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【福岡大大濠・山下舜平大】背番号1を奪われた男が、 ドラフト1位に選ばれるまで。

 iPhoneのフォルダに、1枚だけ彼の投げている写真が残っていました。プロ野球ドラフト会議2020で、オリックスにドラフト1位指名された福岡大大濠高校の山下舜平大(しゅんぺいた)君。昨年の福岡秋季大会1回戦、筑陽学園との試合です。この時まさか翌年のドラフトで1位指名されるなんて、きっと本人も思っていなかったと思います。

 福岡の高校野球を主戦場としている当メディアとしては、地元から1位指名が出たことはもちろんですが、2年生の頃から実際に生で観戦していた選手がプロへ行くということに、非常に感慨深い思いがあります。今回は、「高校野球と共に生きる」が知る限りの山下君のこれまでについて書き残そうと思います。

ドラフト1位なんて、誰も思っていなかった。

 これは福岡の高校野球ファンの方なら同意してくれると思うのですが、昨年の時点で山下君がドラ1でプロに行くとは全く思っていませんでした。ドラフト候補ではあったものの、彼がそれまで福岡で圧倒的な結果を残していたかというと、決してそうではないからです。彼は2年夏(もしかしたら春)から大濠のエースナンバーを背負っていました。スラッとした体躯で上背があり、上から叩きつけるようなストレートは迫力はあるものの、主要な大会ではここぞというところで打ち込まれて救援を仰ぐことが少なくありませんでした。どことなくメンタルに弱さを感じさせるところもあり、頼りないエースといった印象を個人的には持っていたのです。

スター軍団・大濠の陰に隠れて。

 そういう風に感じてしまった理由の一つに、大濠の選手層の厚さがあります。山下君の同級生には、1年夏からエース級の活躍を見せていた左腕の深浦幹也君や、同じく1年夏からスタメンで出ていた山城航太郎君というスターがいました。深浦君はバッティングセンスも素晴らしく徐々に打撃をメインとするようになりましたが、山城君は昨年の秋季大会・筑陽学園戦で投手デビューを果たし、いきなり140㎞台の速球を連発して話題をさらいます。イチ野球ファンとして、華があり夢を見られそうだと思っていたのは実はこの2人の方でした。事実、昨年11月に大牟田で行われた大阪桐蔭との試合でエースナンバーを背負っていたのは、山城君の方だったのです。

屈辱のエースナンバー剥奪と、大阪桐蔭戦での覚醒。

 しかしながらエースナンバーを剥奪されたその大阪桐蔭戦で、山下君は覚醒します。試合途中から登板し、5イニングを投げて何と12奪三振。先発だった山城君の直球はバッティング練習かのように軽々と打ち返していた大阪桐蔭打線が、山下君の速球とカーブに翻弄され、ことごとくバットが空を切ります。クリーンアップ相手に3者連続三振を奪い、打ってもホームランを放つなど、最大6点差あった逆転勝利に貢献。彼のポテンシャルが全国レベルでも十分通用することをまざまざと証明して見せたのです。

まるで別人のように生まれ変わった体つき。

 来たるべきラストイヤーに大いなる希望を抱かせる大阪桐蔭戦での快投でしたが、そこから先はご存じの通りコロナで高校野球の状況は一変します。アピールの場すら失ったかに見えた山下君でしたが、緊急事態宣言明けの練習試合でいきなり153㎞のストレートを投げ一気にドラフト戦線の注目の的に。何より驚いたのは、ネットの記事で見たその体つき。秋までのスラッとした細身が嘘のように太もも周りががっしりとし、見るからに重いボールを投げそうな体つきへと進化していたのです。一体この冬の間に何があったのか、どうやってここまで肉体改造したのかと驚きました。最近のインタビューでは1日7合ご飯を食べたとかいう話も出ていましたが、加えて股割りなどのトレーニングも徹底していたとのこと。球速が上がったのはそれが理由だったようです。

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 ヤフオクドームで行われた福岡県の高校野球代替試合決勝では、公立の福岡高校に逆転サヨナラ負けしたものの、延長11回に151㎞を投げるなどスケールの大きさは疑いようのないものになっていました。あの頼りなかったエースがよくぞここまで変貌を遂げたものだと、別人のようになった山下君にはいよいよ目が離せなくなります。メディアでの露出も増え、練習熱心で謙虚な人柄であることも自ずと伝わってきました。

“山トリオ”で、築け投手王国。

 そして今日のドラフト会議。近大の佐藤選手のクジを外したオリックスが1位指名。地元福岡のホークスが指名することも想像していましたが、やはりホークスは野手の補強が急務ということで縁はありませんでした。それでも決まった時には、これまで熱心に見続けていた大濠高校からのプロ入りにこみ上げるものがありました。ちょうど家の外を大濠の男子生徒が数名帰路についていたようで、「山下オリックス1位!」と興奮する声が聞こえてきました。この瞬間を、私はこの先忘れることがないでしょう。

 山下君がこれから飛び込むプロの世界。決して甘い世界ではないですが、自分らしく成長していってもらいたいものです。山岡投手、山本投手と合わせた“山トリオ”で、オリックスに投手王国を築いてほしいですね。「高校野球と共に生きる」は、これからも山下舜平大を応援し続けます。

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