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ヒストリー㊲あしたへー・自殺報道2022年

異例の注意喚起


2020年にも、著名人の自殺報道によって自殺で亡くなる人が急増する事態は繰り返されました。この年、男女の有名俳優2人が相次いで自殺で亡くなった時、顕著な増加が見られたのです。
コロナ禍に見舞われた2020年は、多くの人が仕事を失い、人との交流を絶たれ、社会の自殺リスクが飛躍的に高まった時期でもあります。
2020年の全国の自殺者数は、19年より912人(4.5%)多い2万1081人でした。10年連続で減少していた年間自殺者数は、リーマン・ショック後の2009年以来、11年ぶりに前年を上回りました。

これを機に、厚生労働省や厚生労働大臣指定法人・一般社団法人いのち支える自殺対策推進センター(代表理事はライフリンク代表でもある清水康之)が、メディアやインターネットプラットフォーマーに対する働きかけを強化し、自殺報道に関するメディア関係者向けの勉強会なども繰り返し開催されました。
そうした流れの中、報道の後には、必ずと言っていいほど悩んでいる人のための相談窓口が紹介されるようになりました。また、メディアがそれぞれの記者に向けて作成した事件報道の手引きにも、WHOの自殺報道ガイドラインが掲載される例が増えました。
インターネットプラットフォーマーも、記事の見せ方に工夫を重ね、思い悩んでいる人を支える情報の流れをつくろうとしています。

しかし、自殺報道の取組は全国的には改善されてきているものの、一部にはまだ自殺報道ガイドラインに反する報道・放送が行われています。
2022年5月、有名男性タレントが相次いで自殺で亡くなった時は、あるテレビ番組が、男性タレントの自宅前から中継しました。自殺の手段についても言及した報道もありました。街頭インタビューで市民の反応が放映され、生前の映像も繰り返し再生されました。これらは、自殺リスクを高めかねない報道でした。

この時、厚生労働省は、メディアに向けて、1日2回という異例の頻度で注意喚起の文書を公表しました。「子どもや若者、自殺念慮を抱えている人に強い影響を与えかねません。一昨年は自殺報道の影響とみられる自殺者数の増加がありました」として、WHOの自殺報道ガイドラインを踏まえた報道・放送の徹底を求めました。

その後も、配慮を欠いた報道はあります。7月2日に神戸市で男子高校生が飛び降り自殺した事件では、あるテレビ局が、事件現場の詳細な映像に加えて、高校生がどのような経路で屋上に上がったのかを追跡する映像を流しました。WHOのガイドラインは「発生した現場や場所の詳細を伝えないこと」を強く求めています。

自殺をなくすための報道をどのように実現していくのか。メディアの責任の重さはもちろんですが、今はすべての人が瞬時にスマートフォンで発信、拡散できる時代です。メディアだけでなく、社会全体の問題として取り組む必要があります。
ライフリンクは、これからも自殺報道に向き合い、メディアやすべての発信者と議論を深め、具体的な取り組みを発案していきたいと考えています。





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