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印象派の午後/madoromi diary 2020 summer #3サンレモン

このマガジンでは、まどろみ文庫を運営するDENIM HOSTEL floatがある岡山県倉敷市児島唐琴町のまわりのとっておきの読書スポットとそこで読むのにぴったりな本を紹介していきます。
ちょっと時間を巻き戻してまずは2020年の夏から。
巻末にスポットと本の詳細をまとめています。
それではどうぞ、ごゆっくり📚

-DAY 3-

扉を空けると、そこは不思議な世界でした。

街歩きをしている途中で思い切って喫茶店に飛び込んだ時、そんなお店に遭遇することがあります。今回、紹介するサンレモンはまさにそんな場所。
お店の前にある巨大なレモンが目印。半世紀以上地元住民から観光客まで多くの人に愛されてきた老舗です。最近では、レトロな喫茶店を特集した雑誌や書籍にもたくさん掲載されているとか。全国にファンがいる有名店ですが、平日のお昼は穏やかな時間が流れています。

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意外と広い店内。今日はお気に入りの窓際の席が空いていました。
昭和からずっと時が止まっているおとぎの世界の様な店内の中でひときわ目を引くのが、水が硝子の表面を流れ続けるウォーターカーテンの窓。折々の波紋を描きながら留まることなく窓を伝う水越しに窓の外を眺めると、何気ない風景が水彩画の世界みたいに鮮やかに輝いて見えるのです。

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フードからデザートまで実はメニューが豊富なサンレモンですが一番のおすすめはフルーツクリームソーダ。いろとりどりのフルーツが緑色のソーダの中で所狭しと混ざり合っていて、ずっと眺めていたくなる、そして、一度飲んだら忘れられない、思い出を彩るクリームソーダです。

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店内には大きなくまのぬいぐるみが2匹いて、いつも楽しそうに談笑しています。街で個性的な喫茶店に出会う度に、このお店のマスターはどんな思いでこの世界をつくりあげたのだろうか?と喫茶店の中の小宇宙をつくった人の頭の中や半生に思いを馳せてしまいます。私は人見知りなので、いつも直接尋ねることは出来ないままお店をあとにするのですが、そんな風にお店の歴史について色々空想できるのも街の喫茶店の楽しみだったりします。

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喫茶店では、本を読んだり、手紙を書いたりして過ごします。
他のお客さん達は、おしゃべりしたり、新聞を読んだり、うたたねをしていたり、それぞれ思い思いに過ごしているのですが、不思議とスマホを見ている人、パソコンを開いてる人はあまり見ない気がします。外とは違う時間が流れているような気がして、普段お世話になっている電波からちょっと距離を置きたくなる。この空間がそんな気分にさせているのかもしれません。

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おとぎの世界のティータイムもそろそろおしまい。
今日はいつもより読書がはかどりました。デジタルな生活に疲れた時は、また、この窓辺の席で心ゆくまでアナログな時間に浸りに来たいと思います。
サンレモンの入り口は、私をいつでも古き良き時代の午後に連れて行ってくれる魔法の扉なのです。

明日は何処へ行こうかな。

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<DAY 4につづく>

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book:
「銀河鉄道の夜」宮沢賢治 新潮文庫 2013
「仮面の告白」三島由紀夫 新潮文庫 
2013
老舗の喫茶店と同じく、古典の名作小説もひとたびページをめくると、そこには古き良き時代の世界観や空気感が閉じ込められていて、私達の日常とは別の時間が流れています。誰もが知っている宮沢賢治の代表作「銀河鉄道の夜」、三島由紀夫の存在を文壇に知らしめた衝撃作「仮面の告白」、どちらも半世紀以上前に書かれた作品ですが、描かれている人物の感覚、感情には不思議と既視感を覚えるものがあります。時代と共に変わるもの、変わらないもの、変わるべきもの、変えられないもの、変わらないで欲しいもの。
目まぐるしい速さで流れる時代から、束の間距離を置いて、自分にとって普遍的なものを見つめ直したい時は、喫茶店で本棚の奥に眠っていた古典を開いてみると良いかもしれません。ちなみに、今回の2冊は共に新潮文庫2013年夏の限定カバー。内容は中々ビターな2作の古典が砂糖細工の様な一瞬の輝きを閉じ込めた甘い装丁に仕上がっています。
location:サンレモン
model:haruki
text&photo:yuki

※DENIM HOSTEL float まどろみ文庫プランはこちらから


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