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ついに始まる新築住宅への省エネ基準適合義務化。住宅業界に影響を与える「断熱等級・性能面のマクロトレンド」と不動産テックとの関係性とは


みなさんこんにちは。
リブ・コンサルティングの篠原です。

本日は、日本の住宅供給を支える工務店・ビルダーに大きな変化を与えるポイントになるかもしれない「断熱等級・性能面のマクロトレンド」について話したいと思います。
日本が国として取り組む、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みの1つとしての住宅業界への大きな変化の波です。
住宅・不動産テックの企業の方々には参考になる情報になっているかと思います。

日本の断熱等級のマクロトレンド①断熱等級の追加


断熱等性能等級(断熱等級)とは、住宅の省エネ性能を示す等級で、日本の国土交通省が設定しています。これは何度も更新されてきており、2022年10月時点では7段階のランクが設定されています。断熱等級は、建築物の断熱性能を示す指標で、等級が高いほど断熱性能が良いとされます。
従来、断熱等級は1から4までありましたが、さらに省エネ効果を高めるために、2022年に新たに等級5,6,7が導入されました。断熱等級5,6,7では、さらに高い断熱性能が求められます。

断熱等級5,6,7では、従来の最高水準である等級4(省エネ基準)の断熱仕様に加えて壁や床、天井などの断熱材や窓の性能向上が必須となります。これにより、冷暖房に必要なエネルギーの消費を大幅に抑えることができ、CO2排出量の削減につながります。
さらに、高い断熱性能は、冷暖房の効果を長持ちさせ、居住者の快適性を向上させます。夏は涼しく、冬は暖かい環境を保つことが可能になるのです。
これらの等級の導入は、省エネルギーと環境保護の観点から重要であり、建築業界におけるエネルギー効率の向上と地球温暖化防止に貢献するものとなっています。


日本の断熱等級のマクロトレンド②省エネ基準の適合義務化について


上述した日本の7段階の断熱等級の中でも、等級4に値する「省エネ基準」と呼ばれる断熱基準が2025年より義務化される事が決まっています。これによって、日本で建築される住宅の断熱性能の最低基準が底上げされます。
しかし、この等級4(省エネ基準)については、1999年に設定されたもので、基準としては決して高い基準ではありません。
そこで、2030年度にはZEH基準に値する等級5の義務化が予定されていて、日本の断熱等級の水準がこれから上がっていく事がわかります。
【日本の7段階の断熱等級】
以下に、日本の断熱等級についての概要を一覧化してみました。


  • 等級1:下記以外のものを示します。

  • 等級2:1980年に制定されたもので、40年以上前の基準のため省エネのレベルは低いです。

  • 等級3:1992年に制定されたもので、「新省エネ基準」が適用されます。一定レベルの省エネ性能が求められます。

  • 等級4:1999年に制定されたもので、「次世代省エネ基準」と呼ばれています。壁や天井だけでなく、窓や玄関ドアなどの開口部も断熱対策が必要です。2025年よりこの基準での住宅づくりが義務化されます。

  • 等級5:2022年4月1日から施行され、これは「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準」相当の性能が求められます。断熱材や窓ガラスなどは、等級4以上に高いレベルの断熱が必要となります。

  • 等級6;2022年10月1日から施行され、一次エネルギー消費量を約30%削減可能な性能を求められます。

  • 等級7:暖冷房に関連する一次エネルギー消費量を約40%削減可能な性能を求められます。これは2022年10月1日から施行された新基準です。


2030年に等級5の義務化が予定されている事からも、これからの住宅購入者の断熱性能の比較基準としては、少なからず等級5である事は、ほぼ必須条件となってくることが予測されます。断熱等級での差別化を図りたい工務店は、等級6や等級7を目指していく必要がでてきます。

【各断熱等級とその他断熱指標との整理図】


日本の断熱等級を理解する上で知っておくべき基本知識


日本の断熱等級については、様々な基準や指標が入り乱れているため少しわかりにくいと思います。ここでは、その日本の断熱等級について少しでも理解を深めてもらえるように、断熱等級を紐解くための関連ワードやその指標について説明いたします。

①断熱等級の判断基準「UA値(外皮平均熱還流率)」

断熱等性能等級には「UA値(外皮平均熱貫流率)」という重要な指標があります。UA値は、建物内部と外部の間での熱の移動のしやすさを数値化したものです。具体的には、建物内外の温度差が1℃とした時に、外へ逃げる熱量を建物の表面積で割った値を示します。このUA値が小さいほど、熱の移動が難しくなり、断熱性能が高いということになります。
たとえば、東京などの地域(6地域)においては、等級5の場合、UA値が0.6以下である必要があります。等級6では、この値は0.46以下になり、等級7ではさらに低く、0.26以下になる必要があります。

②ZEH/ZEH+

ZEH(Net Zero Energy House)は、エネルギー消費量と自宅で生成するエネルギー量とのバランスを年間で見てゼロにする住宅を指します。つまり、自宅で太陽光などの再生可能エネルギーを生み出し、それによって家庭で消費されるエネルギーをカバーすることを目指します。これにより、エネルギー消費の削減とCO2排出の抑制を実現することを目指します。
一方で、ZEH+(プラス)は一般的なZEHの基準を超え、自宅で生成するエネルギーが消費エネルギーよりも多い住宅を指します。この概念は、エネルギーの供給者としての住宅の役割を強調しています。つまり、ZEH+の住宅は余剰エネルギーを電力ネットワークに供給でき、エネルギーの供給者として機能することができます。

