ヘルムヘルメツホウサクロウ
滲んだ宵で。
先輩は学校の制服のまま信号機に腰かけ、口笛を吹いた。
沈む陽。
夜になるのを眺めていた。
スカートから白い肢が伸びていた。
俺は横になってそれを見上げた。
下着が見えそうで顔を顰めた。
「静かだね」
先輩の声で俺は体を起こした。
目先に映る街並みのどこにも人はいなかった。
もう2時間経つ。
焼べられた宵。燻ってもう闇。
「上手くやれますかね」
「何が?」
「俺です」
「知らない」
「知らないって」
「失敗したらまあ、死ぬんだよ」
先輩は双眼鏡を覗いた。
「来てる」
「本当ですか?」
俺も鞄から双眼鏡を取り出すと道路の先を覗いた。
歩み寄る人影があった。
「『兜憑き』視認。数分以内に気づくよ」
薄汚い甲冑兜を被った目標が歩み寄っていた。体躯150㎝程度。精緻には152cm。
「準備します」
「いけるかな」
先輩は頭を掻き俺を見た。いい気はしなかった。
「やれます」
「八面体の肉とモルヒネ混ぜたやつ、食べた?」
「食べました」
「じゃ、鞄持って。早く」
「いつでも大丈夫です。"任務の遂行に当方の...”」
「心得はキャンセル。いいから鞄。出して。被って」
「先輩は?」
「無線。聞き逃さない」
ドゥン、と削岩のような音がした。見えた先に粉塵が舞った。
銀行が瓦解した。
「自分の妹なんだよ、わかってるね?」
「分かってます」
分かってはいなかった。
「――気づかれた、走ってくる。数分から15秒に訂正。ほら、右。逃げて。早く着装して」
俺は鞄を担いで区民館の方へ向かった。
貫く高音が聞こえた。
瞬時にそれは俺の足元で閃光となって見えた。
俺の脹脛は吹き飛び、遅れて痛みがやってきた。
「馬鹿、早く」
分離した自分の足首を見ながら、俺は呼吸を荒げた。
噴き出す様に膝先から血。
叫ぼうとした矢先、俺は頭を地面に打って倒れた。
「相手は自分を神だと思ってる」
一瞬の暗転の後、馬乗りした先輩が俺を見ていた。
「貴方は自分を何だと思ってる?」
「俺?」
「遅い」
【続く】
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