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追悼・ガバメントクラウド

行き詰っても説明しないデジタル庁

 次号の『首長マガジン』で首長の皆さんには警鐘を鳴らそうとしていたのですが、ガバメントクラウドが遂に行き詰まった模様です。先を越されてしまいました。

 昨日(8月5日)アップされた河野太郎デジタル大臣の記者会見を読む限り、記者の質疑に対して大臣の応答は「誤解だ」「方針は以前から何ら変わったことはない」というにべもない答えの繰り返しでした。

 しかし、記者側はおそらく自治体や事業者の現場からの不安や悲痛な声を受けて大臣に伝えているのですが、大臣の答えは木で鼻を括ったようなものだったのは、デジタル庁が現場を知らないか知っていて大臣に情報を上げていないかのどちらかだからでしょう。

 記者が、デジタル庁がデータ連携の標準仕様書の詳細について決められなければ連携できない自治体も出てくるが、それなら何のために令和7年度末の標準化を目指すのかと聞くと、大臣は、最初に質問の意図がわからないと記者に噛ましておいて、データ連携はこれまでも事業者の知見を生かす競争領域としており特に何か変更したものではない、という乾いたはぐらかしの答えを重ねていました。

 しかし、記者の質問の元となった7月31日の「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化に関する共通機能等課題検討会」の議事要旨や資料をちゃんと見ると、その実態はまた違ってきます。記者もそれを読み込んでの質問だったはずです。

標準化放棄宣言=ギブアップ宣言

 そこに書かれていた事実は、「最新フラグ」と「履歴番号」についてデジタル庁では統一見解を示さないので、それぞれの事業者間で協議しながらやってくれというものでした。つまり、これはデータ連携の標準仕様書の詳細は期日までにできなかった、という標準化放棄宣言、すなわちギブアップ宣言なのです。

課題の対応方針

 しかも、事業者間協議で結論が出ない場合は、その判断が自治体に丸投げされる自治体への責任押し付けの構図となっています。専門家であるベンダー同士の協議不調を素人の自治体が捌く恐ろしい構図がそこには現出することになります。

 一方、事業者間で協議をすると言っても、それぞれの事業者は自分の社で責任を取りたくないから、統一を図るために積極的な旗振りをするところはないに違いありません。その結果、できてくるシステムは中途半端なものとなる恐れがあります。結局は標準化ではなく自治体ごとのカスタマイズ対応となるのです。

 また、令和7年度の対応はそれでなんとか乗りきれたとしても、令和8年度以降には、今度は改めてデジタル庁から標準仕様書の詳細が示されることとされているようなので、そこからはさらにデータ修正が必要となるという二度手間となるようです。

 その結果として、導入費用がどんどん膨れ上がっていくことになります。全体設計ができていないのに多数の事業者がそれぞれのサービスを持ち寄って協議しながら自治体ごとにシステムを作ることは標準化から最も遠いものとなりますが、これは本当に標準化なのでしょうか。

 しかも、それでようやく自治体ごとに事業者間協議を調整して統一したものには、改めて令和8年度以降にデジタル庁が介入して、標準仕様書の詳細を提示して全国でシステムを統一に取りかかるとすると、どれだけ税金を無駄遣いすることにつながるのかは今から想像もつきません。

事業者間協議により解決を図る背景

 それらの作業に従事する自治体のデジタル担当職員、契約担当職員、事業者の従業員は、本来なら別の作業ができたかもしれませんし、接ぎ木のように作られるシステムの導入費やメンテナンス費が自治体財政に与えるインパクトも小さなものではありません。

 先ほどは中途半端なシステムになるかもしれないとしましたが、たとえ中途半端だとしても、協議のなかでは恐らく最も力のある事業者のシステムに合わせていくことになるでしょうから、地域にある例えば福祉系のシステムを扱ってくれているような小さな事業者は、大手のシステムに対応できずに行き詰まるかもしれません

 作業逼迫で、もしかしたら自治体職員にも事業者従業員にも退職者、休職者が出てくる可能性もあります。デジタル庁は行政的なロジを考えることのない民間副業人材に権限を与えているので、適当にぶち上げた方針の皺寄せはすべて現場に押しつけられます。これは首長にとっては目の前に投げられた時限爆弾なのです。

 鳴り物入りで作られたデジタル庁が省庁の腰掛けと企業の副業人材のたまり場となり、権限だけは強いものの誰も責任を取らないとなると現場にとっては大変なことです。標準化をするという方針だけはぶち上げておいて、「現在開発しているシステムへの影響や手戻りを懸念した履歴番号や最新フラグの設定方法を統一しないほうがよいという事業者からの意見」を踏まえて標準仕様書の詳細を出さないとしているところなどは、まさに責任回避そのものです。しかも、手戻りを懸念して今は統一しないとしていますが、それがそのまま令和8年度以降に提示される標準仕様書の詳細に基づいて作業するとなれば、それが手戻りそのものであることは小学生にでもわかるはずです。

