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いつに生きているの?

飲み屋のすぐ隣で入社3年目くらいの若者が転職したいと話していた。

「でもさ、転職するなら年収が上がらないと意味ないよね?」
「まじ下がったらなんのための転職だって話。」


ある昼下がり、主婦たちが自転車に乗りながら大声で話している。

「うちの子が今年は受験を迎えるんだけど、今の塾じゃダメだって新しい塾に乗り換えさせたのよ。あの子はあの塾には合わなかったわ!」
「◯◯◯はアットホームでいいんだけど、△△学園には向かないのよ。」


70代くらいの元気なシニアが道端で盛り上がっている。

「田舎に残してきた墓はこないだ墓じまいをしてね、あたしは自分が入るお墓を近所の霊園でさがして契約してきたわ。」
「そうそう、あたしも樹木葬がいいかしらと思ってね。自分のお墓はもういらないし娘婿に迷惑もかけられないじゃない?」
「今予約でいっぱいなのよ!!あんたどうするの、すぐ申し込んだほうがいいわよ。いいとこ紹介したげるからいってらっしゃいよ。」


いろんな人が ”今” を語っている。

「日本は経済大国だから。」
「これからは観光立国。」
「グローバルな人材の育成が急務。」
「インボイス制度なんて、いままでズルしてたんだから当然でしょ。」
「学生ローンは普通に暮らしていれば苦労せず返せるよ。」
「国内需要はもう満たされているからさ。」
「高品質なものにお金を使う世の中にしないと。」
「今は物の価値よりも体験の価値なんだよ。」

どうしたというのだろう。

いずれも、「どっち」がいいとか、「どれ」が正しいとかの一言で片付くものじゃない。あらゆる話題を二者択一の賛否で分類したがる。

わたしは特にこの数年、「身近な会話」から「身近な人」の意見が分断されるようになったと感じている。身近な人、親しき隣人、心許せる仲間。。。そこから起こるこの感覚を空恐ろしく感じている。

だってこれは、よく言われる数%の「大富豪」と多くの「低所得者」との格差による分断ではなくって、低所得者と低所得者どうしによる分断なのだから。

一億総中間層の時代なんておわっているんだよ。おにいさん。20年前の感覚をそのままに、年収450万ほどの平均的な家庭を持ったサラリーマンが、「学生ローン300万くらい独身の社会人なら数年あれば返せない額じゃない。自分は親孝行だと思ってたし、そこまで負担じゃなかったよ。」なんて悪気もなく発言する。その言葉は、より持たざる者たちを無意識のうちに容赦なく貶めている。

平均的な ”普通の” 大人が、「自分は ”普通” に頑張ってやってけているのに」という言葉がより弱きものを苦しめる社会のズレをわたしはここ数年、人と話していて強く感じるようになった。コロナのせいだろうか?みなさんはどうだろう?これはわたしの身の回りだけなのだろうか?

インボイス制度への賛否もそれに近い。「いままで得(≒ズル)していたんだから」と、"普通" の世帯の "普通" の主婦がそう主張する。。。その意見が正しいとしても、オイシイ思いをしている層なんて上をみるほどいるじゃないか、どうしてさしてもらってもいない同族を更に追い込むような主張が何よりも優先されるのだろう。

経済大国日本?美しい国日本?いったいいつに生きているんだろう。みんな今を語っていながら、誰も今に生きていない。

身の回りをもっとよく目を凝らして見てみよう。わたしたちは決して同族をおとしいれるようなことがないように。無意識にあたりまえと思っているその常識が、あたりまえではなくなっている人がすぐ隣りに暮らしている。

わたしたちが思っている以上に格差の壁はすぐそこにまで押し寄せている。

数%の「大富豪」と「あなた」との格差はあまりに明確で雲の上すぎて実感することすら難しい。むしろ、その数%に憧れトリクルダウンだとか言って正当化すらしているね。より有能な人材にお金を集約して裕福な人を優遇するのが自由だって、それが努力に対する当然の権利だって。。。いったいみんなどこに生きているんだろう。見えない届かない雲の上に憧れ、目先の不都合にばかり気を取られてしまう。そうやって、批判の矛先をより近しい手の届く仲間たちに向けていないだろうか。

みんな自分があたりまえだとどこかで思っている。自分が普通だとどこかで思っているよね。その普通のいたってあたりまえの何気ない主張が、何気ない批判が、何気ないイライラが、より弱きものを追い込んでいることに気づいていない。

あるのは数%の富豪とあなたの間にある「明確な格差」だけではない。”普通” なあなたと、眼の前のより弱きものとの「ぼんやりした格差」からみえない分断は広がっている。

あなたが、誰よりも ”普通” だなんて思うことをやめよう。

もっと、周りに目をくばってみよう。

ニュースに耳を傾けるのをやめよう。

SNSに振り回されるのをやめよう。

自分の目で耳で身体で今を実感しよう。

そのための時間を生み出そう。

そのために、あなたがすべきでないことをしない努力をしよう。

りなる




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