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【B Corp取得 後編】元証券アナリストが解説!ライフイズテックのB Corpが意味すること

はじめに
前編では、ライフイズテックがB Corp認証取得に至った背景や、取得までの道のりについて書きました。後編では、様々なステークホルダーや読み手にとって、B Corpはどういう意味があるのか(So What?)という点にフォーカスを充てます。
B Corpデータベースは誰でもアクセス可能です。一般公開されているデータが持つ意味や、私たちはどのように使えるのかを、3つの視点から解説します。

Find a B Corp:ウェブサイトから企業名・業界などを元に検索可能

金丸健二郎 ライフイズテック株式会社
カリフォルニア大学ロサンゼルス校にて、Mathematics/ Economics学士号を取得後日本に帰国。モルガン・スタンレーMUFG証券に就職し株式調査部にてアナリストを務めた後、教育アクセスの向上・教育格差の是正に貢献するためライフイズテックに参画。フルブライト奨学生として、イェール大学経営大学院にてMBA修士号取得。インパクト投資・ソーシャルスタートアップのエコシステム構築への貢献を目標に、ライフイズテックのIR・CFO補佐に加えインパクトチームの一員として復帰


1. 人:転職・就活中のあなたへ、B Corpは情報の宝庫です

就職・転職する会社の今まで見えなかった部分が見えてくる

大学院在籍中、私はインパクト系の仕事を中心に就職活動をしていましたが、その際、次のようなリスクがあると考えました。

・実際はインパクトドリブンではないかもしれない(インパクト・ウォッシュと呼ばれるケース)
・実は外部から見えにくい部分で大きなネガティブインパクトを残しているかもしれない

当時仲の良い友人がアメリカのノンプロフィット出身で、従業員にとってはベストでない業務環境だったいう話を聞いていた事もあり、(理想的かもしれませんが)従業員の幸福を大きく損ない、それを再配分しているビジネスモデルは避けたいと思っていたからです。

こういったリスクをどのように精査すればよいか?先輩に相談したところ、実際に働いている人達と話すのが良いという答えが多かったです。
ですが、当時は知り合いもおらず「B Corpのような第三者機関のインパクト評価が参考になる」という結論に至りました。
就活中たまたま出会ったB Corpには、就活・転職活動をしている人全員が知りたいであろう情報が含まれていることを発見したのです。

特に注目すべきは、従業員に焦点を充てた「Workers」のセクション。
「会社が従業員とのエンゲージや支援をどのようにしているか」という質問リストがあります。
例えば「従業員キャリア育成」では、リカレント教育やスキルアップ研修を促すような支援の有無、「Health, Wellness, & Safety」では、福利厚生の充実度がスコアリングされています。従業員のダイバーシティを考えているかなどの質問もあり、就活生の立場として「働くなら従業員のこともしっかり考えている会社が良い」と当時注目していました。

ライフイズテックのWorkersスコア。
Bcorpのサイトではこのように項目別のスコアを細かく見ることができます

とはいえ、日本でのB Corpはまだ弊社を含めて15社。上記のようなプロセスはあまりピンとこないかもしれませんが、アメリカで起きつつある変化について解説します。

アメリカで起こりつつある変化ーB Corp取得企業への就職で学生ローン免除も

ところで日本では、転職サイトや会社紹介ページに「上場会社」という記載があります。
会社は収益性・コーポレートガバナンス・経営体制など様々な厳しい条件をクリアしていないと上場できないため、ある一定の信頼性のシグナルだと理解してますが、上場審査に使われる情報は会社の全てを網羅しているわけではありません(若干外れますが、マッチングアプリで仕事の欄に「上場企業」というカテゴリがあるのは恐らく日本ぐらい)。

そこで、今後企業にとってはB CorpのようなインパクトやESGにより焦点をあてた第三者機関の評価も大切なアピールポイントになると考えます。
上場企業であるか否かを気にする就活生がいるように、近い将来、B Corp(または他のインパクト系)認証を得ているかどうかを基準にする学生が増えてくるかもしれません。