最新フラグ及び履歴番号に関する課題感・事業者意見の共有

これから行き詰まる自治体

 極め付けは2点あり、ひとつは事業者間協議は次回の検討会を待たずに開始してほしいとしている点です。これは自治体に言っているのが事業者に言っているのかオブザーバーの各省庁に言っているのかまったくわかりません。デジタル庁としては書いておいたので責任はありませんと宣言しているかのようです。

今後の進め方

 また、もう1点は9月以降の具体的なスケジュールは今後検討としていることです。さらにふざけたことに、ここまでの惨状を呈しておきながら、方針の自治体への周知はタイミングを含めて検討したいとまったくの他人事であるところは押さえておく必要があるでしょう。鼻から当事者である自治体にていねいに説明する気もなく、これもデジタル庁のHPにこっそり載せておいただけなのです。

質疑応答の自治体周知は今後検討部分

 データ連携のような基本となる部分は、標準化においては競争領域ではなく協調領域のはずですが、大臣自身が競争領域だと言いきってしまっているので、その結果として、小さな事業者たちが頭を突き合わせて「そこは御社のシステムで」「いやいや御社の方が」と競争にならない生温い事業者間協議を重ねて中途半端なシステムができあがる、という極めて日本的な無駄が生じるものと思われます。

 デジタル庁が示している「『地方公共団体情報システム共通機能標準仕様書』に関するリファレンス」ではAPI認可サーバを自治体内で原則1台とすると示しておきながら、標準仕様を示さないというのも理解できませんし、お手上げとなり投げ出したと批判されても仕方ないでしょう。実際に「コンサル臭がすると思ったらやはりコンサルだった」とか「IT技術者揃えるより法律家を揃えろ」、「一番大事なところを民間に投げるなら存在意義がない」などと批判がなされています。

API認可サーバの設置は自治体内で原則1台とする方針

 何のために標準化をするのかという理念を問われて質問の意図がわからないと逃げる大臣で本当にデジタルガバメントは大丈夫なのでしょうか。標準化仕様がまとめられなかったのに納期の方は動かさず、とりあえず事業者間協議で適当にシステムをつくれとしたその結果は、メンテナンス費用で将来の自治体財政に大きな負担をかけることになります。ただし、現年度でたちまち財政負担が生じるわけではありません。とりあえずは令和8年度においても手戻り予算が必要になるということを頭の片隅に置いておいてください。なぜなら議会へのこの訳のわからないデジタル庁の無責任な対応の説明が大変になることが予想されるからです。

デジタル改革関連法案準備室の立ち上げ式で、記念撮影の中央の位置を
平井卓也デジタル改革担当相に譲る菅義偉首相(2020年9月30日 産経新聞)

 さて、何のためのデジタルガバメントなのか、未来のために働く首長のみなさんは自らに問い続けなければならなくなりましたよね。

地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化に関する共通機能等課題検討会(第1回)

概要
日時:令和6年(2024年)6月26日(水)11時00分から12時00分まで
場所:オンライン会議
   (中略)
議事要旨
構成員が所属する特定の企業等に係る事例に言及する等、特定の企業及び構成員等に不利益を被る可能性があることから、議事要旨として公開する。
資料説明
デジタル庁より、データ連携に関する課題の解決方針や共通機能等課題検討会の役割及び今後のスケジュールについて説明を行った。説明内容の概要については以下のとおり。
・標準化期限である令和7年度末までの安全なシステム移行を実現するため、競争領域としてきた、共通機能標準仕様書やデータ要件・連携要件の標準仕様書に記載されていないデータ連携に関する事項は、従来とおり事業者間協議にて解決を行うこととする。なお、標準仕様書等の詳細化は、令和7年度末の標準化移行の状況を踏まえ、令和8年度以降に検討することとする。
・事業者間協議に当たっては、これまで事業者が保有する経験や知識を活かし、業務特性に応じた柔軟な解決が可能であること、また、現在開発しているシステムへの影響や手戻りを懸念した履歴番号や最新フラグの設定方法を統一しないほうがよいという事業者からの意見も踏まえ、今回の方針を提示した。
・共通機能等課題検討会は、事業者間で協議すべき事項や事業者間協議の先行事例の共有を行う場として活用し、デジタル庁は事業者間協議が円滑に進むよう支援する。
質疑及び意見
出席者の主な質疑及び意見等は、以下のとおり。
・構成員 :事業者間の認識齟齬を防ぐため、最新フラグや履歴番号の設定方法に関するリファレンス等を提示できないか。
・構成員 :令和8年度以降に詳細化された仕様に関する適合の考え方はいかがか。
・事務局 :令和8年度以降の詳細化に向けては、まずは情報収集が必要。詳細化された仕様に応じて、いつ適合させる必要があるかについても、事業者及び自治体に意見を聞き取った上で、検討したい。
・オブザーバ :事業者間協議については、SIerや現場の適用事業者が現場ごとに協議するのではなく、各パッケージ開発事業者間の協議と位置づけて、連携が必要なパッケージ事業者とその連携内容を洗い出した上で、協議を開始できればと考える。
・構成員 :事業者間協議の対象について、どのように考えるべきか。
・事務局 :共通機能標準仕様書やデータ要件・連携要件の標準仕様書に記載されていない項目のうちパッケージリリースにあたって必要と考えられるものについては、事業者間協議により調整していただきたい。
・構成員 :事業者間協議による調整が困難になった場合の最終判断は誰が実施する想定か
・構成員 :事業者間協議により、標準化移行が間に合わないケースでは、移行困難とすべきか。
・構成員 :地方自治体に対して方針の周知を検討いただきたい
・事務局 :調整が困難な場合には、基本的には、当該パッケージを利用する自治体の判断が必要と考えられる。仮に、移行困難のメルクマールに該当する場合は、市町村を通じて申請していただくことが想定される。なお、自治体へ周知については、タイミング含め検討したい

