~収益認識基準~ 商社は全て代理人になるのか

いよいよ2021年4月以降開始する事業年度から収益認識基準が強制適用となります。

すでに検討を終えた企業も、まだまだ監査法人と熱い議論を交わしている企業もあるかと思います。

弊社でも収益認識基準の導入支援を数社担当させていただいておりますが、収益認識基準の条文が分かりづらいためか、同じ条文なのに見解が分かれること多数(^-^;

IFRSをほぼ直訳した条文なため、正直「回りくどい日本語が沢山書いてあるけど、結局何が言いたいの?」と条文相手に愚痴をこぼしながら戦っております!!!

さて、今回はそんな収益認識基準のテーマから、本人代理人の論点について解説していきたいと思います!                    特に今回は「商社」の業種について、商社は問答無用で代理人と判断されて売上高激減(表現が変わるだけで利益インパクトはありません。)してしまうのか⁈

という点の考察をしていきます!


<本人代理人の概要>

ではまず、本人代理人の論点について、適用指針の記載を振り返ってみましょう。

顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合において、顧客との約束が当該財又はサービスを当該他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務であると判断され、企業が代理人に該当するときには、他の当事者により提供されるように手配することと交換に企業が権利を得ると見込む報酬又は手数料の金額(あるいは他の当事者が提供する財又はサービスと交換に受け取る額から当該他の当事者に支払う額を控除した純額)を収益として認識する。(収益認識基準適用指針40項)

顧客との約束の性質が、財又はサービスを企業が自ら提供する履行義務であるのか、あるいは財又はサービスが他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務であるのかを判定するために、次の(1)及び(2)の手順に従って判断を行う。(同適用指針42項)
(1) 顧客に提供する財又はサービスを識別すること(例えば、顧客に提供する財又はサービスは、他の当事者が提供する財又はサービスに対する権利である可能性がある。)
(2) 財又はサービスのそれぞれが顧客に提供される前に、当該財又はサービスを企業が支配しているかどうか(会計基準第 37 項)を判断すること

→資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む。)をいう。(基準37項)

顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合、財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配しているときには、企業は本人に該当する。他の当事者が提供する財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配していないときには、企業は代理人に該当する。(同適用指針43項)

適用指針第 43 項における企業が本人に該当することの評価に際して、企業が財又はサービスを顧客に提供する前に支配しているかどうかを判定するにあたっては、例えば、次の(1)から(3)の指標を考慮する。(同適用指針47項) (1) 企業が当該財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有していること。これには、通常、財又はサービスの受入可能性に対する責任(例えば、財又はサービスが顧客の仕様を満たしていることについての主たる責任)が含まれる。
企業が財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有している場合には、当該財又はサービスの提供に関与する他の当事者が代理人として行動していることを示す可能性がある。            (2) 当該財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは当該財又はサービスに対する支配が顧客に移転した後(例えば、顧客が返品権を有している場合)において、企業が在庫リスクを有していること。
顧客との契約を獲得する前に、企業が財又はサービスを獲得する場合あるいは獲得することを約束する場合には、当該財又はサービスが顧客に提供される前に、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。                            (3) 当該財又はサービスの価格の設定において企業が裁量権を有していること。
財又はサービスに対して顧客が支払う価格を企業が設定している場合には、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。
ただし、代理人が価格の設定における裁量権を有している場合もある。例えば、代理人は、財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配するサービスから追加的な収益を生み出すために、価格の設定について一定の裁量権を有している場合がある。


どうでしょうか。「~可能性がある」「~場合がある」が多く、モヤモヤ感が否めませんね。

非常に簡単にまとめると、以下のようになるのではないでしょうか。       ・企業自らモノやサービスを提供するなら本人(総額表示)、モノやサービスを提供するために、顧客と販売業者を結びつけるだけなら代理人(純額表示)                                 ・顧客にモノやサービスを提供するという契約に主たる責任がある。                                ・モノやサービスを提供する前または提供後に、提供したモノやサービスの在庫リスクを負っているのか。                      ・モノやサービスを提供する際の価格を企業が設定できるのか。

企業がモノやサービスを提供する際、上記の点に気を付けて本人代理人の判断を行う必要があります。しかし、本人代理人の論点で大切なのは、いずれかに該当したから本人(もしくは代理人)と整理されるということではない!という点です。

適用指針47項にも「企業が財又はサービスを顧客に提供する前に支配しているかどうかを判定するにあたっては、例えば、次の(1)から(3)の指標を考慮する。」と記載されており、本人取引となるか代理人取引となるかは取引の内容を精査しながら、総合的に判断しなければなりません。

このような内容を踏まえたうえで、「はたして商社は代理人となってしまうのか」を、適用指針47項の項目を分解しながら以下で検討してみましょう!                    場合によっては商社だからと言って全て純額表示する必要は無く、むしろ総額表示が適切だと判断される可能性も十分にあるでしょう。

適用指針47項(1) 「企業が当該財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有している」について              →主たる責任であるか否かについては、以下のような点を考慮しながら判断する必要があるでしょう。                      ①引き渡した製品に瑕疵が発見された場合の瑕疵担保責任は負っているのか。                                ②注文を受けた商社は、販売業者を自由に選択できるのか。         ③仮に販売業者がモノやサービスを提供できないと言ってきた場合に、商社は無制限に顧客から依頼されたモノやサービスを手配する義務があるのか。

適用指針47項(2)「 当該財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは当該財又はサービスに対する支配が顧客に移転した後(例えば、顧客が返品権を有している場合)において、企業が在庫リスクを有していること」について                                 →在庫リスクを有しているかについては、以下のような点を考慮しながら判断しましょう。                           ①品違いによる返品が発生した際、商社が在庫リスクを負うのか。    ②返品された製品のうち、何割が販売業者に無償で返送されるのか(何割は商社が負担するのか)                          ③例えば製造業者が受注品を製造している段階もしくは完成後に顧客からキャンセルと言われてしまった場合、商社が別の顧客に販売できるよう営業活動を実施するのか。もしくは商社が買い取ることになるのか。

適用指針47項(3) 「当該財又はサービスの価格の設定において企業が裁量権を有していること」について                                 →裁量権を有しているかについては、以下のような点を考慮しながら判断しましょう。                             ①製造販売業者から指定された売価で販売するのではなく、商社自らが製造販売業者及び顧客と価格交渉を行っているのか。


以上の点を考慮し、総合的に本人と言えるか、代理人となるのかを判断することになるかと思います。                        ちなみに、私が商社のお客様を担当させていただいた際、当初は製品が販売業者から直送されるという理由だけで代理人と判断されそうなところを、本人取引に戻せたということがありました。               そのお客様は商社ではあるものの、値段交渉は自ら実施しており、また返品があった際は他社に売るために営業活動等を実施していました。さらに契約上は、その商社のお客様が顧客へ商品を提供する義務があるという様な内容でした。                              適用指針47項の3つともクリアしていたということですね。

いかがでしょうか。                         商社だからと言って代理人で整理し、総額表示から純額表示に変更する準備を進めている企業の皆様、まだ間に合います!!

ぜひ改めて再検討を!!!

最後までお読みいただきありがとうございました!

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