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Vol.41 こち亀

1976年から2016年の40年間の連載。
単一のコンテンツが長期にわたって人気を維持するには、それぞれの時代に合わせながらもコアとなるテーマなりテイストに強い独自性があることが重要です。ローリング・ストーンズにも通じるものがあるように思います。

より広く知られるようになったアニメ版や実写版では主人公両津勘吉のダイナミックな破天荒さが作品の軸になっていますが、オリジナルの漫画版にはもう一つの側面がありました。
それは(それぞれの時代での)カルチャーへのマニアックで深い関心であり、いわばサブカルチャー情報を一般に発信するマンガという位置づけでした。

作者の秋本治はホビーを中心とする趣味の世界やその時代の流行に強い好奇心を持った人で、そういった個人的嗜好を作品の中に散りばめることで本人も飽きない制作活動を続けていたように思います。
日常のドタバタを描いているだけでは、それがどれだけアイデアに富んでいてもいつか読者のみならず制作サイドも行き詰まってしまうものです(アニメの方はいつの間にか終わりました)。

本来の意図ではないと思いますが、こち亀のテーマはギャグマンガという作品媒体を徹してその時代のカルチャーを描いていたわけで、読者の多くもその部分に惹かれていたのだと思います。

90年代以降のパソコンとインターネットの成長、ゲームやオタクカルチャーの世界的な流行などもいち早く捉えて作品のテーマとしていました。後の時代になって「予言」のように言われていますが、それはただ単に流行の兆しをいち早くつかむマニア的嗜好によるものだったわけで、これこそまさにこの作品の特性なのだと思います。

70年代の初期こち亀に描かれるそういったマニアックな部分は当時の少年たちの心もつかみました。
ミリタリー関連やモデルガン、バイクやスポーツカーなどのディテールがときにはストーリーと関係ない部分で描かかれ、そんな情報は当時の少年たちにとってとても魅力的でした。大人の趣味のかっこよさを強く感じたものです。

戦後の高度経済成長期の便利な生活への憧れ(マイカーや家電製品など購買意欲)が一段落して、文化や趣味の世界に人々の興味が移り始めた時代が生んだ作品だと思います。
70年代に少年期を過ごした世代はモノへのこだわりやマニアックな嗜好を持っている傾向があるのですが、こち亀がそのバックグラウンドの一つであることは間違いないでしょう。

ぼくもこち亀に描かれる「お兄さんの世界」にあこがれて、小学生の時に意味もわからずアグネス・ラムのポスター(もちろん水着ですよ)を部屋に貼ったことがあります。
それがかっこいいと思ったんです。本当です。


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