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境界知能と遺伝子の話②

本稿は今年1月に書いた「境界知能と遺伝子の話」の改訂版でもあり、またその続きの話になる。あの時は、まさかここまで大きな反響を呼ぶとは夢にも思わず、noteが少々粗削りだったのではないかと反省し、本稿はよりブラッシュアップした上に、学術的により正確で深い話なども入れていきたいと思う。最初の方は無料で読める。そして全部読むには500円かかるが、購読するとそのまま読むことができる。


1. はじめに

最近、多くの読者が知能およびその異常に大きな興味を持っていることが分かり、大変驚かされている。私もこれまでに既に50作以上のnoteを書いてきており、様々なトピックと遺伝子(親の能力継承とか、美にかかわる遺伝子、遺伝病など)を紹介してきたが、以下の境界知能と遺伝子の話のnoteは全く別格な売れ行きと読まれ方をした(本稿を読む読者は必ずしも以下の境界知能noteを無理して読む必要はない)。

正直、私が最も自信を持っているnoteである、教養のとっかかりを得るのを支援する教養noteより売れてしまった(こちらは本当にオススメであり、まだ読んでいない読者がいるならば真剣に検討するに値する)。

その状況を見て、私としてはもっと境界知能(Borderline Intellectual Functioning)知的障害 (Intellectual Disability)について、より洗練されていながらたくさんの情報量を提供するnoteを書き直さねばならないと反省することにした。いずれにしても、知能の定義とIQ(知能指数)について改めて紹介しなおしたうえで、境界知能の話に入り、さらにそこから先の恐ろしい、知的障害の深海について話を進めていきたいと思う。

2. 知能とは

知能(intelligence, intellectual ability)とはそもそも何か。まずは知能とは何であるのかという定義の確認をしよう。アメリカ心理学会(American Psycological Association)の設定する知能の定義を英語で紹介する。

The ability to derive information, learn from experience, adapt to the environment, understand, and correctly utilize thought and reason.

https://dictionary.apa.org/intelligence

すなわち日本語訳すると「情報を導き出し、経験から学び、環境に適応し、理解し、思考と理性を正しく活用する能力」を知能と呼ぶらしい。そういう点では、知能というのはかなりうまく表現し、具体的なことをイメージするのもそんなに簡単ではない高次の能力である。

Wikipediaによれば論理的に考える、計画を立てる、問題解決する、抽象的に考える、考えを把握する、言語機能、学習機能などさまざまな知的活動を含む心の特性ということでもあるが、どうも心理学領域では、創造性、性格、知恵と、ここでいう知能は分けて考えられている
 知能について万能の計測法は存在しないが、比較的有名な指標としてはIQ(知能指数、Intelligence Quotient)が存在する。IQというのは、知能の推定値となる。実際の知能を例えば身長や筋力などのように精確に計測することは難しいために、様々なテストを行い、どのくらいの知能なのかを推定する。最もよく使われるテストとしては成人用のウェクスラー成人知能検査(WAIS)と、学齢期の被検者用のウェクスラー式児童用知能検査(WISC)が挙がる。

現在のWAIS知能検査の構成
現在のWISC知能検査の構成

IQの数値は数値の平均が100、標準偏差15の正規分布になるような縮尺で産出される。その結果、約3分の2の人口がIQ85からIQ114の間に分布し、130以上と70未満がそれぞれ約2%となる。ちなみにIQ130以上はかなり高い知能指数であり、数学者や医師など高度な仕事をこなせる能力を持っている人たちが多い。2%以内のIQスコアの人たちはMENSAという団体に所属する機会を得ることができる

ただし、MENSA会員資格があっても他人との意思疎通に苦労したり、様々な社会との相互作用がうまくいかずに苦しい人生を送っている人たちなどもいる。実は以下のnoteで天才について記述しているが(必ずしも高IQの話をしているわけではなく、いわゆる歴史上の天才などの解説をしている)、ギフテッド(特定分野に特異な才能のある児童生徒)については触れていないので、こちらは後日にnoteで書こうと思う。
 ところで読者諸氏らは自分自身のIQを知っているだろうか。筆者である私はいまだに知らない。知る必要も特になかったからであるが、知能検査は、公的病院や民間病院、自治体の教育支援センターや子育て支援センターなどで受けることができる。 知能検査の受け方や費用は、検査の種類や機関によって異なる。

普通の人はIQ85-114くらいである。そしてIQ85-70は境界知能、そして更IQ70から下は知的障害の世界があり本稿のメインの話でもある。まず境界知能とは何かを次章で説明していこう。

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