第1回 『鬼滅の刃』で学ぶ英語


 私が勝手に敬意を払っているライターの方々が、漫画の英語訳を使って英語関係の記事を描かれるのに便乗して私も『ワールドトリガー』(ワートリ)で始めました。『鬼滅の刃』については、話題になったこともありすでに御高名な方々が英語版を紹介されているのですが、私の勉強も兼ねてまとめていきたいと思います。第1回は第1話「残酷」

※書いている人は漫画を全部読み終わっているうえ、舞台版も観ているので、全力でネタバレをしていきますのでご了承ください。


英語版タイトルから消えた「刃」のイメージ

 多くの方がご指摘のように「鬼滅の刃」の英訳は「Demon Slayer」です。2019年春に英語圏のアニメ好きな人に「今、一番好きな作品なんですか?」と聞いたときに一番名前が挙がったのがDemon Slayerでした。最初私は「ゴブリン スレイヤーの親せきか?」と思ったのですが、調べてやっと鬼滅の刃の英訳だと知りました。それぞれの意味はロングマン英英辞典によると、

■Demon     an evil spirit or force

■Slayer   →Slay to kill someone  殺害する

とのことです。

「Demon」は日本語で「悪魔」と言われることが多いですが、いろいろな辞書を見ると「鬼」「夜叉」「悪霊」の訳を充てられるものが多い。私たちが想定するキリスト教の「悪魔」はEvilと訳されることが多いそうです。

Slayは殺害するの意味。人を意味する接尾語erをつけて「殺害する人」の意味にしています。「鬼滅の刃」が鬼を滅ぼそうとする人々の物語であることを考えると、今から考えるとこれ以上の訳は思いつけないのではないでしょうか。

 タイトルについては、以下の記事も参考になります。

鬼滅の刃」英語版を全力で読んでわかったこと

あのセリフはどう訳されているのか?

吾峠 呼世晴先生の特徴のひとつは日本語の巧みな使い方にあります。第1話にもその特徴はすでに出ています。

炭治郎は家族が鬼に襲われる予感を以下のような内心のセリフで表現します。

幸せが壊れるときはいつも血の匂いがする

英語版では

WHEN HAPPINESS ENDS THERE'S ALWAYS THE SMELL OF BLOOD IN THE AIR.

ここでは「壊れる」と「(それまで当たり前だったものが)終わる」という意味でendという単語を使っています。それに続く「いつも血の匂いがする」というところについては「どこで匂いがするのか?」という読者の擬音に応えるために「IN THE AIR」という言葉を加えています。


もうひとつは冨岡義勇さんの有名すぎるセリフです。

生殺与奪の権を他人に握らせるな!!

英語では、

NEVER LEAVE YOURSELF SO DEFENSELESS IN FRONT OF AN ENEMY!

となっています。

■leave oneself + A  oneをAの状態にとどめおく

defenseless              無防備な

英語版を直訳すると「敵の前で己を無防備な状態にしておくな」となります。もとの日本語を、英語に訳せる和文にして訳した力はすごいなーと思いました。

ちなみにこのセリフに続く、富岡さんの言葉

笑止千万!

IF YOU WANT SOMETHING ,.....YOU MUST FIGHT FOR IT!

 (直訳すると「何かをもとめるなら、戦え!」ですかね)

となっています。

デジタル大辞泉によると

■笑止千万 非常にこっけいなさま、 たいそう気の毒なさま

とのこと。とすると「How ludicrous!」とか「How pitty!」とかでもよさそうな気がしますが、翻訳者は前後の文脈からここで富岡さんが命乞いをする炭治郎に訴えたかったのは、命乞いをする前に自分で怒りを原動力に武器を持って戦うことだと判断したのでしょう。

まったく関係ないのですが「舞台 鬼滅の刃」では、この生殺与奪と笑止千万をテーマに富岡さんが一曲、歌って踊ります。初見はすごく衝撃でしたが味わい深いものです。ご興味のあるかたはDMMでの配信をご覧ください。

英語版の強調の表現

日本の漫画が英語版になるとき、ローマ字の表記はすべて大文字になります。その中である単語を強調したいときは太字にしたり斜めにしたりします。鬼滅の刃はこの表現がすごく多い。第1話だけでも数回出てきて、ほかの作品よりも圧倒的に多い。言葉やそれを語るキャラクターの思いを重視しているのだと考えられます。


今回英語訳の参考にしたのはこちらのアプリの配信です。もちろんAmazonなどで英語版をご購入いただけます。

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