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きょう心にしみた言葉・2023年6月19日

(モラルハラスメント、精神的なDVを受けた)その人は夫から「あなたは空気みたいな人だから」って言われたと。
でも、その女性が空気のような存在であるために、どれだけ自分を犠牲にしてきたのか。
夫からすると妻が空気であることは当然であって、それは要するに夫は自分のタイミングでやりたいようにやっていて、それにすべて彼女が合わせていた。彼女のリズムはまったく尊重されていなかったということなんです。

ヤングケアラーの方のインタビューをしていて、「自分が消えちゃう」「自分が空っぽ」と語った人たちはいました。暴力被害者ではないけれど、自分を消すことで家族の和を保つというところは同じですね。家族のあいだの異なるリズムを、誰か一人のリズムを押し殺すことでやり過ごすというのはDV被害者女性とヤングケアラーたちと一緒ですね。

「とまる、はずす、きえる ケアとトラウマの時間について」(宮地尚子、村上靖彦・著
  青土社)

トラウマの研究で知られる精神科医で一橋大学大学院教授の宮地尚子さん、ケアの現象学が専門で大阪大学大学院教授の村上靖彦さんの対談です。対談はそれぞれ「それる」「もどる」「とまる」「すぎる」「はずす」「きえる」をテーマに6回にわたって行われ、冒頭の言葉は第1回目「それるーケアと時間」の「時間を支配される」の中でで交わされたものです。
自分を消すことで家族の和を保つ」「家族のあいだの異なるリズムを、誰か一人のリズムを押し殺すことでやり過ごす
あなたの時間は、誰かに支配されていませんか。あなたは、誰かの時間を支配していませんか。ドキリとさせられる問いかけです。
宮地さんも、村上さんも それぞれトラウマに苦しむ人たちやケアの最前線にいる人たちの言葉に耳を傾けてきました。「苦しみや試行錯誤のさなかにある人の話をきく」ことを続けてきた二人は、丁寧に言葉をやりとりし、その中から「はっ」とするような言葉が生まれてきます。
詩人の渡邊十絲子さんは、この本を紹介した書評 https://mainichi.jp/articles/20230603/ddm/015/070/031000c で、宮地さんと村上さんを「せかしたりまとめたりもしないでただじっと待つ姿勢を身につけたふたり」と表現しています。その上で、次のように指摘します。
「人の言葉を『待つ』ことには絶大な価値があるのだが、それは現代社会においては不当に低く評価されている。ゴールの設定と達成度の評価、寄り道のない効率的な作業などが機能する場はごく限定的であるはずなのに、われわれはそれを不用意に大きく広げすぎている。それが社会を覆う息苦しさの、ひとつの原因だと思う。『結局何が言いたいの?』『結論を先に言って』などと決して言われない場でしか生まれてこない、言葉の力というものがある。そのことを知りぬいたふたりが、相手の言葉を受け止めあっている」
「待つ」ことの大切さを、教えられます。


 

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