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母の日前の、プチ家出

わかってる、KNKだということは。

KNK 、つまり更年期である。生理も乱れ、ふと胸苦しさを感じたり、わけのわからないタイミングでカーッと腹が立ったりする。GWに食べ過ぎ飲み過ぎが続いたせいもあって、不調がさらに増していたかと思う。

母の日の前日、土曜に私はプチ家出をした。

なんのことはない、些細な理由で夫に強烈に腹が立ち、行き先も告げずに午後から出かけ、夕飯作りを放棄した。友人宅で夕食をご馳走になり、結局、江ノ電の動いているうちに帰ったという、それだけのことだ。

いわゆる、“夫への不満のポイントカードがいっぱいになった”というやつで、大きな理由があるわけではない。いつもの気遣いのなさ、優しさの感じられない態度、食事のスケジュールにうるさいところなど、小さな苛立ちが積もりに積もっていたところに、まったく配慮のない口のきき方をされたので、ちょっと顔を見たくないという気分になってしまったのだ。

コロナじゃなかったら、実家に帰ったり、どこかホテルに泊まったりして、数泊リフレッシュしたいところだった。しかし・・・妻業は何日でも放棄できるが、母業は放棄しづらいのだ。私が友人宅にいる間、息子から何度もメッセージが入った。

「どこにいるの?」

「早く帰ってきてください」

「離婚しないよね?しないでね?」

健気ではないか。息子のためにいますぐ帰宅して美味しいものを作ってやりたいという気持ちに駆られたが、憮然とした夫の顔を思い出すと、すぐに動けなかった。

「必ず帰るから、お父さんと何か食べて」

そう息子に返事をすると、しばらくして、夫からラインが届いた。

「子どもにはレトルトカレーを食べさせました」

本人は報告をしたにすぎないが、嫌味にしか見えなかった。どこにいるのか、何か気に触ることをしたなら謝りたい、早く帰ってきて、などという言葉を送ってくる人間ではない。別に私もそれを望んでいるわけでもない。とにかく、今日は放って置いてくれ、という気持ちだった。

帰宅すると、みんな寝ていた。夫は高鼾をかいていた。息子の頬には、涙の跡があった。

妻の日じゃないからいいんだけど

次の朝、夫はガーデンルームの隅の方で、視線を避けるようにしてカップラーメンをすすっていた。こちらから挨拶をしようと思っていたのだが、その態度がまたしゃくに触り、息子を連れてモーニングに出た。

帰宅すると、花束が用意されていた。

ああそうか、今日は母の日か。と思った。嬉しかった。夫はいつも、母の日や私の誕生日などに、花束をプレゼントしてくれる。

気が利く男性というわけではない。もともとは、いつもワインをプレゼントしてくれていた。そのワインを、彼はいつも半分以上ハイピッチで飲んでしまうのだ。これじゃあプレゼントでもなんでもないじゃないかと、私は好みの花屋さんを指定して、ここで花を買ってください、とある時頼んだ。それ以来、ずっとその花屋さんの花束を買ってくれるようになった。

今回も、いつもの花屋さんのカードが添えられていた。

しかし、である。

今回の花束は、なんだか残念なものだった。全体的に、色調が地味で、なんというか、晩秋を思わせる取り合わせ。メインの花は、すっかり萎れて、花弁も所々折れていた。

花の種類もわからなかったので、思い切って花屋さんに写真と共にメッセージを送ってみた。これはもともとこういう花でしょうか?と。

しばらくすると、返事がきた。「@@@@という花です。そういう花です。ネットで調べてみてください。常連にそんな変な花を入れるわけありません」。・・・キレてる雰囲気が伝わってくる文章だった。

納得できず、友人のグリーンコーディネーターに写真を送ってみたが、傷んでいるね。と返ってきた。

夫は当日出かけて行って、その場で依頼したという。人気の花屋さんだから、よっぽど忙しいところに作ってくれたんだろうし、花もあまりなかったのかもしれない。夫も運搬中に日の当たるところに置いていたのかもしれない。

しかし、なんだろう、このモヤモヤは。

これが例えば、その花屋さんが、

「いつもありがとうございます。@@@@というお花ですが、もともと花弁が少ないタイプです。今日は暑かったので、置き場所によっては傷みやすくなっていたかもしれませんね。またご依頼いただいた際は、よくご説明差し上げるようにします。素敵な母の日をお過ごしください」

みたいなことをメッセージでくれていたら、ずいぶん気持ちも違ったかもしれない、と思ったりする。晩秋のような花束に、「女としてのお前はこんな感じだよ」と言われているような気がして、悲しい気持ちになってしまった。

しかしまあ、妻の日でもないのに、夫がお金を出して母の日の花束を買いに行ってくれただけでもありがたいと感謝しよう。そう気持ちを切り替えて、息子と小さな庭の草むしりをすることにした。

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花束に入っていた、ラナンキュラスワックス。花に罪はない。

気分が落ち込む時は、体を動かせ

最近飼い始めた柴犬パピーを連れて、息子と庭の草むしりを開始。息子は雑草と、たまっていた落ち葉を集めて、どんどん袋に入れてくれた。ミニバラももうすぐ満開になりそうだ。変色した葉を切り落として、樹形を整えた。

風の強い午後だったが、気温はちょうどいい。すっきりした庭周りを見ると、なんだか気分が爽快になってきた。夫は二階で、パピーが齧った柱にやすりがけをしていた。

夕飯は、ブッラータ+パイナップル+塩+パクチー、ブロッコリーとアスパラガスを赤ワインビネガーと塩でサッと和えて燻製マヨネーズを添えたもの、スナップエンドウのオムレツ、スパゲッティ フレッシュトマトとマッシュルームの塩麹ソース、パイナップルで酵素マリネした豚ロースのステーキ。エールビールと、ロゼワイン。母の日だから、私が食べたいものを作った。お皿はいつものように、夫が洗い、片付けてくれた。

何ごともなかったかのような夜。

空気が読める息子は、苦手なパスタをお代わりしていた。夫は、前日に私がどこへ行ったのか、なぜ夕飯づくりを放棄したのかなど、一言も聞いてこない。これも、いつものことだ。


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