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ヒストリー㊱あしたへー・自殺報道2011年

繰り返される危険な報道

2011年5月、女性タレントが自殺で亡くなると、多くのスポーツ紙や雑誌、テレビの情報番組で、またもや詳細な報道が繰り返されました。それらの報道に呼応するように、若い女性の自殺者が急増しました。この女性タレントの自殺報道について、当時内閣府参与だったライフリンクの清水康之代表は注意を呼びかけました。しかし、メディア側の理解はなかなか広がりませんでした。

そんな無理解と誤解を象徴するように、あるスポーツ紙は「菅直人内閣がとんでも発表 女性タレントに自殺者急増押し付け」と大きな見出しで報じました。自殺報道がさらなる自殺を誘発することは、WHOのガイドラインをはじめ専門機関や専門家が様々なエビデンスをもとに指摘してきたことです。「とんでも発表」であるわけがなく、清水代表がこのスポーツ紙に連絡をして担当記者に直接状況等を説明して理解を求めたところ、修正記事を掲載しました。取材後記として「これまで本紙をはじめ多くのメディアが著名人の自殺報道をしてきたが、今後はその影響を鑑み最新の注意を払うべきだろう」と記しました。

また、内閣府参与としての発表を「●●●●(←女性タレントの実名)の自殺で急増か」と伝えた新聞は、やはり清水代表の指摘を受けて「自殺報道で急増か」と訂正し、「自殺を誘発しない報道をめざしたい」という担当記者の署名記事を出しました。

ライフリンクの粘り強い働きかけなどによって、こうした訂正や修正の記事が出される中にあっても、メディア側には、自殺報道批判への反発が根強くありました。ある新聞は、週刊誌ライターの話として「細かい事実を積み上げて検証するのが雑誌ジャーナリズムであり、WHOのガイドラインは取材の足かせになる。自殺者の事情を詳しく報道することで、自殺志願者に『自分とは違う』と認識させ、安易な同一化を防ぐ効果もあるはず」という主張を紹介しました。

さらに、2017年暮れ、「自殺を誘発しない報道をめざしたい」と決意を書いた新聞が、自殺した韓国アイドルの遺書全文をデジタル版で報道しました。遺書の全文報道は、WHOのガイドラインをはじめ、専門家がさらなる自殺の誘発を招くと強く戒めていたことです。ライフリンクも即座に指摘し、ネットへのアップから1時間余りで削除されましたが、厳しい批判を浴びました。この新聞は検証記事を掲載して、「自殺を誘発しない報道」への決意を改めて示しました。

=続く 次回は、㊲自殺報道2022年 です。

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