、一行が一皿の料理に相当する。皿の上で景色をつくる感じとかは、和食からインスピレーションを得ているのかもと思う。コースが詩を味わうようなものであるというのは素敵だけど、全体が父へのオマージュと説明されてしまうと、ちょっとウッとなってしまった。レストランでそれを食べて味わうってどういうことだろうと。でも、私的な記憶が表現に反映されることなど、別に珍しいことではない。料理に私的な記憶が意識するしないにかかわらず埋め込まれているのは当たり前のことだ。では一体私は何に抵抗を感じたのか。じっくり考えていきたい。

8月19日(土) 世界料理人の料理教室と猪名川花火大会一(と自慢したい)の花火弁当

兵庫県立神戸生活創造センターの「しんながたHello  Market」のプログラム、「つくってみよう!世界のごちそう」という料理教室に行く。講師の本山尚義さんは、「世界のごちそう博物館」という世界中の料理をレトルト食品にして販売している方で、いつかお会いしたいと思っていた。今回のテーマはベトナムとスリランカ。長田には多くのベトナムとスリランカの人が暮らしているからとのこと。個人的にはスリランカのお菓子「サマポーシャ(ココナッツきな粉団子)」のが、初めて知る料理で、楽しみにしていた。調理室は、壁全面の窓が通りに面していて明るくて、とっても気持ちがいい。近くに住んでいたら、この調理室だからこその企画をやりたくなるだろうなあ思う。普段は料理をしないという男性お二人との3人チームで、ベトナム生春巻き、ハリップカレー(ハリップはレンズ豆の意、つまりダルカレー)、サマポーシャをつくる。料理教室に参加するのは久しぶりで、初めて出会う人と分担しながら料理をつくっていく楽しさを思い出す。贅沢な料理をするからと台所に入れてもらえないという男性が調理のハイライトを担当したり、マーケットにも出展しているお花屋さんの男性の春巻きの盛り付けにフラワーアレンジメントのセンスを感じたり。料理の過程で見えてくるその人らしさって、生活や仕事も透けて見えるからか、とても親しみやすく、愛おしく感じる。

出来上がった料理を食べながら、本山さんの、今回の料理教室を始めとする、ご自身の活動についてのお話しを聞く。フレンチは世界一の料理だと思いながらシェフをしていたところから、ひょんなことで旅したインドで世界には多様な料理があり、それぞれに魅力があることを知り、その後数年かけて旅しながら30カ国の料理を学び、世界の料理を出すレストランをオープン。2年かけて、世界195カ国(当時)の料理を2週間毎に入れ替えながら全て出すというとてつもない企画も実現!しかし、飲食店ではどうしても避けられないフードロスの問題に苦しんで、食材を使い切れるレトルト商品製造に舵を切り、現在は70種類近くの料理を販売している。世界の料理を通して様6,019々な国を知ることは、平和につながる、とシンプルに言い切られたことに、いろいろな国をめぐって体験してきたことが土台になっているのであろう、信念を感じた。じゃあ、私にとっての料理を通して世界を知ることは一体どこへつながっているんだろう、と考えさせられる。

本山さんがつくったという世界195カ国の料理の写真に圧倒される

神戸から戻って猪名川花火大会へ。川西能勢口駅で恋人と待ち合わせして路線バスで会場に向かう。私が出かけていたので、彼が全ての準備をしてきてくれる。
彼のお母さんから届いた美味しい鰻を使った鰻と胡瓜の混ぜ寿司にこのあたりの地酒「摂州能勢」。焼きトウモロコシと、焼き枝豆に、獅子唐の肉巻き。会場内で一番贅沢な花火弁当じゃなかろうか。あまりに美味しくて、二合の混ぜ寿司を二人で完食してしまう。

打ち上げ場所間近で観る花火は、やっぱり迫力があって、最後は本当に花火に包まれるような気分だった。会場には、近所に暮らしているのではないかと思われる外国人もちらほら見かけた。老いも若きも、富めるものも貧しきものも、人種も宗教も関係なく、みんな一緒に息を呑んで夜空の花を眺めている時間はやっぱりいい。
帰りは万代川西加茂店でずいぶんしっかり涼ませてもらい(食品毎の冷蔵ケースの設定温度を全部把握した)、凍ったソルティライチのパウチ入りを買って、首筋にあてて身体を冷やしながら帰る。

8月21日(月) 今年初めての酢橘そうめん

今年初めての酢橘そうめん。いつも、夏の暑い盛りに食べ始めた記憶があったけど、出荷時期は8月中旬くらいからみたい。はしりの味わい。残暑を涼やかにしてくれる料理ということか。



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