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きょう心にしみた言葉・2022年10月11日

だからこそ、ネガティブ・ケイパビリティが重要になってくるのです。私自身、この能力を知って以来、生きるすべも、精神科医という職業生活も、作家としての創作行為も、随分楽になりました。いわば、ふんばる力がついたのです。それほどこの能力は底力を持っています。

「ネガティブ・ケイパビリティ 答えのでない事態に耐える力」(帚木蓬生・著、朝日新聞出版)

ネガティブ・ケイパビリティ。直訳すると「負の能力」ですが、精神医療の分野では「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」と定義されています。答えを出さない、悩み続ける、宙ぶらりんでいる。すぐに答えを求め、効率を求める現代とは、正反対のものです。「ネガティブ」な状況に居続けることに、生きる価値を見い出していく能力です。日本でも広く知られるきっかけをつくった帚木蓬生さん自身が振り返るように、帚木さんをはじめ多くの人がそこに救いを見つけています。帚木さんが綴ったこの本にはいくつもの人間ドラマが描かれています。中でも、ネガティブ・ケイパビリティという言葉が生まれ、今も多くの人の胸に届いている「奇跡のドラマ」には胸が熱くなります。19世紀初めに活躍し早世した天才詩人、ジョン・キーツが、生涯に一度だけ、弟たちの宛てた手紙の中に書き記した言葉がネガティブ・ケイパビリティでした。その言葉を、170年後、精神科医のウィルフレッド・R・ビオンが見い出し、世界に広めたのでした。


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