河野デジタル大臣記者会見要旨

(令和6年8月2日(金)10時25分から10時53分まで 於:オンライン)
1. 発言要旨
   (略)
2. 質疑応答
(問) 自治体システム標準化について、標準化の目的の一つはデータ連携で、それについて仕様をデジタル庁が作成されていたかと思うのですけれど、7月31日に公開された検討会資料と議事要旨で、データ連携に関する課題は、デジタル庁が方針などを示すのではなく、事業者間協議によって解決を行ってくださいと方針を出されたかと思うのですが、これについて自治体の方や事業者の方たちから非常に遺憾の声、デジタル庁は仕様書の作成を放棄したのではないか、という声がありまして、これについて大臣からコメントをいただくことは可能でしょうか。
(答) 誤解だと思います。標準準拠システムの間の連携につきましては、標準仕様書を出していますが、このデータの持ち方の具体的な部分はこれまでも競争領域として、それぞれの事業者に委ねてきております。その方針は以前から何ら変わったことはありません。6月26日の検討会では、2025年度末までの円滑なシステム移行を達成するためにどうするかというご意見を伺って、データ連携に関する課題は、事業者それぞれの経験や知見を生かして、これまでどおり事業者間で協議して解決するという方針をそのまま継続するということをお示しいたしました。現段階でデジタル庁が詳細な連携仕様などを示すと、開発に手戻りが生じるなどの意見が一部からも出されております。最終的に揉め事があったり、うまく調整ができないという場合には、デジタル庁が前に出て調整するということで、それについても特に変わりはございません。
(問) そもそも事業者間の利害関係が異なるような、事業者同士で調整が難しいので国が仕様書を策定したり方針を示したりするという認識をしていたのですけれど、今後の事業者間協議でその辺の調整がつかない場合は、デジタル庁がやはり方針を出されるということも残しているという理解でよろしいでしょうか。
(答) デジタル庁がそういう場合は間に入ってコミットするということで、今までもそう申し上げてきておりますので、6月26日で何か変わったことがあるとは思っておりません
(問) 関連して、標準書の詳細化については、令和8年度以降にデジタル庁で検討されるということですが、そうしますと7年度末で一旦移行したものについて、8年度以降で手戻りが発生して開発のし直しや移行が発生するかと思います。令和7年度以降の具体的なスケジュールや計画はまだ出ていないかと思いますが、公表予定はございますでしょうか。
(答) 今までと何か変わったということはありません。
 データ連携の話について、2025年度末は事業者間で持ち方の協議はしてくださいということをお願いしております。それ以降、その次の2020年代末に向けてどうするかというときに、今、事業者間で協議をしてくださいと言っている部分を見直す余地がその次の段階ではあるかどうかということは検討しますよ、ということです。2025年度末の標準化対応について、何か今までと方針が変わったということはありません
   (中略)
(問) 自治体の標準化について、データ連携についてデジタル庁が決められないということは、連携できないところもあると思いますが、ではなぜ2025年度末に何のために標準化を目指すのか、改めて説明いただけないでしょうか。
(答) ご質問の意図がよく分かりませんが、データ連携の部分、データの持ち方のところは、それぞれの事業者のこれまでの知見を生かして実施してくださいという競争領域に今までもしておりましたので、特に何か変更したということはございません。2025年度末までのシステム移行というのは、よほどの事情で後ろ倒しになる自治体はいくつかあると思いますが、そこについて何ら変わりはございません。
(問) データ連携はできないということですね、標準化しても。
(答) どのようにシステム内でデータを持つかというのは、これまでも事業者それぞれやってくださいということにしておりましたので、何か変わったということではありません
(問) データ連携ができないという事態は想定していないということでしょうか。
(答) 何か協議がうまくいかない、調整がうまくいかないときはデジタル庁がコミットして事業者間で進めていただくというのは、これまでもそういうようにしておりました。先ほど6月26日の検討会でという話がありましたが、特に検討会で何か変わったということでもございません。
   (以下略)

(『首長マガジン』発行人谷畑英吾 2024年8月6日記)

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