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首長が最前線に立たない限り世の中はもう良くならない(選挙の神様・藤川晋之助氏インタビュー前編)

わが国政界の表も裏も知り尽くす選挙の神様

藤川晋之助さん。1953年生まれ。自由民主党旧田中派代議士秘書から大阪市議会議員(2期)。旧民主党、みんなの党、減税日本、東京維新の会などで選挙参謀を務め、143選挙で130勝13敗と勝率9割を誇る選挙の神様。2024年7月7日に執行された東京都知事選挙で前広島県安芸高田市長の石丸伸二候補陣営の選挙でも選挙対策事務局長を務めた。今の危機的な日本を建て直すためには、既存の国政政治家では間に合わず、首長がそれを代替しなければならないという結論に至ったその思想的背景と特徴的な選挙戦略を2回にわたって深掘りします。

選挙の神様に訊く首長選挙の奥義

-藤川さんは、「選挙の神様」と言われるほどたくさんの選挙を仕切って来られました。首長の選挙もたくさん手掛けておられます。

藤川 人生を振り返ってみますとほぼ選挙で始まり選挙で終わってる人生で、今まで143回選挙を請け負って13回負けて130回勝ってるんですけど、達成感があるのは首長選挙ですね。首長選挙の基本は、確実にどう構図が作れるかなんです。3人4人となる場合もありますが、基本は一対一が多いです。衆議院の一対一とは違って、首長選挙は市民の様々な利害が切実に反映してきます。だから選挙プランナーや選挙参謀という立場で言うと、政策も作りやすいし、勝ち負けに関しては首長選挙の方がやりがいがあります。
 首長選挙は陣地取りみたいなもので、現職派かあるいは新人でもA派B派で分かれたときに、A派B派がどういう人脈を持っているかということでは、選挙って人生の棚卸みたいなものなんです。例えば、あなたは〇〇大学出てましたがそのネットワークはないか、〇〇商社に勤めたそのネットワークはないか、あるいは〇〇小学校、〇〇中学校、海外のここに留学してました、そういう全ての経験値。例えば、九州の佐賀県出身の人なら「佐賀人を集めろ!」となる。そういう人生の棚卸をどれだけ真剣にやるかなんです。それを個人でやろうと思っても難しいので、まず我々プロが聞き取って、その人個人の関わりだけでなく、キーワードが佐賀県出身なら佐賀県の関係者をどんどん調べていくと、全然面識はなくても日本人は不思議なもので県民意識をすごく持ってる。「俺は佐賀県だが、あの市長候補も佐賀県か」ってなる。
 あるいは、例えば某大学は埼玉県だけでもOBが5万人ぐらいいます。だから1万票くらい簡単に動くんです。その交友会や後援会の会長のところへ行くと、「うーん、そいつは何大学なんだ?」「中央大学です」「わかった。じゃあ、この間だけうちの大学の通信教育課程に入れろ。そしたら卒業しなくてもいいから、同窓生だということにしてオレが声をかける」となる。人生の棚卸ってものすごく大事です。だから、あなたの人生は何だったんだと、30年なり40年なり50年なり、旅が好きだとか写真が好きだとか何でもいいんですが、どんな細かいことでもグァーって集めていくんです。それを我々が解析してネットワークをどんどん作っていく。
 次に、政党をどう付けるか。そのときの流れによって政党を付ける場合と無所属で戦う場合と両方あるわけです。今回は無所属がいいですよということも含めた戦略、骨格を考えていく。
 同時に、首長は地域で見たらお父さんみたいなもんで、選挙では信頼感がものすごく大事。経歴も活動歴も、この人だったら何か頼りになるなという漠然とした印象、ぱっと見た瞬間に「この人なんか信頼できそうだな」っていうものをどう演出するか。正直言って、普通に頼みに来られる人って、元々そういうものを兼ね備えていない人が多いんです。そこを兼ね備えられるように仕組んでいくのがプロなんですよ。そこまでみんな真剣に考えないですがね。

-簡単に「1回首長をやってみたいな」とか。

藤川 そうなんですよ。首長は責任のある重い仕事です。業績がはっきりわかるじゃないですか。議員なんて遊んでたって議員ですよ。だから、首長から見たら役に立たない議員がいっぱいいます。
 僕は昔、自民党の秘書をやっていて、当時は首長と例えば建設省の役人を呼んで、担当の予算を付けてもらうためによく料理屋で接待して、ときには芸者を上げたりするわけですね、首長も交際費持ってましたし。

-当時はですね。

藤川 官官接待をやるじゃないですか。そのとき役人と首長は何を喋るか。役人から「我々も大したことないが、地方の役人は質が低いよね」っていう話がまずあって、首長からは「いやいやそれよりも頭が痛いのは議員たちです。お正月の正夢として全員が死んじゃったらどんなに楽になるか」って悩みをお互いに言い合うのを僕らが聞いてるわけです。一方で議員にもお世話になってるから「そこの首長はこう思っているよ」とは言えないじゃないですか。行政と議会の二元代表制の難しさを痛感するわけです。昔はイデオロギーが違っても首長がみんなをヨイショしてまとまってる方が多かったのに、今はいわゆる日本的な意味での根回しがどんどん薄れてギスギスした社会になってきた。

-SNSで全部暴露してしまいます。

藤川 そうなんです。ギスギスしていくもんだから、大した問題でもないはずなのに、それで揉めちゃう場合が多くなってきている。首長の役割は今まで以上に神経も使うし大変なわけです。選挙のときはある意味で誇大広告をしているじゃないですか。そこで当選していくと、どこかに嘘があったり隙間があったら追及されるわけです。そういう厳しさもあるけれども、首長というのは責任ある仕事だから面白い。
 選挙に出るとなったら、駅前に立ったり活動したりというよりも、まず、あなたは何のために首長になるんだというコンセプトを1ヶ月ぐらい家に閉じこもって、うーんと唸りながら、あるいは街を端から端まで歩いて、どこに神社があってどこに川が流れてて、どこでいつも災害が起きるかも含めてぐるぐる回ってとにかくしらみつぶしに調べる。そして自分のコンセプトをいくつかはっきりとさせていく。それが明確になった人と明確になってない人は演説の内容も含めて迫力が違う。

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