③ZEHに変わる新たな断熱指標「HEAT20」

ここまで、「断熱等性能等級」「ZEH」という指標を説明してきましたが、ここで新たな指標、「HEAT20」を紹介します。
HEAT20は「一般社団法人20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」が制定した断熱性能の評価方法で、G1、G2、G3の3段階で断熱性能を示しています(数字が大きい方が性能が高い)。
東京地域などを例に挙げて、UA値(断熱性能を示す数値)で比較すると次のようになります:
断熱等性能等級5はUA値が0.6で、HEAT20のG1はUA値が0.56とほぼ同じです。断熱等性能等級6とHEAT20のG2はUA値が0.46と完全に同じで、断熱等性能等級7とHEAT20のG3も同じくUA値が0.26となります。
これらの結果から、新たに家を建てる際にはHEAT20の基準を指標とするやり取りも予測されます。

【HEAT20とその他基準の基準UA値】

出典:国土交通省「住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示制度におけるZEH水準を上回る等級について」

【G1~G3基準の地域について:室温】

出典:一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会「HEAT20」

【G1~G3基準の地域について:省エネルギー】

出典:一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会「HEAT20」


住宅・不動産テック事業者が取るべき動き

ここまでで記載した通り、これからの日本の住宅市場では、高い断熱等級への対応が求められる時代になってまいります。
しかし、これだけ複雑な断熱等級の制度を完全に理解している工務店や精度高くシミュレーション試算する事ができる工務店が多くないのが実情です。
よって、住宅・不動産テック事業者が工務店に対して取り組むべき動きは、これらの制度に対した適応を助ける事ができれば工務店から選ばれるパートナーになることができ、かつそのサポートが売上アップやコストダウンなどの実利に結びつく事ができれば、なお強固な関係を構築する事ができます。
具体的には、以下のような内容を参考にしていただくと良いかと思います

①不動産テック市場にこれから参入するプレイヤー

これから参入するプレイヤーの場合は、重要ポイントとしては、「工務店が使いやすい」という点と「実利」に結びつくプロダクト設計ができているかという点です。
工務店市場は、ただでさえ難しい計算をしたくないため、外部機関を利用して、性能計算を行っている企業が多いのが実状です。

そこに、業務の内製化を図ってもらうアプローチをかけないといけません。「作業が簡単である事」と「外注するよりもコストパフォーマンスが良い」というポイントの提示をうまく行う必要があります。特に、コストパフォーマンスを感じさせる上では、計算シミュレーションを顧客自身に体感させ、顧客体験に変える事で、契約率に起因できるなどであれば、より響くプロダクトになると思います。

②既に不動産テック市場に参入しているプレイヤー

既に参入しているプレイヤーの場合、まずはこの性能面の領域に近いか、距離があるかで動き方が少し変わります。

性能領域に近いプレイヤー
例としては、プラン図面作成領域などが該当します。この領域では、すでにプラン作成と並行して性能シミュレーションを実行する機能を展開しているプレイヤーも存在しております。
この領域から性能面に出ていく上では、同様の機能のみで勝負するのは後発参入としては厳しい事が予想できます。

よって、単なる性能計算ソフトの機能に留めず、シミュレーションの実行結果に合わせて、希望の性能数値を実現する為に、どのような改善を図る事で性能数値の実現が可能になるかを、生成AIなどを活かしてアドバイスする。
もしくはAIの実装が難しい等であれば外部機関との連携でアドバイス機能を付与するなどの工夫があると工務店に喜ばれるかと思います。

性能領域と距離のあるプレイヤー
この場合は、「既存機能」との連携により、操作手間を削減した一石二鳥の業務の実現を行い、「工務店が使いやすい」という点を突き詰める事をお勧めします。例えば、見積もり作成のシステムであれば、最終的に組みあがった仕様情報を用いて、性能計算シミュレーションが作成できる、さらに図面情報を取り込む事で、窓位置や方位の振れを認識させ、より高精度の計算を実現するなどの工夫をするといいと思います。

そして、それぞれに共通して言えることでは、セールスアプローチをする際は、必ず投資対効果(ROI)の視点でプロダクトを捉えて頂けるように誘導します。機能が良くても、実利に繋がりにくいプロダクトは導入されません。導入したシステムがどれくらいの利を自社にもたらしてくれるプロダクトなのか。そこを明確に数値化してお伝えする等の実利に踏み込んだ営業アプローチを行う必要があります。

これらの取り組みを通じて、住宅・不動産テック事業者は省エネルギー基準の普及を推進し、同時に工務店の売上と利益の増加を支援することができます。


おわりに

いかがでいたでしょうか。
今回は、「断熱等級・性能面のマクロトレンド」という住宅業界に違いを生み出す内容について触れてみました。

新制度への対応の期日が迫り、断熱等級を今まで以上に意識し、焦り出す工務店が多くなってくることが予測される現状の中で、どれだけ先回りして自社の商材を用いて、これらの課題解決に結び付けていく事ができるのか。このあたりを抑えて頂く事で、多くの工務店に選ばれるツールになっていく事ができるのではないでしょうか。
今回の情報が、皆様の展開している事業や手がけるプロダクトへの成長に貢献できていれば幸いです。

株式会社リブ・コンサルティング
住宅・不動産インダストリーグループ
マネージャー
篠原健太

出典
国土交通省「住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示制度におけるZEH水準を上回る等級について」
国土交通省「ZEH」とは
国土交通省「ネット・ゼロ・エネルギーハウスの推進に向けた取り組み」
一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会「HEAT20」

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