アメリカでは「ローン・フォギブネス」という、ある一定の条件をクリアすると学生ローンの返済義務が一部免除されるプログラムがあります。
従来は、公共セクターや非営利団体への就職や、年収が一定以下である生徒が対象となるケースが多かったのですが、近年はB Corp認証会社への就職という条件を追加した大学院もでてきています。
例えば2019年、アメリカのDuke大学Fuqua School of BusinssではB Corp認証会社へ就職した生徒には学生ローンを年間最大$15,000(約200万円)免除されるプログラムに導入しました。
Yale School of Managementなども政府系・非営利団体へ就職したMBA卒業生に対するローン・フォギブネスにB Corp認証会社を含めたり、B Corpを含めたインパクト系企業への就職を促す取り組みも見られます。


転職者・就活者を中心に話しましたが、これは既存従業員の方々にとっても大事な情報です。B Corpという客観的なモノサシでの評価は、今後「会社をより良い組織にするためには何が必要か」という事を従業員自身が考えるきっかけにもなります。

ライフイズテックのインパクトチーム

2. 投資家:金融とインパクトの世界がマージしてきている

次に、投資家にとってのB Corpの意味について解説します。
インパクト投資やESG投資の運用額は高成長を続けています(2020年インパクト投資運用額は$715B (GIIN)と2018年比で約3.2倍増、ESG投資は$39Tと同+44% (Deloitte))。

濃い青部分が成長を続けているESG投資運用額の推定額

投資判断の中心的材料であるボトムライン(当期利益)が中心だったものにインパクトも加えた、「ダブル・ボトムライン」というコンセプトを元にインパクト投資を行うファンド(例:米のインパクト投資ファンドのDBL Partners)も出てきました。
加えて、インパクト投資界のリーダー的存在のSir Ronald Cohenは、「リスク・リターン」の2軸中心だったコンセプトが、「リスク・リターン・インパクト」という3つの軸が今後のグローバルスタンダードになるであろう、とコメントしています(Sir Ronald Cohen著:Impact: Reshaping Capitalism to Drive Real Changeより)。
このような取り組みはインパクト投資のみではなく、ブラックロックなどの従来のメジャーな資産運用会社でも強化されています。

インパクト投資にはB Corpのようなインパクト評価や可視化が欠かせないピースに

GIINがまとめているインパクト投資の調査レポートによると、インパクト評価は近年進捗しているという調査結果があります(図表)。

赤枠下:一番濃い青=大きく進捗、青=ある程度進捗している

着実に進捗はしてますが、「インパクト投資家がどのような評価ツール・フレームワークを使っているか」という調査結果は答えがかなり分散化されており、グローバルスタンダードは発展途上であることがわかります。
とはいえ、B Corp運営組織が出している B Analyticsも挙げられており、インパクトゴールの設定や、評価ツール、レポーティングのために使われるケースがあると本調査から分かります(下図表参照)。

GIIN 2020 Annual Impact Investor Survey

ここから、B Labはインパクト思考の投資家が投資判断にインパクト要素を考慮し評価しやすくなる仕組みやムーブメントの一つとして貢献しており、インパクトマネーがより効果的な会社や起業家に流れる仕組みを作るには、インパクト評価は欠かせないシステムであるということがわかります。

3. 中高生・顧客にとってのB Corpとは

インパクトの当事者たち

最後に、中高生。ライフイズテックにとって常にいちばんのステークホルダーです。

私たちの学校向け教材ITキャンプ等を通じて、学ぶことの楽しさを知り、デジタルの世界と出会うことで、本人が成長するのはもちろん、やがてこの社会も変えていくことになります。
まさにインパクトの当事者といえるでしょう。
そんな中高生たちのインタビュー記事はこちらから是非ご覧ください。

