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食の本棚

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食にまつわる本や映画の紹介や感想。
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2020年6月の記事一覧

食材を生き物としてみる|木

食についての本を紹介しようと思って、木についての本を紹介するのは、少し奇妙に思われるかもしれない、と思いつつ、それでもやっぱり選んでしまったのは、幸田文のその名も「木」という本。 この本は、幸田露伴の次女である著者が、日本中の様々な木に会いに行き、その生き様について、生々しく綴っているエッセイ。例えば、一編目は、北海道のエゾマツの倒木更新のこと。自然林の中で、一本の木が生命を終えて倒れると、倒木の上に乗った種が、一筋開いた空から太陽の光を掴んで芽吹き、一直線上に新しい木々が

古くて新しい組み合わせに出会う|風味の事典

先日「食べる世界地図」という本について書いた。異国の料理を食べたときに確かに感じている、その国の料理らしさ、みたいなものは、何によって規定されているのか、その個別性を明らかにしてくれる本として。 一方、この「風味の事典」は、ある食材ににどんなものを組み合わせるか、ということについて書かれている本だ。99種類の食材を16種の風味に分類した上で、それぞれの食材に何を組み合わせるか、ということを、各国の伝統料理から星付きレストランの料理まで、幅広い事例から集めている。つまり共通性

その国の食を貫ぬくもの|食べる世界地図

昔から、異国の料理が好きだった。私が、食文化というものに自覚的に向き合ったのが、20歳の時に初めてひとりで旅したイタリアだったというのも大きいと思う。次に夢中になったのはスペイン料理だったか。青山のスペイン料理、新宿のタイ料理、池ノ上の台湾料理、原宿のメキシコ料理。その国の特徴的な食材やスパイスを使っているだけのなんちゃって料理ではなく、その国の食文化を忠実に再現しているような料理を出してくれるところを選んでは、くり返し通った。 行ったことのない国もあったのに、これは本場っ