MMAフライ級の日本人選手達
総合格闘技(MMA)におけるフライ級。リミットは125ポンド、56.7kg。UFCの男子では最軽量級。日本の各団体でも最軽量級か、下から二番目に軽い階級になります。長らく王者が制定されていなかったRIZINも、大晦日のRIZIN45で初代王者が決まりました。
・フライ級
当初は重い階級しかなかったのが、徐々に開拓されて来たという点では、ボクシングと同じ。そしてアメリカではあまり人気のない階級ということでも、ボクシングと同じです。UFCでフライ級の王座戦がPPV大会のメインになった記憶はありません。必ず、もっと重い階級の王座戦がメインとなり、フライ級はセミメインであるのが常です。
「日本人が世界王者となれる可能性があるのはフライ級」
とかねてから言っているらしいのは、トレーナーの鶴屋浩氏。RoadtoUFCに参戦中の鶴屋怜の、父親です。
これは体格的な問題でしょう。大きな体格と運動能力を持つ選手は稀少ですし、そうした数少ない例外が日本で目指すのは、第一に野球、次にサッカー、そして各種球技が続くはず。格闘技を目指したとしても、まずは柔道でしょう。それに続くとしたら、相撲、レスリング辺り。企業がお抱えで面倒を見てくれることはない以上、総合格闘技選手を目指す者は自然と減ります。
この辺りの事情も、ボクシングに似ています。井上尚弥を除外したとしても、寺地拳四郎、京口紘人、比嘉大吾、田中恒成、井岡一翔、中谷潤人、井上拓真といったバンタム級までは多くいる王者達も、フェザー級ぐらいからは激減します。
また日本王者になっても、それだけでは食って行けないことも珍しくないと言います。
とは言え、同国民としての身贔屓もあるでしょうが、フライ級の日本人選手の実力レベルはかなり高い(=世界標準レベルに近い)と思います。
・私が思う序列
序列をつけるとしたら、筆頭はもちろん、初代RIZINフライ級王者となった、堀口恭司。UFCを離れたのは負けが込んでクビになったわけではなく、フライ級の待遇があまりにも悪かったからだと聞き及びます。
現在のUFCのフライ級ランキングで言えば五位以内、どんなに低く見積もっても十位以内の実力は確実にあるでしょう。RIZINやBellatorではバンタム級で、体格の大きい選手達と戦って来た経験も、大きな糧となっているはずです。パッチ―・ミックス辺りと戦っている訳ですから。
それに続くのは、敗れたばかりとは言え、神龍誠だと思います。あのキャリアであそこまで対応出来たポテンシャルは、今後に大きな期待を抱かせるものです。
そして、扇久保博正。堀口に既に三度敗れ、特に三度目は完敗だったため、もう一度堀口と戦う機運はなかなか高まらない、という泣き所はありますが、実力では二番手という声があっても不思議はありません。
堀口と同様、適正ではないバンタム級で、井上直樹や朝倉海らに勝利した経験は、非常に大きいでしょう。神龍らを泥仕合に引きずり込んで勝ったとしても、それほど不思議ではありません。
そしてもちろん、平良達郎。UFC では再三の延期や対戦相手変更をものともせず、五連勝。直近の試合は明らかなミスマッチでした。
いい加減ランカーとやらせろよ、と思っていたところで、昨年末に15位にランクインされました。今年は上位入りを狙うでしょうし、十分期待出来ます。
そして、現在RoadtoUFC の決勝戦を控える、鶴屋怜。勝ったら確実に契約、負けても契約は有り得る場所まで、登って来ました。平良との比較の印象からしても、十分契約への成算はあるどころか、そこから先も相当な期待が出来るはずです。
そして、
「海外に挑戦するならフライ級で」
と言っているらしい、朝倉海。元谷、アーチュレッタと連勝して力を示した上に、フィジカル負けが避けられる可能性が高いフライ級となれば、かなりの期待が出来ます。もちろん、減量が過大な負荷にならずにパフォーマンスが落ちないなら、という条件付きですが。
彼らに次ぐのは、国内各団体の王者クラス、福田龍彌、伊藤誠一郎、新井丈といった選手達。実力者であることは間違いないですが、一段落ちるのは否めません。私はONEは見ないので、若松佑弥のことはよく分からず、除外しました。
・UFCを見据えて
契約面の話を一旦おいて、実力だけを考えてUFCを見据えれば、既に実力を証明済の堀口が最も期待出来ることは、恐らく大勢の意見でしょう。
他の面々について考えると、UFCでの戦い、しかもトップレベルでの戦いを見据えた時、まず重要なのは、スタンドでの打撃の能力だろうと思います。神龍、平良、鶴屋の三人は、まだ打撃面で一抹の不安があると、私は感じています。組んで、あるいはグラウンドに持ち込んでしまえば、彼らのグラップリング能力に対抗出来る選手は少ないでしょうが、そこに至るまでが一苦労な訳です。
その点、朝倉海は打撃に特長がある選手です。まだRIZIN以外の舞台では試されていないため一抹の疑念はありますし、寝かされた時の対応もどうなるか分かりませんが、契約が出来ればかなり期待出来る気がします。
ノーランカーばかりが相手とは言え、UFC で場数を踏み続けている平良が、それに続くでしょう。もちろん、まだ相手のレベルがそこまで高くはない感は否めませんが。
続いて、経験豊富な扇久保。堀口を相手に貴重な経験を得た神龍がそれに続き、最も懸念が大きいのは、やはり鶴屋。これまでの相手や戦いぶりからして、まだ高い点数は付けにくい、と感じてしまいます。
・参戦のハードル
現実的な話をすれば、実際に大きな問題になるのは、
「そもそも契約出来るのか」
ということでしょう。
日本に非常に好意的だったBellator(というかスコット・コーカー)とは違い、UFCは日本を特別視していはいません。良く解釈しても、アジア市場の一角という程度。むしろ中国を重視していて、日本はどうでも良いと捉えられているような気がします。
平良がなかなかランカーと試合が組まれなかったのは、大事に育てようとしているとも解釈出来ますが、日本人選手を半ば無理やり持ち上げたところで旨味はないと思われている、とも解釈出来ます。実際、平良の活躍が日本で話題になっている気配は全くありませんので。
日本では高い知名度を誇る朝倉海とて、特別扱いは望めないでしょう。登録者2300万人のYouTuberローガン・ポールを門前払いしたUFCが、日本にしかいない朝倉海のYouTube登録者100万人だかの取り込みに魅力を感じるはずがないのです。
堀口とて、もちろん実力の評価はある程度されているでしょうが、それに対してどれだけの金額を払うかは、かなり厳しい目で見られていると思います。離脱時点の扱いより、契約金が上がるとは到底思えません。選手としてはもちろん、自身の興行も立ち上げた堀口にとっては、待遇面を軽視するわけにはいかないのは当然です。
結局堀口以外は、TUFやコンテンダーズシリーズを経ての参戦が、一番現実的でしょう。上記に挙げた選手達の全員がUFCに参戦するのは恐らく難しいです。行けば高確率で活躍出来る実力はあると思うのですが、ビジネス面の障壁は相当に高い。日本人選手の評価があまり高くない(実力・人気両面で)ことも、厳しい逆風です。
しかし、既に契約済の平良はもちろんその問題はありません。
そして、RoadtoUFCの決勝を2/4に控えた鶴屋にとっては、非常に大きなチャンス。これを是非活かして欲しいですし、活かしてくれると期待しています。当日を楽しみに待ちたいと思います。
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