B Corp=ブランド選好の新たな指標

ライフイズテックのお客さまは中高生以外にも、保護者の方々や学校の先生、自治体、企業など多岐にわたります。
特に私たちのようなサービスは、実際のユーザーが中高生でも、お金を払うのは保護者の方や学校、自治体であるため、その方たちの理解・納得を得なければ成立しません。
そこで重要になってくるのが、B Corpをはじめとする第三者機関による「インパクトを可視化する仕組み」です。

ミッションをぶらさない仕組み

私たちは創業から一貫して「中高生ひとり一人の可能性を一人でも多く、最大限伸ばす」をミッションに掲げ、事業を展開しています。
お客さまの中には、ミッションに共感して選んでくださる方も少なくありません。

仮にあなたが顧客の立場で、何らかの商品やサービス、あるいは企業を選んだとします。この際、その選定理由に「ミッションへの共感」も含まれていたならば、それが持続する可能性について知りたくはならないでしょうか。
B Corpでは、企業がミッションとして掲げていることを着実にぶれずに執行し続けられる仕組みづくり(ミッション・ロック)を評価するスコアリングがあります。
例えばアメリカではPublic Benefit Corporation(公益を創出することを目的とする法人格)という組織登録を選択し、加点を得ることが可能です。日本ではまだミッション・ロックのための法制度が整っていないため、B Corpと同意書を締結するというオプションが用意されています。

イギリスではB Corp認証がサステイナブル購買の一部判断基準に

「何かを買うときは環境や社会によいものを選びたい。」そんな消費スタイルが若者を中心に伸びています。
しかし、実際どの会社の商品を買えばよいのか、会社が主張していることが信頼できるのかわからない時があると思います。そこで、インパクト評価や第三者機関の認識が一つの可視化するツールとなり、信頼性を持たせる効果もあります。

Deloitteがイギリスで行ったサステイナブル購買に関する調査では、企業への信頼に関する質問で20%の回答者が「B Corp認証会社であること」が信頼に繋がる方法の一つとして挙げています

実際、Allbirdsのような海外のB Corp認証会社には、サプライチェーンをサステイナブルなモデルに工夫して差別化を図り、高いブランドロイヤリティやファンコミュニティを築き上げている会社もあります。
サプライチェーンなど特に消費者からすると普段見えない部分は、B Corpのようなインパクト評価や可視化を積極的に行うことが、消費者からしっかり評価される鍵となってます。

質問: 会社の気候変動・サステイナビリティへのコミットメントが消費者の信頼に影響があるか?

4. 最後に

最後に、B Corpの設問の中で印象が強かったものをご紹介します。
「ステークホルダーとのエンゲージメント」という質問の回答選択欄にはこんな選択肢がありました。

・「重要なステークホルダーを代表する者がアドバイザリーメンバーにいる(We have an advisory board that includes stakeholder representation)」
・「各ステークホルダーとの対話に関する正式な計画がある(We have a formal stakehol%der engagement plan)」

この質問には、ステークホルダーとの対話の質をさらに高めるためのアイディアがありました。

今まで中高生のために事業を続けてきたライフイズテックは、様々なステークホルダーの方々からご支援いただきき今日に至ります。
全てのステークホルダーを巻き込んでワンチームとなり、中高生のためにより良い社会を作っていきたいという思いがB Corp取得プロセスでより一層強まりました。
ユーザーからのフィードバックをプロダクト設計に反映させる事は常日頃からやってますが、宿題となる点もいくつもあります。
B Corpは3年に一度更新レビューが入るので、認証がゴールではなく、次のアクションに繋げるためやっとスタートポイントに立った状態です。

ライフイズテックに関わったことのないあなたでも、B Corpは自分のためにどのように使えるのか、少しでも想像が膨らみ、この記事を読んで新しい疑問が生まれ、次のアクションに繋がれば幸いです。
(例えば・・・自分が好きなアパレルの会社はB Corpなの?自分の業界でB Corp取得している企業はあるの?自分の会社はB Corpを取ることで得ることがあるか?など)
今後、Compete for the Worldができる仲間が増えることを願っています!

また、ライフイズテックでは一緒にインパクトを追求していく仲間も募集しています!


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